第43回「民主主義と米粉パン」

朗読詩人 成宮アイコの「されど、望もう」

米粉パンっておいしいですよね。 こんにちは朗読詩人の成宮アイコです。

先日、「今ってマイノリティーの意見を聞こうとするやん。でも何のための民主主義やねんと。優先順位としては、51対49やったら51の意見をとらなアカンねん。」というお笑い芸人さんのインタビューを読みました。そして、違和感とともに思い出したのです。米粉パンのことを。

もちもちしたものは全部おいしいと思う単純な味覚を持っているため、"もちもちパン"も、"もちもちホットケーキ"も好きで、もちろん"もちもち米粉パン"も大好きです。米粉パンって、もちもち世界ではだいぶ最高部類のもちもち加減じゃないですか。最高ですよね、わかります。

ところで実はわたし、米粉パンとはもちもちの食べものを普及すべく開発されたのだと思っていました。かなり最近まで。

ふわふわ普及活動のために生まれたのではなく、小麦粉アレルギー対策として作られたのだと知ったときは、軽く衝撃をうけました。というか、小麦粉アレルギーをもっているとパンが食べられないのだということにも気づかずにいたのです。

そういえば、スタバで豆乳ラテを頼むと、商品交換をするまで手のひらからはみ出るほどの大きな豆乳カードを持たされますが、あれも「かわいくていいなぁ」というくらいの認識でした。ほんとうの意味は豆乳アレルギーの確認のためだったのですが、それを知るまでは、「さすが豆乳はキャラ立ちしているな〜」くらいに思っていました。だってキッコーマンの豆乳のパッケージだってかわいいし。

ぼんやりしていると、わたしはずいぶん無頓着に生きているな、と実感することだらけです。

そこで、さきほどのインタビューのお話し。

わたしは一瞬、原稿を書いた人が悪意でわざとその文章を掲載したのかなとも思ってしまいました。(ここでは1億歩ゆずって、民主主義は多数決ではないという説明はいちどグっと飲みこみ、"心の持ちかた"の部分を考えてみます。)

もし、51対49では51の意見をとらなアカン! と思っていたら、100のうちの51、51のうちの26、26のうちの14……どんどん小さな世界を作っていき、最終的に誰もいない空間で生きることになりそうです。その世界はきっと半分以下の声は聞かなくて良いので、結果がすべてです。数で勝ったらそれで決定ならば、勝った側はなぜ自分たちが反対されたのか理由を知ることもできません。

もし、そこに自分たちでは気づけない見落としがあったとしても。

とはいえ、間違いや勘違いが悪だとしたら、わたしたちはギスギスしすぎるし、1回の間違いで人格を否定されてはいけない。なぜなら、人は間違えるものだし、せっぱつまったときには自分の都合のいいように解釈をするから。だけど、人を傷つける可能性がある武器をふりかざしていたら(しかも武器を向ける相手を大幅に間違いながら)、それはまわりにいて気づいていながらスルーをした人にだって、同じように問題があるだろうと思う。

だって、わたしたちには言葉があるからです。

マジョリティだけを選択して最後は誰もいなくなる世界で生きるつもりはないので、こんなことに時間をつかいたくないよと思いながらも、わざわざ歩み寄ろうとするわけです。もし相手が歩み寄ってくれないとしても。

それには聞かなくていい意見だと思われようと、そのたびになんども声をあげる必要がある。それは面倒だし時間がかかる。できればやりたくない。わかる人とだけ話していたい。「あれはないよね〜」「いやマジでないわ」「だよね」とだけ言っていたい。主語をなくして、軽率に「ないわ」と切り捨てて、アレとかソレとかだけで成り立つ会話だけしていたい。瞬時に忘れてしまうくらいの図太さをもちながら。

それでも対話あるいは言葉は、最後の希望であり手段なので、しかたないながらも持ち続ける必要があり、自分の気持ちがゆらいでしまわないようにこの文章を書いています。限りなくめんどうだし、そこに時間を使うよりも、おいしいパンを食べてスタバで豆乳ラテでも飲んでいたい。できればホイップを追加するくらいの贅沢をしながら。でも、それでも。

「ないわ〜」だけで切り捨てることはたしかに楽だし、疲れないし、自分の暮らしたい生活圏内を作るには時短ルートかもしれない。だけど、それはやっぱり世界をせばめてしまう。わたしも、そして、あのインタビューに答えていたお笑い芸人さんも。

ですが、わたしにも心があるためそれを続けようとすると、わりと気持ちが折れるわけです。

わかりあおうとするって、努力が必要だしめんどくさい! やめたい(やめないけど)! まずはとにかく、「小麦粉アレルギーならパンを食べたらアカン」と決めつけず、「小麦粉アレルギーがあってもパンが食べられるように米粉でパンを作ろう」と考えてくれた人のおかげで、もちもち好き人間としては好きな食べ物が増えたのでありがたいことしきりです。

成宮アイコ Profile

朗読詩人。「生きづらさ」や「メンタルヘルス」をテーマに文章を書いている。朗読ライブが『スーパーニュース』や『朝日新聞』に取り上げられ、新潟・東京・大阪を中心に全国で興行。書籍『あなたとわたしのドキュメンタリー』(書肆侃侃房)、詩集『伝説にならないで ─ハロー言葉、あなたがひとりで打ち込んだ文字はわたしたちの目に見えている』(皓星社)。EP『伝説にならないで』の新解釈版『裏 伝説にならないで』が12/24配信リリース。

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