“50代定年”クソくらえ! 58歳でGHC戴冠の武藤が生涯現役宣言!!

潮崎豪(左)にシャイニングウィザードを浴びせる武藤敬司

マット界に新たな金字塔だ! 10年ぶりの開催となったノアの日本武道館大会(12日)で、プロレスリングマスターこと武藤敬司(58)が王者の潮崎豪(39)を破り、主要シングル王座史上最高齢でGHCヘビー級王座を奪取した。3大シングル王座戴冠のグランドスラムも達成した奇跡のアラカンファイターは、本紙に胸中を激白。業界盟主の新日本プロレスを中心に巻き起こる50代定年の波を「クソくらえだ!」とバッサリ切り捨て、堂々の“生涯現役”を宣言した。

熟練の試合運びが光った。武藤はアキレス腱固めやチキンウイングアームロックといったクラシカルな技で王者の潮崎を追い込んだかと思えば、一気にギアを上げて閃光魔術弾、ドラゴンスクリューでたたみかける。

2018年3月に両ヒザの人工関節置換術を受けてから封印している月面水爆弾はコーナーに上がった途中で断念したが、かつてのライバル、三沢光晴さん(故人)の必殺技だったエメラルドフロウジョンを繰り出すと、これがノアファンの琴線に触れた。最後は潮崎の豪腕ラリアート、月面水爆弾を耐え抜き、奥の手・フランケンシュタイナーで3カウントを奪った。

これまで新日本プロレスのIWGPヘビー級王座を4度、全日本プロレスの3冠ヘビー級王座を3度(そのうち2度は化身のグレート・ムタ)巻いた武藤が、最後に残されたGHC王座を戴冠。08年9月の佐々木健介(引退)、09年3月の髙山善廣に続く史上3人目のグランドスラムを達成した。しかも58歳1か月でのGHC王座戴冠は、杉浦貴(50)が持つ同王座の最年長戴冠記録(47歳10か月)を大幅に更新。さらにIWGP王座(天龍源一郎の49歳10か月)、3冠王座(天龍の52歳8か月)も超えた。

原動力はマット界に流れる“50代定年”の流れに対する反骨心だ。古巣の新日本で後輩が続けて引退する現状を「最近は50歳を過ぎたら引退させられる流れがあるじゃん。中西(学)とかライガーとか。うば捨て山みてえだ。でも、そんなのクソくらえだろ。レスラーの価値を決めるのは年齢じゃない。数字なんだ。それを俺が証明してやる」と怒りをにじませる。

さらに「プロレスっていうのはもともと年齢を重ねても技術と数字があれば、それが魅力になるものなんだよ。昔からな。60だろうと70だろうと」と話した上で「長州力が孫と(ユーチューブ)やってるから。俺は孫とプロレスするのを目標にしようか」と、事実上の生涯現役を掲げた。

武藤の言う「数字」とは、観客動員数や売上額のこと。昨年4月にW―1が活動を休止し、プロレス人生で初めてフリーとなり、意識するようになった。

「俺はやっぱ、普通のフリーとは違うんだよ。自分のことだけを考えるわけにはいかねえんだ。例えば全日本の所属でIWGPを取った時、俺は全日本の社員も新日本の社員も食わせるつもりだった。フリーになったら、そういうのとは関係なくなるかと思ったけど、逆だったな。今は出る団体全て、いや、業界全てに利益をもたらしたいって思うようになった」

再びマット界の顔になる覚悟を決めたプロレスリングマスターは、最後にこう言った。「つまり潮崎が『アイ・アム・ノア』なら、俺は『アイ・アム・プロレス』になってやるってことだ」。時流にあらがう58歳の新王者がプロレス界をけん引する。

【激闘を終えて】試合後の武藤は「まあ、今は全身交通事故に遭ったみてえに痛えよ。途中で『なんで俺、こんなつらい思いしてるのかな』って思ったよ」と充実感たっぷりに話した。

ムーンサルトプレスの体勢に入るも飛ばなかったことには「体が反応しなかった。恐怖心なのか分からねえけど。これしか倒せる技がないと思ったけど、キャリアの中でまだ一つ引き出しがあった。フランケンシュタイナー。これで勝負が決まった」と振り返る。

終盤にはノア創設者の故三沢さんの必殺技「エメラルドフロウジョン」を繰り出した。武藤は「三沢光晴は多分、俺を応援してたんじゃねえかな。俺が負けたら、永遠の恋人と言われた三沢社長も弱かったってことになっちまうから」と感慨深げに話す。

試合後のリングには、そのノアが期待する清宮海斗(24)が現れた。武藤は「頂上は取ったけど、今は霧で視界が見えねえ。ボクシングみたいにタイトルマッチは年に1回か2回にできねえか、ノアに頼もうと思う」。果たして次の挑戦者は――。

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