「まるで廃虚」国際線9割減の関西空港の今 ワクチン輸送が経営改善の特効薬?

By 助川 尭史

閑散とする関西空港の国際線出発口=2月8日

 西日本の玄関口として年間約3千万人が利用していた関西空港が、新型コロナウイルスの影響で1994年の開港以来、最大の危機にひんしている。入国制限により国際線の総旅客数は前年比の9割以上が減少。頼みの綱の国内線も政府の緊急事態宣言を受けて追加減便が相次ぎ、昨年の総旅客数は過去最低の655万人にとどまった。厳しい感染状況が続く中、起死回生の一手を模索する巨大空港の今を追った。(共同通信=助川尭史)

 ▽「シャッター通り」

 関空がある大阪府を含む10都府県の緊急事態宣言の延長が始まった8日、主要施設が集まる空港第1ターミナルを歩いた。4Fの国際線出発口は、フロアの半分の照明が落とされ薄暗い。かつて世界各地に向かう多くの利用者が列をなした航空会社のカウンターに従業員の姿はなく、時折通る清掃員の掃除機の音が響く。国内線の搭乗までの待ち時間に様子を見に来たという利用客の女性は「まるで廃虚みたい」とつぶやいた。この日の国際線の発着便はロンドンやシンガポール便など5便にとどまった。

関西空港第1ターミナル3Fのシャッター通り=2月8日

 より深刻なのは免税店や飲食店が集まる3Fだ。現在36店舗中20店が休業中で、「シャッター通り」となっている。大阪湾に浮かぶ空港島は光熱水費が割高で固定費負担が重く、「営業を続けるほど赤字が膨らむ」と撤退を決めた店舗も複数ある。営業継続の店もほとんどが時間短縮を余儀なくされていて、飲食店は空港従業員向けの割安なメニューやお弁当を売って糊口(ここう)をしのいでいる状況だ。昼時でも客の姿がまばらだった和食料理店の男性従業員は「売り上げは昨年からずっと8割減で、ここに来てさらに減っている。正直もう潮時かなと思っている」とこぼした。

 ▽右肩上がりが一転

 関空の利用者は2011年から19年まで右肩上がりで伸びていた。原動力となっていたのがアジアに近い地理特性を生かした国際線のLCC路線の拡大戦略だ。19年度の夏期ダイヤでは、週1548便(8月ピーク時)の国際線就航便のうち約4割をLCC路線が占め、この大半が中国や韓国を結ぶ便だった。空港を運営する関西エアポートは同年12月、第1ターミナルを改修し、総受け入れ能力を年間約3300万人から約4400万人まで引き上げる計画を発表。25年に開催予定の大阪万博を見据え、世界有数の国際空港への一歩を踏み出そうとしていた。

旅行客らで混雑する関西空港=2019年12月

 ところがコロナ禍で事態は暗転した。20年の関空の月別総旅客数は、中国路線の減便が始まった2月から減り始め、5月には単月としては開港以来最低の3万6469人に低迷。政府の観光支援事業「Go To トラベル」が始まった7月以降は国内線が回復基調にあったが、年末にかけての感染再拡大を受けて再び落ち込んだ。

 関西エアの20年9月中間連結決算は初の赤字に転落。営業収益の約6割を占めるテナントなどの「非航空系」は76%減で、大阪(伊丹)、神戸の両空港も運営する同社の経営に深刻な影響を与えている。同社では、賃料の減免や支払い猶予の措置を取るなどしてテナントのつなぎとめをはかるが、状況の好転につながるかは不透明だ。同社幹部は「需要が戻るまで長いトンネルが続きそうだ」と声を落とす。

 ▽感染対策、次の一手模索

 出口の見えない状況が続くが、コロナ収束後には航空需要が回復するとの予測もある。関西エアはコロナ後を見据えた地道な感染対策の試みも進めてきている。昨年7月には、国際線の保安検査上前で職員が行っていた搭乗券確認に代わり、乗客が読み取り機にかざせば入れるゲートを設置。導入当初は職員の負担軽減や出発口の混雑緩和が目的だったが、コロナ禍では「非接触」は感染防止の強みになった。

 同12月には、空港内の手荷物カートを紫外線で除菌する装置も試験導入した。照明器具メーカーの岩崎電気(東京)が開発し、全長4メートルの箱形の装置に入れると約90秒で同時に10台まで除菌できる。カートの持ち手に付いたQRコードをスマートフォンで読み込むといつ除菌されたか確認できるシステムもセットだ。現時点でコロナウイルスへの効果は未知数だが、空港にある約1200台のカートの除菌作業を省力化し、利用客に安心感を持ってもらうのが狙いだ。

 試験導入は今年3月までの予定で、利用状況やQRコードが読み込まれた頻度、利用客の反応を調査して、導入を決める。関西エアの広報担当者は「除菌状況の『見える化』が、利用客の安心にどこまでつながるか見極めたい」と話す。

装置内で除菌される手荷物カート

 ▽医薬品輸送の拠点空港へ

 さらに期待されるのが17日に接種が始まった新型コロナウイルスワクチンの輸送を契機に、医薬品の輸送拠点空港としての機能に注目が集まることだ。ワクチンの到着空港は公表されていないが、国際線貨物の取扱量が成田空港に次いで多い関空の利用は有力視されている。関西エア関係者は「医薬品輸送のオンリーワン空港をアピールしたい」とコロナ禍でも堅調な貨物便利用をさらに増やし、反転攻勢の足掛かりを狙う。

関西空港内の医薬品専用の定温倉庫

 同社は昨年12月、航空会社などとワクチンの輸送方法を協議するタスクフォースを設置。今年1月には駐機スポットを優先的に割り当て、保冷車を機体に横付けして搬入するなどの対応方針を発表した。通関検査も事前申告で通過できるよう大阪税関と調整中で、通常最速でも約3時間かかる空港外への搬出時間を30分~1時間に短縮することを目標に掲げる。

 関西地方は製薬企業や研究施設が集積し、関空の昨年の品目別輸入額は医薬品が約8953億円とトップだった。関西エアは19年、日航系の貨物取扱会社など物流各社とともに、国際航空運送協会(IATA)が主催する医薬品輸送で最も厳しい認証を取得。加えて海上に浮かぶ24時間空港のため、早朝や深夜の輸送機も受け入れることができるのも大きなメリットだ。

 1月には空港内にある国内最大規模の医薬品専用倉庫を報道各社に公開。室内は20℃と5℃に保たれた部屋に分かれ、各国から到着した医薬品コンテナが並ぶ。18年の台風21号では浸水被害を受けたが約1カ月で復旧し、その後も関空の医薬品物流を支えている。現時点でこの倉庫の使用は決まっていないが、ワクチン輸入が本格化した際にも厳重な温度管理の下、一時保管できることを示した。貨物事業を担当する同社の新宮早人グループリーダーは「ワクチン輸送は今後の日本経済に欠かせないもので社会的使命も大きい。タスクフォースのメンバーには普段は競争関係の事業者もいるが、協力して情報を共有して迅速かつ安全に届けたい」と意気込む。

 訪日客重視の路線から転換し、再び浮上のきっかけをつかめるか。今後の動向を注視したい。

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