「保育園」は海外でも一般的? 日本とフィリピンとフィンランドの保育を比較

海外の学校を何度も訪れている筆者のところには、「海外にも保育園はあるのか」という質問がよく届くそうです。では実際に海外の保育事情はどうなっているのでしょうか? フィリピンとフィンランドで比較してみました。

海外にも保育園はあるのか

「保育園は海外にもあるのでしょうか?」という質問をよくいただくのですが、いつも答えに困ってしまいます。と言いますのも、日本で定められている「幼稚園」と「保育園」は、多くの国で似たようなシステムがあるのですが、国によって制度が異なるからです。

たとえば、日本ではPreschoolという言葉を英和辞書で引くと、「保育園・幼稚園」と出てきます。しかし、フィリピンでPreschoolというと、日本で言うところの「保育園」に近いものを指します。また、フィンランドでPreschoolというと、日本で言うところの「幼稚園」に少し近いものになります。

「Preschool」という言葉の捉え方は、各国で大きく異なります。日本もフィンランドもフィリピンも、第一言語が英語ではないということも理由の一つです。しかしそれ以上に、各国で教育システムや就学前教育の位置付けが大きく異なることがより大きな理由だと感じます。

そこで今回は、海外の保育や幼児教育の仕組み・文化についてまとめてみました。ここでは、フィリピンとフィンランドを取り上げます。

まず、ざっくりと3カ国の違いを表にしてみました。繰り返しにはなりますが、そもそも国によって「保育園」や「幼稚園」の定義や制度が異なるため、この表はあくまでも参考程度と思ってください。それぞれの項目を詳しく説明していきます。

就学前教育は、義務教育?

日本では、幼稚園も保育園も義務教育とはされていません。しかし、小学校就学前に義務教育が1~2年設けられている国は数多くあります。

代表例はアメリカです。アメリカの教育制度を表す「K-12」という言葉を聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。これは「Kindergarten + 小中高12年間の義務教育」を意味します。アメリカでは、義務教育としてのKindergartenは1年間なので、計13年が義務教育です。

フィリピンは10年ほど前まで、16歳で高校を卒業するのが一般的で、世界標準より2年短かったです。そのため、2000年以前に生まれた人たちは20歳で4年生大学を卒業している人が多数います。

しかし、世界標準に比べて中等教育までの期間が短いため、基礎学力の低さや留学のしづらさなど、さまざまな課題が指摘されていました。そこで、2013年にはアメリカと同じく「K-12」の13年間の義務教育システムに変更されました。Kindergarten(幼稚園)は、1年間が義務教育ですが、実際には2年通うことが一般的です。

フィンランドの義務教育は、1年間のPreschoolと小・中学校9年間の計10年です。日本より1年長いです。

ちなみに就学前教育の1年間は、フィンランド語で「esikoulu」と言います。「esi」は「プレ」、「koulu」は「学校」という意味を持ちます。そのためか英語ではほとんど「Preschool」と訳されます。フィンランドの人が英語で「Kindergarten」と言うことはあまり聞きません。「フィンランドには幼稚園がありません」と言われることがよくあるのですが、それにはこのような背景があります(そもそも日本と制度が異なるため比較しづらいのですが)。

保育園の一般性

各国で子どもたちの保育は、どのように行われているのでしょうか。3~5歳児にフォーカスしてみていきましょう。

厚生労働省のデータによると、日本では3~5歳児の約4割が保育園、約5割が幼稚園に通っています。

フィリピンにも、保育園はあります。公立の保育園もあれば、私立のものもあります。統計的なデータは見当たらなかったのですが、日本ほど数多くはないようです。フィリピンに住む友人に話を聞くと、保育は「家族や親戚が協力して行う」ということが多数派だそうです。

その友人は幼少期に保育園は通っていなかったそうです。「知らない人にお金を払って保育をしてもらうぐらいなら、親戚に見てもらうほうがいい。その親戚に少しお金を払うこともある」と話していました。

フィンランドでは、首都のヘルシンキ市のデータによると3~5歳児の約8割が保育園に通っています。フィンランドでは、1973年に保育園法ができ、すべての子どもたちに保育施設を用意することが自治体の義務になりました。人口が約60万人のヘルシンキ市には、400か所以上の保育園があります。さまざまな現地の教育者や保護者にインタビューをしてきましたが、「保育園に入れなくて困っている」という待機児童に関する課題は耳にしたことがありません。

公立保育園の値段

日本では、認可保育園の保育料は「保護者の所得」と「子どもの年齢や人数」によって異なります。平成24年度の「地域児童福祉事業等の調査」の結果によると、児童一人当たりの保育料の平均は20,491円です。しかし、2019年10月から幼児教育・保育の無償化が始まったため、まだ最新の統計データは見つかりませんが、大きな変化がありそうです。

幼児教育・保育の無償化概要: 子ども・子育て本部 - 内閣府

フィリピンは役所が運営する保育園では月に数百円程度の金額で、保育園に通えるそうです。しかし、そもそも日本ほど保育園のシステムは整っていませんし、統計的なデータは見当たりませんでした。地域によっても大きく制度が変わるかもしれないので、参考程度にしてください。

ちなみにフィリピンには、富裕層や海外の人向けへの私立保育園もあります。こちらはセブ島にある「Voyage Childhouse」という日本人経営の保育園です。

セブITパーク内、初の託児所(保育園)

1日8時間で1ヶ月あたり、約3〜4万円程度の金額です。

フィンランドの保育園は、基本的には有料です。「すべての教育が無料」というイメージが強いためか、私も以前は保育園も無料だと勘違いしていました。自治体によって制度は異なるのですが、ヘルシンキ市の場合は、このような保育料を自動計算してくれるwebサイトがあります。

Customer fee calculator

家族構成や1日の保育時間にもよりますが、世帯月収が約3000ユーロ(約40万円弱)までは無料のようです。月収に応じて最大288ユーロ(約3万6000円)が保育料となります。

ちなみに、1年間のPreschoolは無償です。しかしPreschoolはお昼前後に終わることが多いため、Preschoolの後に保育園に行く子どももいます。小学校とPreschoolはたいてい併設されています。ときどき保育園も併設されている場合があります。

国によって定義や仕組みが異なる

いかがでしたか? 「保育」や「保育園」「幼稚園」という言葉は、国によって定義や仕組みが異なるため、海外の人と保育の話をするとよく混乱してしまいます。

まずは、教育制度や大まかな特徴を整理してみました。来月の記事では引き続き、「保育園」や「幼稚園」をテーマに、フィリピンとフィンランドの幼児教育の事例を紹介します。

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