九州で移住者数1位!コロナ禍の地方移住に霧島市がズバ抜けている理由とは

新型コロナウイルス感染拡大でリモートワークする人が増える中、都心部で暮らし、通勤する必然性も薄れつつあります。そんななかで見直されているのが「地方移住」です。

地価が高く、自然環境が少ない都心部で暮らすよりも、自然豊かな地方で暮らすほうが合理的で豊かな人生を送ることができると、地方移住を実行する人は年々増えています。全国の移住地の中でも、抜きん出て人気があるのが鹿児島県霧島市です。

同市に移住する人は年々増加しており、一時は「九州エリアの移住1位」にもなりました。市全体の人口は減少傾向にある一方、2019年以降は他エリアからの移住者が、162人(2018年)から243人(2019年)と1.5倍以上にも増加しています。

これだけ増えている大きな理由は、利便性や自然環境の豊かさに加え、他の地域に比べ、自治体の補助(移住体験、移住者への補助)などの受け入れ体制が手厚い点にあるようです。今回は現地を訪ね、どんなところが地方移住者に優しく、ひいてはコロナ禍および「新しい生活様式」に適しているのかを見てきました。


最短で東京から100分、大阪から70分

霧島市は人口12万人強の市で、市内には鹿児島空港があります。山に囲まれ、海にも面しているのに自然災害も少なく、他地域と比較しても年間を通しての寒暖差もそれほど激しくありません。余談ですが、風光明媚でありながら過ごしやすいこの霧島市を、かつて坂本龍馬は妻・おりょうと新婚旅行で訪れ26日間も滞在。現在は、「日本最初の新婚旅行の地」として知られています。

面積は603.16平方キロメートルと、取り立てて広大というわけではないものの、山・海を有し、自然由来の様々な資源もあります。各地を巡る前に霧島市役所の担当者に概要を聞きました。

――市の概要と、近年、移住者が増加している状況を教えてください。

霧島市役所・担当者: 霧島市は、県内では鹿児島市に次いで2番目の人口を有する市です。薩摩地方と大隅地方、宮崎県を結ぶ交通の要所で、国道・鉄道などの交通手段が比較的古くから発達、鹿児島空港も霧島市内にあります。このおかげで最短で東京から100分、大阪から70分での移動が可能です。この利便性の良さで、1960年代から今日まで誘致企業や自衛隊が進出しました。

一方、宮崎県との境にある霧島連峰が火山群であることで温泉が数多くあり、また年間を通して比較的温暖なことから地域で育った野菜はもちろん、農作物・食肉・麹・酒なども豊富です。

これらも移住者が増えている大きな理由ではありますが、霧島市が他の自治体に先駆け、平成18年より移住体験研修を実施してきていることも理由の一つです。この取り組みを行ったのは霧島市の人口減少が大きく影響しており、移住者はもちろん、Uターン者を招き入れたい狙いがありました。また、令和元年からは移住支援金制度を設け、移住者の間口をこれまで以上に広げているのが今の状況です」

災害の心配は?

――ただ、実際に「移住」となると、それなりにハードルが高いようにも思います。自然災害はもちろん、仕事、医療、居住などを心配する声は多そうですが。

同: よく言われるのが桜島の噴火への心配です。桜島はたびたび爆発していますが、桜島の火山灰は立地上、夏場は西に吹き、冬場は東に吹きます。霧島市は、桜島の北側に位置するため、仮に爆発が起きても火山灰の影響はほぼないと言えます。

また、誘致企業が多いので求人も多く、医療環境も整っています。「子ども医療費助成制度」では、未就学児は全額無料。義務教育中は月額2千円以上を超えた分を全額市が負担します。

ただ、移住者・移住希望者の方から『山の中での一軒家で暮らしたい』『お庭で家庭菜園をしながら暮らしたい』といった相談をよく受けますが、こういった『田舎暮らし』に向いた物件は意外と少ないです。まずは市街地にアパートなどを借り、腰を据えて理想の物件を見つけていく必要があると思います」

霧島市の「黒」にまつわる食材

霧島市役所の方に話を聞いた上で、次に霧島市の魅力を探るため各地を巡ってみることにしました。まずは食から。

霧島市の象徴的な景色としてもたびたび紹介される、無数にある黒酢の壺。霧島市の業者としては最古の「坂元醸造」という業者が行なっているもので、壺による黒酢造りは世界でも類を見ない霧島市福山エリア独特のものだそうです。

1800年頃から始まった壺による黒酢製造

「坂元醸造」の担当者の方に話を聞くと、原料は米麹、蒸米、地下水の3つのみだそうですが、これを壺に入れ、霧島市福山エリアの恵まれた陽光を浴びることで深い味わいの黒酢が誕生するようです。

「伝統的な製法を守りながら、この地だけの黒酢造りを行なっています。その背景には、霧島市福山の気候風土の良さに感謝する気持ちが強いです。短時間で造る技術もありますが、あえてここでしかできない黒酢造りにこだわっています」(担当者)

