総合物流業に飛躍 ブロックトレインや定温貨物列車を新設 JR貨物が「グループ長期ビジョン2030」策定

JR貨物グループが長期ビジョン最終年の2030年に目指す姿 画像:JR貨物

2021年の年明け以降、JR貨物が攻めの姿勢を鮮明化しています。国が2020年末に同社への財政支援を決定したのを受けて、2021年年頭に今後10年間の経営の方向性を「JR貨物グループ長期ビジョン2030」として公表しました。長期ビジョンで2つの柱としたのは、「総合物流業への躍進」と「開発事業のさらなる展開」です。

さらに、ビジョンでは「ブロックトレイン」や「定温貨物列車」といった新機軸を打ち出し、目標年の2030年には、物流分野でオンリーワンの企業になることを目指します。物流界全体の動きを織りまぜながら、JR貨物の針路を展望してみましょう。

貨物は自分で動けない!

これまでの流れをおさらいします。同じ鉄道で旅客と貨物の違いについて、「旅客は自分で行動するが、貨物は人が動かさねばならない」と言われたりします。今だから言えますが、国鉄時代は旅客より貨物の方が一段上と見られていました。

しかし1970年代以降、高速道路網が全国規模で整備され、発荷主から着荷主まで直接運べるトラック輸送がシェアを伸ばし、総体の貨物輸送量が減少傾向をたどったこともあって、JR貨物は長く苦戦を強いられてきました。2020年度はコロナも影響します。そうした中で決まったのがJR北海道、JR四国、JR貨物の3社に対する財政支援。

JR貨物は2023年度まで138億円の支援を受けます。関係法令(「国鉄清算事業団の債務等の処理に関する法律」)の改正法案は2021年1月29日に閣議決定を受け、国会に提出中です。

全国ネットの輸送サービスを提供する唯一の鉄道会社

国の財政支援をめぐってはJR四国が「長期経営ビジョン2030」の骨子を発表し、鉄道チャンネルのコラムでも紹介させていただきました。「JR貨物グループ長期ビジョン2030」も背景は同じで、真貝康一社長が会見で発表しました。ビジョンは、会社の基本姿勢を「全国ネットワークの貨物鉄道輸送サービスを提供する唯一の鉄道会社として、社会インフラである物流の幹線輸送を担うべく、鉄道ネットワークの強じん化を進め、確固たる事業基盤を構築する(大意)」のフレーズに集約しました。

貨物輸送は原料調達から製品出荷、さらにはインターネット通販の商品配送まで企業活動に絶対必要ですが、荷主企業や一般消費者にとっては、表に出ない黒子のような存在。いくら鉄道が好きでも、JR貨物で輸送された商品しか買わない方はいらっしゃらないでしょう。とにかく普通、どんな物流手段を使ったかは分かりません。だからこそJR貨物は、長期ビジョンのトップに掲げた総合物流業への躍進で、「鉄道ネットワークの強じん化」と「貨物駅の物流結節点機能の向上」という2つの施策を打ち出したのです。

自然災害に負けない強じん化

旅客列車のスマートさとは異なる力強さを感じさせる貨物列車。 写真:tarousite / PIXTA

最近は落ち着いた状況にありますが、JR貨物は1987年の会社発足から10年余は毎年のように自然災害に見舞われ、トラックや船舶による代行輸送を強いられました。自然災害との関係では、東日本大震災時の石油輸送のように貨物鉄道が被災地を勇気付けた事例もありますが、いずれにしてもネットワーク強じん化は企業への社会的信頼を高めます。

ここで一点、長期ビジョンで目が止まったのが、冒頭の図にも載せましたが「鉄道インフラ(在来線・新幹線)」の記載です。「新幹線の有効活用」は何を意味するのか、北海道新幹線と線路を共用する青函トンネル区間のことか、あるいは最近JR旅客会社が取り組む新幹線車両による商品輸送なのか、機会があれば取材してみたいと思います。
(と書いていたら、2021年2月13日の福島沖地震で鉄道も大きな被害を受けました。JR貨物にも影響が出ています。被災された皆さまにお見舞い申し上げるとともに、一日も早い復旧をお祈りします)

