【おんなの目】 連れて行っちゃった

 良いお日和の日、窓をいっぱいに開いて、『赤井宏之詩集』の“君と”を読んでいた。詩の中の君は恋人で、二人で京都を歩いているもんだとばかり思っていた。少し羨んで読んでいると、最終の六行でこうきた。

“六十五過ぎた僕、四十五の君と京都を歩く/一万五千歩以上、綺麗な君と京都を歩く/お互い好きでよかった…/歩くことがね/そだねー、三十年以上の付き合いになるね”

 うふふ、歩くことが好きなのね。ニタリと笑ったら、目の前に小さな虫が飛んで来た。一センチくらいの蜂を小型にしたような虫。丈夫そうな羽を懸命に震わせている。小さい体なのに羽音は大きい。幼稚園の年少さんみたい。顔の前でホバリングする。

−僕、飛べるんだよ。ほらね。

 私が息吹きかければ飛ばされそうなのに、イキガッテ飛んでいる。

−立派な羽ね。上手に飛べるのね。

 今度は大きい二センチくらいの同じ虫が飛んで来た。太陽を受けて金色に光る羽をブンブンいわせている。こちらは小学四年生くらいの腕白坊主。小さい虫に寄り添った瞬間、さっと窓から二匹とも出て行った。

−もう帰る時間だよ。さあ行こう。

 兄さんが弟を迎えに来たのだろうか。連れて行っちゃった。

−蜘蛛の巣に気をつけて。さよなら。

 今日は良いお日和で。

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