三重大病院不正の実態、明らかに 寄付金受領後薬剤使用量8倍、さらに虚偽の診療報酬請求

 三重大学医学部附属病院臨床麻酔部における贈収賄事件の全貌が明らかになりつつある。津地検は17日、臨床麻酔部元教授を詐欺の疑いで再逮捕した。容疑は使用実態のない薬剤の診療報酬を請求し、支払団体から約80万円を不正に払わせ損害を与えた疑い。同元教授は先に、小野薬品工業から同社の薬剤を積極的に使用する見返りとして200万円を大学への寄付金として払わせた容疑でも逮捕されており、この日同時に、この容疑で贈賄側の同社社員と共に起訴された。

見返りに贈賄側の薬剤を大量使用、さらに虚偽の診療報酬請求

 昨年発覚した、三重大医学部附属病院 臨床麻酔部における贈収賄を核とする、一連の不正の全貌が明らかになりつつある。この日再逮捕、起訴されたのは元臨床麻酔部トップの元教授、亀井政孝容疑者。同容疑者はこれまでの津地検の捜査で、医療機器導入を巡る談合、薬剤不正使用をめぐる収賄と詐欺の中核的存在だったことが明らかになった。一連の容疑で3度逮捕されたことになる。

 1つ目の容疑は医療機器入れ替えの際の談合をともなう収賄。2019年8月、同病院の医療機器納入の一般競争入札をめぐり、大手メーカー「日本光電」が受注できるよう便宜を図った見返りに、自身が設立した社団の口座に現金200万円を払わせた容疑だ。実際にこの時期、日本光電の機器を扱うディーラーが複数回落札していたことが明らかになっている。

 2つ目の容疑は2018年1~3月にかけ、小野薬品工業の営業担当であった宮田洋希被告らから同社の不整脈用薬剤「オノアクト」を積極的に使用するよう依頼を受け、見返りとして三重大の口座に200万円を振り込ませた疑い。

 そして3度目となった17日の再逮捕の容疑は、2019年9月上旬~20年3月上旬、部下で同部元准教授の境倫宏被告と共謀し「オノアクト」を投与したように文書を偽造して診療報酬を請求、支払団体である三重県国民健康保険団体連合会などに約80万円の損害を与えた疑いだった。各社の報道では寄付金を受領した後、それ以前と比べ同社薬剤の月間の薬剤使用量が最大で8倍に増加し、問題が発覚した後は元に戻ったという。

 つまり亀井容疑者は自らが組織トップであった立場を悪用し、医療機器メーカー、製薬会社から賄賂を受け、それらの会社の製品を正当な理由もなく導入、使用しただけでなく電子カルテ改ざんをともなう不正請求まで主導し、間接的だが国に損害を与えたことになる。国立大学医学部に付託されている社会的責任を考えれば到底看過できる内容ではなく、厳しく断罪されるべきなのは明白だ。

ガバナンス問われる三重大 噴出し続ける組織内部のあつれき

 この再逮捕・起訴を受け、三重大学は18日「在職中の行為で元教授らが逮捕されたことは誠に遺憾」とお詫びのコメントを発表したが、同時に「医学部附属病院におけるパワハラ事案について」と題したプレスリリースも発信している。

 内容は一連の不正を受け臨床麻酔部のスタッフが動揺し、離職者が相次いでいる中で、亀井容疑者の後を継いだ組織トップが行なった「パワハラ発言」についてのもの。一部週刊誌に報道され対応が注目されていた件だ。大量離職の背景には、一連の不正で逮捕された2人が組織トップと研修プログラムの責任者であったことで、一時的に研修を進められない状態になった事実がある。研修を修了しなければ専門医資格を取得できないので、キャリアを考えれば離職して研修を受けられる医療機関へ移ろうとするのは致し方ないだろう。

 その週刊誌では、当時臨床麻酔部のトップであった医師が、離職を表明した医局員に対し「臨床麻酔部の人間を多数引き連れて辞めることで三重大を潰そうとしている」「後を追って辞めていく人間は同罪、辞める人間の家族も含め共犯として言いふらしてやる」「辞める人間に専門医の資格は取らせない」などの発言があったと報道された。つまり離職されても仕方のない状況であるのに、恫喝をもってそれを止めようとしている「パワハラ発言」があったというわけだ。

 プレスリリースではこれら一連の発言に対し、発言者に確かめたところ「発言内容はいずれも必ずしも正確ではない」と判断したと表明。報道されたようなニュアンスの発言ではなく、相手を呼び捨てにはしていない、専門医資格のことはそのような意図ではなかったとし、さらに発言したとされる翌日には発言を撤回、謝罪していることが確認されているなどと、全面的に発言者の弁明を信用したかたちになっている。また、すでにこの発言者の医師とは違う医師を臨床麻酔部長、研修プログラムの責任者に据えており研修環境にも問題はないと強調。事態収束を図りたい思惑が前面に出ている発表だ。

 しかし、三重大医学部、特に麻酔部をめぐっては長年、組織のガバナンスを疑わせる件が幾度も起きている。まず大量離職については今回だけでなく、2005年、2009年、2012年にも起きており、2012年の際には当時の部長が研修中の専攻医を手術室への出入り禁止にし離職に追い込んだとして訴訟に発展、のちに大学側の敗訴が確定している。

 また長年、こうした事態が慢性的な人手不足を引き起こし、本来は学会から禁止されている「並列麻酔(1人の麻酔科医が同時に複数の患者をみること)」も慢性的に行われていた実態も明らかになっている。先ごろ、一部ネットで取りざたされていた並列麻酔中の死亡事故(2017年発生、示談成立済)の存在を病院は認め、一部報道機関に院内調査の報告書の一部を公開したが、「手術数を相当制限できればやめられるが、安全を確保できる限り続けてきたというのが実態」と弁明している。

 県内の医療のヒエラルキーのトップに立ち続ける同病院の現在のあり方が、果たして県民の命を支えられるものになっているか、いま厳しい目が注がれている。

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