東京メトロ完全民営化へ どうなる地下鉄新線プロジェクト 国交省有識者委員会で議論

東京メトロ有楽町線・副都心線の新鋭・17000系。有楽町線が延伸されれば、東武東上線発メトロ有楽町・半蔵門線経由東武スカイツリーライン行き列車が実現するかもです。 写真:鉄道チャンネル編集部

東京メトロが懸案だった完全民営化に向けて動き始めました。完全民営化とは政府が持つメトロ株を売却、株式市場に上場して完全な民間会社に生まれ変わることです。これだけなら話は簡単なのですが、実はメトロ株は東京都も保有し、小池百合子都知事はメトロ株の売却と東京の地下鉄新線プロジェクトをセットで考えるよう2020年12月、赤羽一嘉国土交通大臣に緊急要請しました。

これを受けて国土交通省は、東京圏の今後の地下鉄ネットワークを考える有識者委員会を立ち上げ、2021年1月22日に初会合をオンライン開催しました。これからのメトロがどうなるのか、そして地下鉄新線プロジェクトとは? 論点を極力かみ砕きながら、〝東京の地下鉄〟の針路を考えましょう。

新しい地下鉄は造りません!?

写真:鉄道チャンネル編集部

最近の鉄道チャンネルに、東京・須田町に「帝都高速度交通営団」と刻まれたマンホールの蓋があるというニュースが出ていました。そういえば少し前まで、銀座線や丸ノ内線は「営団地下鉄」なんて呼ばれていました。

帝都高速度交通営団の設立は、太平洋戦争開戦直前の1941年7月。営団は戦時体制に向け、東京地下鉄道、東京高速鉄道、京浜地下鉄道、東京市の営業路線と免許線の譲渡を受けた〝オール東京地下鉄〟の鉄道事業者でした。戦時中は小田急や京王が大東急に統合されましたが、基本の考え方は一緒です。

時は流れて1987年の国鉄民営化で誕生したJRグループが成功したので、政府は「次は営団地下鉄」と考えました。しかし、折からのバブル経済、さらにはバブル崩壊で早期の売却を見合わせ。2002年にようやく「東京地下鉄株式会社法」が成立し、2004年に東京メトロが設立されました。

この際の有価証券報告書には「東京メトロとしては、現在建設を進めている13号線(副都心線。当時の話で、2008年に開業済みです)を最後として、その後の新線建設を行わない方針」が明記されました。「メトロとして、新しい地下鉄は造りません」ということです。この点が、今回の議論に大きく関係してきます。

かいつまんでいえば、「巨額の費用を必要とする地下鉄の新線建設は、民間企業の東京メトロでは難しい。これからのメトロは、列車運行や既設路線の改良に専念します」ということ。なぜそうなるのかは、稿を改めたいと思います。

東京メトロは優良企業

東京メトロの収入構造。右のJR東日本と比較すると運輸業(鉄道事業)のウェイトが高いのが分かります。 画像:交通政策審議会

東京メトロのプロフィールは資本金581億円で、国が53.4%、東京都が46.6%を出資します。2019年度の営業収益4331億円、営業利益749億円。2020年度はコロナで変わりましたが、かなりの優良企業です。政府がメトロ株を売却すれば、証券市場で話題を呼ぶでしょう。

思い起こせば、10年ほど前にもメトロ株売却に加え、都営地下鉄との一元化が議論されたことがありました。メトロと都営を一本化すれば運賃は割安になりますが、政府は「経営成績はメトロの方が良く、都営と一緒にすると株式価値が下がってしまう」と難色を示したとされます。

その代わり、2つの地下鉄の接続向上が図られることになり、九段下駅ではメトロ半蔵門線と都営新宿線のホームを隔てていた壁を撤去して、改札を通らないで乗り換えられるようにしました。さらにメトロ、都営を乗り継ぐ場合の割引額が、70円に引き上げられました。

メトロ半蔵門線(左)と都営新宿線が並ぶ地下鉄九段下駅ホーム。2013年3月に両線のホーム壁が撤去され、2020年3月には駅改良で上層階を通るメトロ東西線との改札外乗り換えが解消されました。 写真:筆者撮影

メトロ株の売却益は復興財源に

話を先に進めましょう。メトロ株売却で国保有分は、使い道が決まっています。「復興財源確保法(略称)」という特別措置法で、東日本大震災復興債の償還費用に充てられることになっています。

細かい説明は省きますが、復興庁の設置期限は当初は2022年度までとされ、それまでにメトロ株を売却することになっていたのですが、法改正で2027年度末まで5年間延長。いずれにしても、政府分はいずれ売却されるので、売却益の使い道をもう一度考え直してほしいというのが、東京都の国交省への緊急要請の趣旨なのです。

メトロ有楽町線延伸でスカイツリーライン沿線から臨海部に直行!?

