そろそろ口を慎んで

 一国のトップの時にはパッとしないが、辞めて花開く人がいる。米国のカーター元大統領はその例で、1期4年で政権を去ったのに、辞めると巧みな平和外交でノーベル平和賞を受けた▲メディアは、ちゃかしながら称賛したという。「素晴らしい。最初から『元大統領』ならよかったのに」。日本の「元首相」にもまた、現職時代は低評価でも、辞めて存在感を増した人がいる▲その人、スポーツ界の重鎮の森喜朗氏は「首相は1年だったが、外交関係では20年分の影響力がある」と評されるという。政界やスポンサーとの調整役を担ったが、女性蔑視発言の批判に取り囲まれ、東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長を辞任した▲先日の「開き直り会見」と違って、きのうは蔑視発言を「情けないことを言ったもんだ」と悔いて見せた。「あの一言は余計だったな。あれさえなければな…」と、心のつぶやきが聞こえるようでもある▲お騒がせした本人が後継指名し、「人選が不透明」とまたも批判された。指名は断られたが、ここに至っても「20年分の影響力」を振るおうとしたらしい▲東京五輪・パラを開くとしたら、まずは組織委の空気を入れ換えて「混乱を乗り越えた」という結果を明示するほかない。辞めたばかりの「前会長」は、もう口を慎む頃だろう。(徹)


© 株式会社長崎新聞社