レールゲートを物流結節点に

鉄道貨物駅には新技術を積極採用 画像:JR貨物
レールゲートの全国展開イメージ 画像:JR貨物

施策の2番目に掲げた「貨物駅の物流結節点機能の向上」も、貨物鉄道の利用促進に欠かせません。貨物を鉄道輸送する場合、発荷主、着荷主の双方で工場や倉庫から近隣の鉄道貨物駅までのフィーダー輸送が必要になります。最近の貨物鉄道は駅間直行のコンテナ輸送がほとんどで、コンテナ貨車からトラックへの積み替え時間を短縮したり、駅で貨物を一定時間保管できるようにするのが物流結節点機能向上の意味するところです。

図の「レールゲート」とは貨物鉄道駅のマルチテナント型大型物流施設で、いうなれば旅客鉄道会社にとっての駅ビルのような存在。2020年3月、東京都品川区の東海道貨物線東京貨物ターミナル駅構内に開業した「東京レールゲートWEST」が全国第一号です。テナントとして入居する企業は、レールゲートを倉庫に貨物を一時保管したり、製品を小分け包装して商品化するのにも使えます。

物流業界では、輸送する貨物に付加価値を付けるビジネスを「流通加工」と呼んで一定の収益源になっています。レールゲートは、JR貨物の流通加工基地という見方もできるでしょう。全国展開では、札幌や大阪、福岡など全国主要都市にレールゲートを順次開設する計画のようです。

「ブロックトレイン」と「定温貨物列車」

ブロックトレインと定温貨物輸送のイメージ 画像:JR貨物

新しい輸送サービスでは、「ブロックトレイン」と「定温貨物列車」が登場します。ブロックトレインはシベリア鉄道をはじめとする海外に事例がありますが、日本へは今回が初登場。輸送力をブロック(区画)売りして、列車1編成または一部貸切で輸送(専用ブロックトレイン)したり、複数荷主の貨物を積み合わせで運ぶ(混載ブロックトレイン)スタイルを意味します。

定温貨物列車は、温度管理が必要な食料品や医薬・精密機器などの専用列車。1編成の貨車すべてを、温度管理できる定温コンテナで埋めます。

コロナの影響はわずか

コンテナ貨物に比べ地味な車扱輸送ですが、石油、セメント輸送などに一定のシェアを持ちます。 写真:tarousite / PIXTA

ここで途中下車をお許しいただき、最近のJR貨物の輸送動向をみましょう。2020年9~12月の2020年度第3四半期の輸送量前年同期比はコンテナ0.9%減、車扱0.3%増で、全体では0.6%減。前年は台風19号による列車運休があったので単純比較はできないのですが、旅客鉄道に比べると明らかにコロナの影響は小さい。いくらステイホームでも、食事しなければならない、クルマにガソリンを入れないと買い物にも出られないということなのでしょう。

輸送品目別で伸び率が高いのは、エコ関連物資の9.4%増、他工業品の5.2%増(以上コンテナ)、セメント・石灰石の5.3%増、車両の3.2%増(以上車扱)など。エコ関連貨物とは、資源リサイクル工場に運ぶ廃棄品貨物のことです。

産業界全体の物流動向は、日本通運のシンクタンク・日通総合研究所が2020年度と2021年度の「経済と貨物輸送の見通し」を発表しています。コロナ禍の2020年度は世界大恐慌に匹敵する経済の落ち込みが避けられないものの、2021年度は反動で個人消費、設備投資、輸出のいずれもプラスへの復帰を予想。JR貨物の輸送量は2020年度が前期比6.8%のマイナス、2021年度が4.3%のプラスを見込んでいます。

貨物駅スペースの有効開発で安定した収益を確保

残りスペースが少なくなったため、開発事業は簡単に。不動産事業は、社有地の利用方法を見直して開発可能用地を生み出すほか、レールゲートを中心とする施設展開で、安定的な収益の確保につなげます。海外事業では、海外の貨物鉄道のコンサルティングや技術支援に参画。国際貢献を通じて、新たな事業機会の獲得を目指します。

2021~2030年の設備投資規模は4020億円程度で、維持・更新投資が約2250億円、成長・戦略投資が約1770億円。2023年を目標年とする現行の「JR貨物グループ中期経営計画2023」に掲げる利益目標(連結経常利益140億円以上)を安定的に維持できる収益基盤を築きます。JR貨物は長期ビジョン策定の狙いを、「10年スパンの企業像を提示することで、長期的視野で企業経営に当たるため」と説明します。

文:上里夏生

© 株式会社エキスプレス