メトロ有楽町線延伸のイメージ 画像:交通政策審議会

最初に挙げた「地下鉄の新線プロジェクト」とは、①地下鉄8号線(メトロ有楽町線)豊洲~住吉間の延伸 ②都心部・臨海地域地下鉄構想 ③都心部・品川地下鉄構想――の3路線を指します。

プロジェクトを路線図とともに紹介すれば、有楽町線延伸は豊洲から北上して住吉で半蔵門線に接続させます。最近の豊洲は高層ビル群が建設されて発展が目立ち、メトロの2路線がつながれば東武スカイツリーライン沿線から臨海部へのアクセスが便利になります。国の資料では、「事業計画の検討は進んでおり、関係地方公共団体(東京都のこと)、鉄道事業者などで費用負担のあり方や事業主体の選定について合意形成を進めるべき」とされています。

つくばと臨海部が結ばれる

都心部・臨海地域地下鉄構想のイメージ。TXは「常磐新線」と表記されます。 画像:交通政策審議会

2番目の都心部・臨海地域地下鉄線は、秋葉原始発のつくばエクスプレス(TX)を東京駅まで延伸。そこから銀座を経て、臨海部に向かいます。東京駅から先は、TXとは別の事業者が運営します。

国の資料には「都心部・臨海地域地下鉄構想は構想段階であるため、関係地方公共団体などで事業計画について、十分な検討が行われることを期待」とあります。秋葉原―東京間が実線なのに、そこから先が点線なのはそのため。東京都は国交省の有識者委で、〝十分な検討が行われること〟を期待しているようです。

都心部・品川地下鉄構想のイメージ 画像:交通政策審議会

3番目の都心部・品川地下鉄構想は図の通り、白金高輪と品川を結ぶ地下鉄の新線というか枝線です。白金高輪にはメトロ南北線と都営三田線が乗り入れます。国の資料には「六本木などの都心部と、リニア中央新幹線始発駅の品川駅とのアクセス利便性が向上される」と整備意義が示されます(南北線が通るのは、六本木から少し離れた六本木一丁目ですが……)。

2つのメトロ線をつなぐ、有楽町線の延伸線は開業すればメトロが運行するでしょうが、同社は「新線建設は行わない」とします。都心部・臨海地域地下鉄と都心部・品川地下鉄は、どこが建設するのか決まっていません。建設費の工面も問題です。東京都はどうやら、「メトロが中心になって新線を建設してほしい。メトロ株の売却益は、建設費に充当してほしい」と考えているようです。

2021年7月ごろまでに答申案まとめる

東京メトロの相互直通運転イメージ。東京の地下鉄は多くがJRや私鉄と相直するので、短区間の新線建設でも整備効果は郊外の広範囲に及びます。 画像:交通政策審議会、東京メトロ提供

ここまでは専門用語を避けてきましたが、最終章は正式名称で書きます。国交省の有識者委とは、交通政策審議会陸上交通分科会鉄道部会のこと。赤羽大臣は小池都知事の緊急要請を受けて、同部会にメトロ株売却のあり方を諮問。諮問を受けた鉄道部会は、東京工業大学の屋井鉄雄副学長・教授、東京女子大学現代教養学部の矢ヶ崎紀子教授、慶應義塾大学商学部の加藤一誠教授ら有識者6人に委嘱して「東京圏における今後の地下鉄ネットワークのあり方等に関する小委員会」を設置しました。

初回の会合では、上原淳国交省鉄道局長のあいさつに続き、国交省側が東京の地下ネットワークの現状を説明しました。2021年2月18日に開催予定の次回会合では、東京メトロと東京都からヒアリング。その後、委員間で議論して、7月ごろまでに答申案を作成するスケジュールです。

首都圏の方限定かもしれませんが、せっかくの機会ですから、読者の皆さんもどんな地下鉄路線があれば便利か、考えてみてはいかがでしょうか。本件に関しては続報を取材・紹介したいと思います。

文:上里夏生

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