トランプ大統領より攻撃的なバイデン政権の議会運営、株価に水を差すリスクは?

米国のバイデン大統領は、就任に合わせて総額1.9兆ドルのという景気対策を発表しました。その名も「アメリカンレスキュープラン」です。

このプランをめぐり、バイデン政権の攻撃的とも言える議会運営方針が見えてきました。

<文:ファンドマネージャー 山崎慧>


バイデン政権は大型景気対策を発表

アメリカンレスキュープランの主な項目は以下のようになっています。

・ 一人当たり1,400ドルの家計向け給付金…4,650億ドル
・ 州地方政府向け支援…3,500億ドル
・ 失業保険上乗せ延長…3,500億ドル
・ ワクチン開発、流通、接種支援…1,600億ドル
・ 学校支援…1,700億ドル
・ 児童、一人親支援…1,200億ドル

これに対して、共和党のロムニー元大統領候補などの穏健派は1月31日に総額0.6兆ドルの代替案を発表しました。ワクチン支援金額はバイデン大統領の案から据え置く一方、失業保険の上乗せ額をバイデン案の週400ドルに対して週300ドル、家計向け給付も年収5万ドル以下の個人と10万ドル以下の世帯に制限するなどより財政規律を重視した内容です。

1月5日のジョージア州決選投票で勝利したことで、バイデン政権は上院も支配するようになりましたが、それでも50対50にハリス副大統領を加えることで何とか法案を可決できるぎりぎりの状況となっています。

そのため、共和党との友好関係をある程度保ちながら、超党派での合意を目指した議会運営が行われるとの見方が多くなっていました。

しかし民主党は2月5日に「財政調整措置」を含む予算決議案を上下両院で可決するという予想外の行動に出ます。

<写真:AP/アフロ>

予想外の強硬姿勢、就任早々に特別措置を利用へ

上院ではより慎重な審議のために議事妨害が認められおり、それを終わらせて法案を可決するためには本来であれば60議席が必要です。財政調整措置とはその議事妨害を防ぎ、法案を50議席の単純過半数で可決できる特別措置なのです。

民主党の「財政調整措置」を含む予算決議案の可決は、共和党との超党派の協力を早くも諦めるという意思表示となっています。

2020年12月には、一人当たり600ドルの家計向け給付金を含む0.9兆ドルの景気対策が超党派の合意によって成立しています。そこにさらに1.9兆ドルを上乗せすると合計で2.8兆ドルとなり、民主党が2020年9月に下院で可決した当初の景気対策である2.2兆ドルを大きく上回るため、規模が大きすぎるという共和党の主張にも分があるように思えます。

また、サマーズ元財務長官やブランシャール元IMFチーフエコノミストといったそうそうたる面々も、今回のアメリカンレスキュープランが過剰だと指摘しています。こうしたことから、1.9兆ドルの民主党案、0.6兆ドルの共和党案の中間程度の規模に落ち着くと筆者は想定していましたが、実際には民主党の主張通り1.9兆ドルに近い金額となりそうです。

また、財政調整措置はあくまでも例外規定で、多用はしないというのが暗黙のルールとなっています。過去を見ても、ブッシュ政権ではブッシュ減税、トランプ政権ではトランプ減税、オバマ政権ではオバマケアと、自らの名前を冠するような目玉政策に限って用いるのが慣例となっていました。

筆者は今年の夏以降に審議が本格化する来年度予算における法人増税やキャピタルゲイン増税、大型環境インフラ投資で財政調整措置が用いられるものの、アメリカンレスキュープランでは超党派の協力を模索すると考えていました。

党派対立が続き、年後半の増税幅拡大も

バイデン大統領は就任演説で、「保守派とリベラルを対立させる、この不穏な国内対立、このまともでない戦いを終わらせなくてはなりません」と高らかに宣言しました。

しかし、実際にはあのトランプ政権でさえ用いるまでおよそ2年かかり、任期中1回だけしか用いなかった財政調整措置を就任からわずか1ヵ月で用いようとしています。

また、来年度予算を可決するために年後半に再び用いるのも確定的となっています。財政調整措置が多用されるようになると、共和党との党派対立はさらに先鋭化します。バイデン政権の議会運営はトランプ政権よりも攻撃的と言えるでしょう。

共和党はバイデン大統領の公約である法人税やキャピタルゲイン増税に反対していますが、ここでも財政調整措置が用いられることを考えると、来年度予算では共和党の反対をものともせずに増税が決定される可能性が高まっています。また、共和党との間で妥協が成立し、増税幅が縮小するといった展開も考えにくくなってきます。

株式市場は米国で過去最高値を更新し、日本株もバブル後の最高値を更新するなど好調が続いていますが、アメリカンレスキュープランの大型化も直近の株高要因となっています。確かに目先の景気対策の大型化は株式市場にとってポジティブです。

しかし、党派対立の深刻化によって来年度予算に盛り込まれる法人税やキャピタルゲインの増税幅が大きくなってしまうことには警戒する必要があります。

※内容は筆者個人の見解で所属組織の見解ではありません。

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