シェアオフィスや駅での商品受け取り ウィズコロナを生き抜く鉄道の新サービスあれこれ

乗降駅や乗換駅にあれば便利。STATION WORKはそんなコンビニのような存在といえるでしょう。 写真:JR東日本

東京都や大阪府など10都府県で、緊急事態宣言の延長期間に入った新型コロナウィルス感染症。鉄道業界を見渡せば、外出を促すような営業面の情報がほぼ皆無になる一方で、ウィズコロナ時代に合わせた新サービスのニュースが、日々発信されています。

鉄道事業者が今、目指すべきは「地域共生の深耕と新たな価値創造への挑戦。構造改革や変化対応力向上の取り組みを進め、変革・復興を成し遂げる」(長谷川一明JR西日本社長の2021年年頭所感から)に集約できるでしょう。国土交通省がまとめた、2020年末時点での鉄道業界へのコロナの影響を概観しつつ、2021年2月の発表からシェアオフィス事業や駅での商品受け取りを取り上げました。

感染者増加でも都市鉄道の利用者数に大きな変化なし

国土交通省が月次データとして公表する、「新型コロナウィルス感染症による関係業界への影響」で2020年12月末時点の調査結果がまとまりました。鉄道分野では、「12月の旅客数が前年同月に比べ50%以上減少した」の回答は、大手民鉄と公営鉄道でともにゼロ、中小民鉄で8%。同月は翌2021年1月の緊急事態宣言再発出に向け、感染者数が拡大傾向をたどった時期に当たりますが、鉄道の利用客数に関する限り、2020年4~5月の最初の緊急事態宣言時のような大きな影響はみられませんでした。

2021年1月末から発表が続く、JRグループや私鉄の2020年度第3四半期決算をみれば、鉄道業界の経営環境が非常に厳しいことに変わりはありません。しかし、同じ国交省の所管分野でも、鉄道の苦境が航空や観光(旅行業・宿泊)のような大きな社会問題になっていないのは、通勤・通学(大学生はリモート授業も多いようですが)という輸送のベースがあり、それが鉄道事業者の基礎体力になっているからだと思います。

日本国内での最初のコロナ発症から1年が経過し、感染拡大の主な要因は複数でのマスクを外しての会食や深夜に至る飲酒に集約されてきました。通勤・通学といった鉄道利用時の感染リスクは非常に低いことが社会的に認知されています。政府は「テレワーク推奨で出勤者7割減」を目標に掲げ、多くの企業が協力するわけですが、日常の経済活動が完全にリモートに置き換えられないことを、何よりオフィスワーカーは実感しながら、日々通勤列車を利用しているはずです。

ウィズコロナ時代に選ばれるシェアオフィス事業

JR東日本の「STATION WORK」事業展開イメージ 画像:JR東日本

JR東日本がウィズコロナで力を入れるのはシェアオフィス事業の「STATION WORK」です。「机といす、電源、インターネットの通信環境を備えたブース型の簡易オフィスを駅に置く」のビジネスモデルを打ち出したのは2018年11月。まだコロナは影も形もありませんでした。当時のニュースリリースには、「JR東日本グループの経営ビジョン『変革2027』に掲げる『ヒトを起点とした価値・サービスの創造』の実現に向け、働き方改革や生産性向上をサポートする」とあります。三密回避のため駅でリモートワークの発想は、後から着いてきたわけです。

JR東日本のビジネスの基本が、「鉄道による移動」にあることは言うまでもありませんが、その移動に付加価値を付けるのが「STATION WORK」。移動の新幹線でパソコンを打って書類を作成し、それを降車駅のブースからメール送信するビジネススタイルは、「一体いつ休むのか」「まるで、昔あった『24時間戦えますか』のCMのよう」と突っ込みを入れたくもなりますが、それが世界を相手にする現代人のライフスタイル。それを支えるからこそ、STATION WORKも事業領域を拡大してきたのです。

駅だけでなくホテル、ジム、コンビニ、カフェでも

当初は駅スペースの有効活用で始まったSTATION WORKは、ウィズコロナという時代変化で新しい働き方として定着するかもしれない。私には今、その岐路に立っていると思えます。第三者として客観的にみれば、駅のブースはデータの修正やメールのやり取りには便利かもしれませんが、テレワーク・リモートワークで何時間も滞在して仕事するには狭すぎて不向きとも思えます。

