金曜ドラマ「家族熱」歳を取ってわかった向田邦子と加藤治子のすごさ 1978年 7月7日 TBS系ドラマ「家族熱」の放送が始まった日

没後40年、注目を集める向田邦子

2021年は、向田邦子没後40年。関連イベントが開催されたり、ドキュメンタリー番組が放送されたりと、あらためて向田邦子に注目が集まっている。

歳を取ってから向田脚本のドラマを観返すと、あぁ、そういうことだったのかといろいろ気づかされる。初回放送時、私はそのすごさがわかっていなかったのかもしれない。

途中で挫折したドラマもある。1978年、TBSテレビで放送されていた『家族熱』だ。Paraviであらためてこのドラマを観て思った。子どもにはそりゃわかるまいと。

『家族熱』の主題歌は、ローズマリー・クルーニーがしっとりと歌い上げる「クローズ・ユア・アイズ」。ブラームスの子守歌に歌詞をつけた曲だ。毎回オープニングでは、家族写真を背景としたクレジットに、この優しい子守歌が流れる。よくある家族写真なのだが、途中で息子を抱いていた母親がいなくなり、父親が再婚したことがここでわかる。

ドラマ「家族熱」、ヒロイン浅丘ルリ子を食う加藤治子の強烈演技

『家族熱』のヒロインは、この家庭に後妻として入った浅丘ルリ子。夫は三國連太郎、舅は志村喬、長男は三浦友和。後妻は夫より長男と歳が近く、当初は、義母と息子の禁じられた恋? と思うのだが、話は思わぬ方向にいく。

先妻の加藤治子が、この街に戻ってくる。自身の過ちから家を出た先妻だったが、息子だけでなく、別れた夫にも未練があり、さまざまな波紋を起こす。

この先妻が怖い。“家族熱” に浮かされて心が壊れ、ついには勝手に家に入り込む。障子を破る場面の恐ろしさ。ヒロイン浅丘ルリ子より、加藤治子のほうが断然印象に残った。

「向田さんは浅丘さんの演技が気に入らなかったのですね。それで段々、加藤さんの方に肩入れしていったんです」

書籍『向田邦子 恋のすべて』(小林竜雄著 中公文庫)に、名プロデューサーで演出家だった大山勝美のコメントが載っていて、あぁ、やっぱりと納得した。

大スター浅丘を相手に、さすが向田邦子である。すごいだけでなく、怖い人でもあったのだ。同時に、向田の加藤に対する絶対的な信頼を感じさせるエピソードではないか。

向田ドラマに最も多く出演した女優?

データを調べたわけではないのだが、向田ドラマに最も多く出演した女優は、加藤治子ではないだろうか。『寺内貫太郎一家』の日本のお母さんも印象的だが、『阿修羅のごとく』の料亭主人と不倫をする長女のような、“女の業” を表現する役のほうが本領発揮といった感じがした。

1982年、向田邦子最後の小説となった『春が来た』初ドラマ化での母親役も忘れられない。身なりも振る舞いも構わなかった中年女が、娘(桃井かおり)の婿候補(松田優作)がちょくちょく家に来るようになったことで、徐々に華やいでいく。だがラスト近く、留め袖を羽織った自分を鏡に映し、喜びに浸っているときに、くも膜下出血の発作を起こして急死する。一度観たきりのドラマなのだが、強烈に印象に残っている。

大人になってから過去作を観て、「この人、こんなに艶っぽかったのか」と思った女優は数多いが、その筆頭が加藤治子だ。割烹着の母親枠におさまる女優ではなかった。特に、向田ドラマでの存在感は鮮烈だ。

歳を取ってしみじみわかる、向田邦子と加藤治子のすごさ。そういえば、『寺内貫太郎一家』で加藤の娘役を演じた梶芽衣子が、小林亜星との対談で、加藤が亡くなった後のお別れ会の話をしていた。加藤を慕っていた女性たちが遺骨の前で食べたのは、向田直伝レシピの豚しゃぶだったそうだ(※)。

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※参考文献:
■ 文春ムック 向田邦子を読む(文藝春秋)

カタリベ: 平マリアンヌ

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