2004、05年夏の甲子園Vの男子野球部が毎年行っている
昨春創部した駒大苫小牧女子硬式野球部が屋外での雪上ノックをスタートさせた。2004、2005年と夏の甲子園連覇を果たした男子野球部が毎年行っているもの。常識を打ち破る練習法で全国制覇した男子に続き、3月27日開幕の第22回全国高校女子硬式野球選抜大会で初出場初優勝を目指す。
今年は降雪量が少なかったため、雪上ノックは1月31日に始まった。男子野球部長を務めていた茶木圭介監督が自らブルドーザーに乗り込み、半日で“白いグラウンド”を完成させた。
取材した2月1日は気温0度だったが、風速10メートルの強風が吹き荒れていた。一般的に、風速1メートルで体感温度が1度下がると言われているから、マイナス10度くらいの感覚か。
室内でアップしてからスパイクに履き替えた選手たちはキャッチボールを終えた後、グラウンドの脇に設置された薪ストーブで手を温めてからそれぞれのポジションに散っていった。時折カイロの入った尻ポケットに手を入れて指先を温めながら、元気にノックをこなしていく。
「普通ですよ、普通。気温がプラスかマイナスか、グラウンドが黒か白かの違いだけ。鳥籠の中の鳥になっちゃダメだから」と茶木監督は豪快に笑った。その手元を見ると手袋はつけておらず、素手だ。「選手も素手ですから」と慣れた手つきで30分間ノックバットを振り続けた。
確かに“鳥籠”での練習には限界がある。床板の室内練習場ではスパイクを履くことはできないし、ゴロ捕球など基本的な練習はできてもノックはできない。高さのあるフライに対する感覚など屋外でしか養えないものがある。
藤井主将「早く外でやりたかった。全力発声できました…」
屋外でノックを受けるのは2か月ぶりとあって、初日は悪戦苦闘したという。東京から野球留学中の藤井華子主将(1年)は「室内から外に出て、こんなことになるとは思いませんでした。距離感やボールのスピードへの対応がなまっていたし、このフライは誰が捕るんだっけ? というところからのスタートでした」と苦笑い。2日目となったこの日は「ボールへの入り方の感覚が戻ってきたし、動きが軽くなりました」と明るい兆しが見えてきた。
真っ白なグラウンドに凹凸があれば、外野の奥に積んだ雪山からブルドーザーで内野まで雪を運び、トンボでならして整備する。それでも雪上ではバウンドが不規則になることがしばしば。さらに気温がもっと下がれば、表面が氷のようにツルツルになり、ゴロのスピードが一気に増す。対応するうちにハンドリングが柔らかくなるというが、恐怖心はないのだろうか。藤井主将は「自分は怖さはないです。白い土ですから。イレギュラーに対応することで、土の上のバウンドが簡単に感じると思います」とひと冬越えた後の成長した姿を思い描き、モチベーションにしている。
昨春の創部と同時に入部した1年生24人は、男子野球部名物の雪上ノックを楽しみにしていた。待ち望んでいた理由はもう一つ。コロナ禍により室内での練習中はマスク着用が義務付けられ、会話は禁止されている。「中では声を出せないですし、早く外でやりたいと思っていました。全力発声できました」と藤井主将。鳥籠から飛び出した選手たちは、声を張り上げ、生き生きとボールを追った。
男子の甲子園連覇で有名になったとはいえ、北海道内においても雪上ノックは当たり前の練習ではない。「非常識を常識に変えなきゃ。関東や関西のチームは今も外で普通にできますし、紅白戦をやっているチームもある。そこに立ち向かっていくチャレンジャーとして絶対に負けないという気持ちを持っています」と熱く語る茶木監督は北国のハンディを言い訳にするつもりはない。
3月中旬から雪割りをして急ピッチで土のグラウンドを整え、苫小牧で2日間練習試合を行ってから選抜大会に乗り込む計画だ。本番前に土の上で練習できる期間は1週間程度となるため、雪上ノックは貴重な実戦練習の場になる。少しでも気温の高い時間帯を選びながら3月上旬まで1日1時間ほどの短期集中で雪上練習を行う予定。今後は打撃練習やゲーム形式に近いものも取り入れ、初めての公式戦に備える。
【動画】体感温度は氷点下… 雪上でノックを受ける駒苫女子野球部
【動画】体感温度は氷点下… 雪上でノックを受ける駒苫女子野球部 signature
(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)