ビル売却、その後アート作品はどこへ行く?:電通などオフィスビルの売却報道が相次ぐ

新型コロナウイルスの影響でリモートワーク制度が広まったことにより、企業が自社ビルを手放すケースが増えている。そうしたビルの中には、敷地内にアート作品を恒久展示している事例もあることをご存知だろうか? 作品は主に、企業がアーティストによる既存の作品を購入したケース、あるいは企業のためにアーティストが制作したコミッション・ワークの2パターン。

電通グループ本社ビルにて、ジュリアン・オピー《歩いて仕事に行く夢を見た。》(2002) 撮影:編集部

ビル内に作品が点在するケースのひとつが、一部報道で自社ビルの売却が報じられている、東京・汐留の電通グループ本社ビル。じつは、電通グループの本社ビル内にはオノ・ヨーコ、オラファー・エリアソン、ブライアン・イーノ、蔡國強、坂本龍一、中西夏之、横尾忠則といったアーティストによるアート作品が展示されている。多くの作品はセキュリティゲート内にあるため、主に作品を目にするのは従業員や関係者のみだが、ジュリアン・オピーの作品は誰でも外からもその様子を見ることができるためその存在は広く知られている。また、電通本社ビル地下2階「カレッタプラザ」内の蔡國強《亀の噴水》、薮内佐斗司《朝霧童子/日輪坊》、46階(カレッタ汐留)にある関根伸夫《豊穣の海/The Fertile Sea》も、誰もが見ることのできるパブリック・アートだ。

では、ビルが売却された場合、アート作品はどこへ行き、誰のものになるのだろうか? 1月下旬時点で電通に問い合わせたところ回答が得られなかったため、今後増えていくであろうビル売却とアート作品のゆくえを予習するために、Tokyo Art Beatが調査と推測を行った。

ビルと作品はそれぞれ異なる所有者に

まず、自身もアートコレクターであり、アートに関する法務を多く引き受ける弁護士は次のように推測する。「もし電通本社ビルの売却が本当に行われるとしたら、アート作品が複数設置されたこれほどの規模での自社ビルの売却はめったにないことです。国内でも前例は多くないように思いますが、ビルと作品はそれぞれ異なる所有者に売却されることになるのではないでしょうか?」

パブリック・アートとして親しまれ、移動が難しい噴水や彫刻などについては、「所有権についてはビルと別に取引することも可能なので、ビルの売主とビルの買主がどのように合意するかによることになるかと思います。多いケースとしては建物とほぼ一体の作品については建物に作品価格を上乗せしたうえで、ビルの買主がまとめて購入し、移動が容易な作品については別の買主に売却すること。どちらかというと“こうしなければならない”という法律上のルールはないので合意次第になるかと思います」と推測する。

電通本社ビル地下2階のカレッタプラザ。手前に見えるのが蔡國強《亀の噴水》 出典:Wikimedia Commons(Wing1990hk)

作品が不当に扱われないよう、大切に引き継がれていくために

これまで見慣れていた作品が施設売却によってまったく異なる場所に移動することもあるということ。これは、電通ビルだけではなく、民間の施設や広場などでも同じことが言える。

「作品の売却時に何も特約を決めておかなかった場合、法律上は、作品の所有者が自由に作品を売却したり、展示方法を変更することが可能になります。サイトスペシフィックなアート作品を売却する際には、本件のように所有者が変わる場合や展示構成に変更が生じる場合には作家の意向を反映できるようにあらかじめ契約で定めておくことが重要になります」。

ただ、法律や契約では白黒つけることが可能でも、自身の作品がこれまでの場所を離れるということで、現存するアーティストにはさまざまな心情が生じるもの。アート作品と企業をつなぐコーディネーションを行う都内のギャラリースタッフは次のように話す。「私たちの仕事は、作品をビルに納めて終わりではない。作品や作家を守るということが私たちの仕事でもあるので、作品の設置状態が劇的に変わったり、改変が行われたりなど不当に扱われないよう、大切に引き継がれていくことを願います」。

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