「坂元醸造」の黒酢は、酸味だけでなく甘味もあり奥深い味わいでした。

黒豚に黒毛和牛も

ところで、霧島市では「黒酢」だけでなく、「黒」にまつわる食材は他にもあり、「黒豚」「黒毛和牛」「黒さつま鶏」「黒にんにく」といったものも有名です。次に、行列必至という黒豚専門店「産直レストラン 黒豚の館」、鹿児島県産黒毛和牛および霧島市の食材にこだわる「焼肉厨房 わきもと」を巡りました。

「焼肉厨房 わきもと」の黒毛和牛

「産直レストラン 黒豚の館」の黒豚は、霧島山麓の湧水とさつまいもなどの飼料で育てられた「霧島高原純粋黒豚」という銘柄。ジューシーでありながらもくどくなく、地元での養豚ならではの新鮮な味でした。市内外からのお客さんで行列ができていました。

次に、鹿児島県産の黒毛和牛を使い、野菜や米などは全て霧島産の食材を採用しているという「焼肉厨房 わきもと」へ。50年の歴史を持つ同店からは、食を通じて、霧島市の素晴らしさを伝えたいという思いが強く伝わってきました。

「日本で最初にできた国立公園の一つ・国立公園霧島のエリア内にお店があるため、地元での新鮮な食材が入手しやすいです。この素晴らしい気候が産んだ肉類・野菜類をできる限りお安く、美味しく食べていただけるよう提供しています」(担当者)

赤身と霜降りのバランスが絶妙な黒毛和牛はもちろん、お米、野菜、卵といった霧島市の食材も美味で、都心部ではなかなか得られない至福の食事です。こういった食材を霧島市民および移住者の方々が日常的に口にしていると思うと、羨ましくなりました。

空港から温泉地までの近さは西日本一

霧島市内には温泉が湧き出ているスポットが点在

霧島市の食にまつわる名所を巡ったところで、次に温泉を訪ねることにしました。都心部での生活では慌ただしく風呂に入ることが多いですが、地方移住なら、日常的にゆったり温泉に浸かることができればより良いはずです。

しかし、霧島市の温泉地図を見て唖然としました。一口に「霧島市の温泉」と言っても、地図上には温泉が無数の点在しているため、どこを巡るべきかがわかりません。さらに調べると、鹿児島県は大分県に次ぎ、九州では源泉数が多い県とのこと。また、主要空港から温泉地までの距離が、西日本で一番近いのが霧島市と言われているそうです。

今年で105年目に入る温泉宿「清姫温泉」

「清姫温泉」は霧島市内を流れる天降川の清流両岸に広がる日当山温泉郷の一つ。古くから奥座敷として栄え、温泉宿のほか共同浴場や家族風呂(個室の公共風呂)も多いそうです。移住者にとって、銭湯代わりに共同浴場で温泉を楽しめるのはありがたいはずです。

「霧島市内の温泉は大別して4つあります。硫黄泉、単純泉、塩化物、それと清姫温泉のある日当山温泉郷のナトリウム炭酸水素塩泉。日当山温泉郷は半径1.5キロほどの圏内に、無数の温泉が湧き出ています。霧島市は移住者の方が多いですが、豊富な温泉に魅力を感じる方も多いのでは」(担当者)

良き焼酎は良き土から生まれ、良き土は良き農村にあり

さらに酒にまつわるスポットも豊富です。やはり鹿児島県と言えば「芋焼酎が美味しい」という先入観があります。

最初に向かったのは、焼酎作りはもちろん、味噌や醤油作りに欠かせない種麹製造業者として創業100年続く「河内源一郎商店」。全国の焼酎の酒蔵の80%がこちらの種麹を採用しているそうで、創業者の河内源一郎氏は「焼酎の父」とも呼ばれているようです。

ほかに、創業110年の歴史を持ち、創業時から変わらない伝統的なかめ壺によって焼酎作りを行う「霧島町蒸留所」も有名です。看板酒の「明るい農村」を筆頭に約20種の焼酎やリキュールが製造されています。

同社の訓示は「良き焼酎は、良き土から生まれ、良き土は、明るい農村にあり」。まさにこの霧島市の風土が名焼酎を作り出していると感じました。

自然豊かで過ごしやすそうな一方で…?

霧島市の魅力を十二分に感じられるスポットを巡り、自然豊かで極めて過ごしやすいエリアであることはよくわかりました。しかし、霧島市に移住し「改めて仕事をしながら生活をする」と、困ることはないのでしょうか。

良い風土の裏側には、住んでみないと気づくことができない大変さもあるかもしれません。次回は、実際に他地域より霧島市に移住された方、そして、霧島市内の山深いエリアで営業しているコワーキングスペースを訪ねてみます。お楽しみに!

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