コロナ鎖国で食糧難に苦しむ北朝鮮、旧正月の特別配給への期待消える

今年の旧正月は2月12日だ。アジアの他の国と同様、北朝鮮でも家族が集い、カードゲームや伝統的な遊びをしたり、家族連れで観光地を訪れたりするなど、それぞれに旧正月を楽しむ。

何よりの楽しみは、食卓を飾るめったにないごちそうだ。普段は機能を停止している配給システムだが、この日ばかりは稼働を一時再開し、肉や魚、酒などが配られるものだった。

ところが、今年の旧正月は例年と様子が違う。昨年来のコロナ鎖国で、1990年代後半に起きた未曾有の食糧危機「苦難の行軍」に比肩するほど食糧事情が切迫。国民は、ゆっくりと旧正月を楽しむこともできず、生きるのに必死な状況となっている。

デイリーNKの内部情報筋は、経済難により毎年の旧正月に行われていた食糧配給が今年は量がひどく減らされたり、全く行われなかったりする状況だと伝えている。

配給は通常、所属する単位(職場)を通じて行われる。朝鮮労働党、保衛部(秘密警察)、安全部(警察)、外貨稼ぎ機関など、カネと力を併せ持つ機関は、他の単位で働く人々が何ももらえない状況でも、小麦粉、食用油、肉類、酒などふんだんな配給を実施してきた。例えば、幹部には小麦粉、食用油、肉類、酒などが配られていた。

ところが、一昨年辺りから雲行きが怪しくなった。遅配や一時停止が増えたのだ。

そこに加えてのコロナ鎖国。今年は配給に全く期待できない状況となっている。

「今のところ、いかなる機関も名節供給(祝日の配給)などに気を使えずにいる。それほど経済状況がよくない」(情報筋)

配給物資の多くは中国からの輸入品で、国から供給されたものを、職員に配る形を取っている。昨年1月からのコロナ鎖国のせいで、輸出入がストップし、国も各機関も金庫の中身はすっからかん。資金調達ができないので物資の調達もできないという悪循環に陥っているわけだ。

北朝鮮は、「徳の高い指導者が人民を治める」という人徳政治(徳治主義)の国だ。北朝鮮でよく見られる「首領福」「将軍福」などのスローガンは、徳の高い指導者に国を治めてもらえることは、北朝鮮国民だけが享受できる僥倖であるという意味合いが込められている。その物質的な現れが配給であるため、当局もその質や量に相当気を使っていたが、もはやそんなことを考える余裕すらないようだ。

配給の面で特別扱いされていたのは首都・平壌の市民も同じだった。しかし昨年から遅配が始まり、その不満を抑えるために、昨年10月10日の朝鮮労働党創建75周年に、「30号対象」と呼ばれる市内中心部の6区域に住む住民に対して、豪華食品の配給が行われた。

ところが、「今年は平壌も名節供給を配ることを考えすらできない」(情報筋)状況となっている。また、市民も全く期待していないとのことだ。

「数日後にはまた光明星節(2月16日の金正日総書記の生誕記念日)がやって来るので、名節供給に関連する指針は全く下されていない」

個人経営の企業でも、コロナ前には小麦粉、砂糖、食糧油、肉類などが配給されていたが、今年は豚肉と焼酎だけで、旧正月の配給ではなく、光明星節の配給と呼んでいるとのことだ。

一方、国内有数の亜鉛鉱山、咸鏡南道(ハムギョンナムド)端川(タンチョン)市の検徳(コムドク)鉱山の労働党委員会は、住民に対して、コメ5日分、大豆2日分、ホッケ6匹の旧正月配給にこぎつけたと、現地の内部情報筋が伝えている。

新暦の正月にも配給が行われたが、新型コロナウイルス対策のソーシャル・ディスタンシングの影響で住民に中々行き渡らない状況が起きていたが、今回は数世帯から1人を選んで配給品を受け取らせて、地域で改めて分けるという方式を取っている。

その量は例年の半分以下。住民は「これで1ヶ月を耐え抜かなければならないのか」と泣いているとのことだ。飢えに苦しむ世帯が多く、鉱山で休憩中に配られる縦横15センチのパンを家に持ち帰り、家族に食べさせる労働者も少なくない状況だ。

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