JR東日本もその辺は十分に心得ているようで、「STATION WORKは2020年度100カ所ネットワークへ」と題した2021年2月8日の発表では、同社系列のホテル、ジム、コンビニエンスストアなどに事業展開する方針が示されました。

思い返せば、ICカード乗車券・Suicaの登場時、「スイカ」のネーミングに若干の違和感を抱いたものですが、今は完全に定着して鉄道をあまり利用しない人もSuicaで買い物しています。リモートワークはこれからも続くのですから、「STATION WORKも、いい意味でJRから離れた独自ブランドとして通用するように、さまざまな利用・定着方法を考え実践してほしい」と、エールを送りましょう。

東京メトロのシェアオフィスは「CocoDesk」

扉の形状に違いはありますが、東京メトロの「CocoDesk」はJR東日本の「STATION WORK」にも似た印象です。(筆者撮影)

〝駅でビジネス〟は、JR東日本以外の鉄道事業者にも波及します。東京メトロは2021年2月2日、大手事務機メーカーの富士ゼロックスとの協業で、個室型ワークスペースの「CocoDesk(ココデスク)」を千代田線新御茶ノ水、日比谷線六本木、東西線日本橋など7駅にブース11台で展開する方針を発表しました。CocoDeskの事業スタートは2020年2月からで、今回の7駅11台を加え全体で26駅46台になります。

CocoDeskはメトロ、ゼロックスの2社共創ブランドで、メトロの資料には「メトロ駅だけでなく、オフィスビルなどでも設置が進んでいます」とあります。JRとメトロを比較すれば、自社ブランドのSTATION WORKを駅構内中心に増設するJR、市中に共通ブランドのCocoDeskがあるメトロという違いがあります。どちらが良い悪いでなく、私は双方を支持したいと思います。

ここからは完全な仮定の話ですが将来、鉄道のエキナカオフィスが定着して、SuicaやPASMOのような鉄道共通のブランドになれば、それはそれで鉄道の未来を開く扉になるでしょう。一つ付け加えれば、メトロは関連事業の割合が一般の鉄道事業者に比べまだまだ低いので、CocoDeskのような新規事業は、経営基盤強化につながると思います。

STATION WORKとCocoDeskに関しては、鉄道チャンネルに詳しい紹介記事があります。併読いただければ幸いです。

東急は個人向け非会員制の「relark」創設

東急の「NewWork」「relark」の事業展開イメージ 画像:東急

シェアオフィス事業巣は各社各様のようで、東急電鉄の親会社・東急は「法人向けサテライトシェアオフィス事業『NewWork』の新業態として、個人向け非会員制の『relark(リラーク)』を創設する」と、2021年2月9日に発表しました。2021年2月1日時点でのNewWorkの業容は、直営店・提携店合わせて全国226拠点・会員企業数450社以上で順調に定着します。

しかし、現在のようにリモートワークが常態化すると、「勤務先は法人契約していないけれど、NewWorkでテレワークしたい人」が当然現れます。そんな、新しい顧客に向けたのがrelark。事業エリアは東急沿線を中心に、東京の新橋や池袋、埼玉県大宮、千葉県津田沼などに広がります(一部はフランチャイズ制)。

西武HDは駅で百貨店購入商品受け取り

西武HDの駅配サービス「BOPISTA」のコインロッカーと商品イメージ 画像:西武HD

西武ホールディングス(HD)が2021年2月4日に発表、同8日から始まった、池袋線池袋、富士見台、所沢(新宿線との接続駅)に設置したスマートコインロッカーを活用した駅配サービス「BOPISTA(ボピスタ)」は、オンライン注文した西武百貨店池袋本店の商品を、駅で受け取れる非接触型の配送サービスです。利用料金は購入商品額に応じて100~400円。

初回の取扱商品は、バレンタインデーを意識したチョコレート。BOPISTAは西武HDが、そごう・西武(企業名)、西武系コインロッカー運営のセントラルオペレーション、スマートコインロッカーのSPACERの3社との協業で考案しました。

ウィズコロナ時代のビジネスの種は、まだまだ尽きないはず。今後も、各社のアイディアに期待したいと思います。

文/写真:上里夏生

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