寒さもなんのその、真冬の冷水浴 湧き出る幸福感【世界から】

 スウェーデンで最近ブームになっている真冬の寒中水泳は、昨年の秋ごろからトライしようとする人たちが増えている。なぜこの寒い時期にわざわざ冷たい水に入る必要があるのかと思う人がほとんどだろう。その人気の理由、その効果とはいったいどんなものなのだろう。(スウェーデン在住ジャーナリスト、共同通信特約=矢作ルンドベリ智恵子)

凍結した湖に入る女性(提供:Helena Wahlman/imagebank.sweden.se)

 ▽凍結した湖

 2月のこの時期は雪も降り寒さも厳しい。ストックホルムにおいては、外気温はマイナス10度前後になる日もあり、凍結した湖は自然のスケートリンクになったりする。寒中水泳は、凍結した湖面に人が入れるぐらいの大きさの穴をあけ、そこに入る。近くにサウナが設置されているような場所もあるが、そうでないところも多い。通常は外気温よりも水温の方が高く、この時期だと4度もしくは5度ぐらいだろうか、いずれにしろ快適な温度とは言えない。極寒の中で、裸になって冷たい水に体をしずめるにはかなりの勇気が必要だ。

 ▽人気の理由

 フィンランドやスウェーデンでは、これまで寒中水泳は一部の人たちによる冬のアクティビティだった。それがコロナ禍の中、個人やクラブの仲間同士でやったりと今ひそかに盛り上がってきている。スウェーデンの心理学者レモニエル氏によると、その理由は大きく三つあるという。

2月の海での寒中水泳=矢作ルンドベリ智恵子撮影

 コロナ禍で、日常の生活にもさまざまな行動制限がある中、淡々とした日常では味わえない「わおっ!」感覚を人々は探しているという。自然の中で、氷の張った冷たい水に入ることで、アドレナリンのような、興奮や緊張の際に分泌するホルモンが分泌される。その後、脳や身体が活性化し、心身ともにすっきり、リセットした気分になる。そう語る心理学者自身も寒中水泳の経験者だ。

 次に、コロナの収束が見えない状況の中、自分自身や将来に不安を抱えている人が多いが、寒中水泳などの日常を超えた体験を成し遂げることで、自尊心が生まれるという。勇気を持ってやり遂げたという達成感は、自信を高めさらに自分の能力を発展させることにもつながる。

 さらに、寒中水泳を体験した人たちが、ソーシャルメディアなどにそれぞれの写真を掲載したことで、多くの人が刺激を受けた。今は、海外旅行、国内の移動も規制されている中、興味を引く面白い写真もアップできない。裸で凍結した湖に入っている写真に勝る写真はそうないかもしれない。そんな写真を見て自分もチャレンジしてみようと思う人達が増えている。

サウナの中から見える真冬の海=矢作ルンドベリ智恵子撮影

 ▽効果と影響

 冷たい水の中に入ることで、体自体が脅威を感じる状況となり、生存しようという状態に入る。体は急速に冷たくなり、血管が収縮していく。ストレスを受けた体はアドレナリン、コルチゾールなどのストレスホルモンを活性化させる。そのストレスの反動で、エンドルフィンなどのような“幸せホルモン”が分泌され、幸福感が感じ、モチベーションなども生まれる。

 氷浴中に血圧と心拍数が上昇したとしても、定期的な冬の入浴は血圧と心拍数の両方を低下させる可能性があるという。ただし、高血圧や心臓に問題がある人は注意が必要だ。

 その気になった筆者も体験してみた。最初にサウナに入って体を温めた後、氷が張った海に入ってみた。20秒ほど海水に入り氷水をかき分けて泳いでみたが、なんと気持ち良かったことか。冷たい水にさらされることで体が清められ、心身共にすっきりした。水から出た後、数秒は寒さを感じなかった。その後すぐにサウナに駆け込んだが、何とも言えない達成感があった。冬の風物詩となった真冬のスイミング、一度やったらやみつきになりそう。

© 一般社団法人共同通信社