新型コロナのワクチン接種 不安払拭へ情報開示を 森内浩幸教授 インタビュー

新型コロナウイルス感染症のワクチンの有効性などについて説明する森内教授=長崎大学病院

 新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が国内でも始まった。米製薬大手ファイザー社製で、医療従事者への先行接種は、県内でも22日から始まる見通し。新型コロナ収束に向けた「切り札」となり得るのか。日本ワクチン学会理事を務める長崎大学病院小児科の森内浩幸教授(60)に、有効性やリスクなどを聞いた。

■新型コロナウイルスワクチンの有効性は。
 (承認済みの)米ファイザー社や(今後供給予定の)米モデルナ社のワクチンの有効性は95%程度と報告されている。これは発症を防ぐ効果で、感染を防ぐ効果はイコールではない。今後、変異株に置き換わってしまうと有効性は下がる可能性もある。

■安全性や副反応は。
 米国だけで5500万回以上、他の国も含めれば1億8千万回以上打たれている。1万人規模の治験で判明した事象と大きく外れておらず、安全性は十分な担保があると考える。
 100%安全なものはない。風邪薬を飲んだり、普通にご飯を食べたりした場合でも何か起きて命に関わることはある。さらにいうと、そちらのほうが発生頻度は高い。
 急激なアレルギー反応のアナフィラキシーについては、今までの医者人生で医薬品によるものは山ほど経験したが、ワクチンでは1回もない。備えは必要だが、そんなに怖くはない。
 接種された場所が腫れて痛くなるし、2回目の接種の後は十数%の人は発熱すると思うが、1、2日で治る。

■世論はワクチンへの不安を払拭(ふっしょく)できていない。
 安心と安全が違うからだろう。日常起きていることとして慣れてくると怖くない。例えば、毎年多くの人が交通事故に遭っているが、車の運転はやめない。それは車を運転するメリットが、事故に遭うかもしれないというデメリットを超えると考えているから。
 今回のワクチンも同じ。打った場合と打たなかった場合、それぞれのリスクを考える必要がある。(重症化のリスクが低い)若い人も脱毛や嗅覚・味覚異常が長く続くことだってあるし、大切な人にうつしてしまい、それが命に関わることだってある。感染を防ぐことで(コロナ前の)日常に戻るスピードも上がる。自分だけではなく、社会全体のプラス面も含め、どうするか考えていかなければならない。

■「集団免疫」を獲得するためにはどの程度の人が接種する必要があるのか。
 今の段階でははっきり言えない。今のワクチンの感染を防ぐ効果が分かっていないから。仮に感染を防ぐ効果が70%くらいあるとすれば、このウイルスに対する集団免疫を獲得するには、人口の60~70%に免疫がないといけないので、ほとんどの人が接種しなければならない。さらに変異株に置き換われば有効性も下がり、仮に感染防止の効果が50%を下回ると、国民全員が打ったとしても感染は続く。ワクチンだけでは抑えられないので、今やっている感染対策を淡々とやり続けることも重要だ。

■通常の予防接種と注射の打ち方が異なる。
 同じ針を使うため、痛さは変わらない。(今回は)皮下組織の下にある筋肉に直接打つ。深い方が痛くない。やったことのない打ち方だから怖さを感じる人が多いのだろう。

■妊婦や子どもも接種した方がいいのか。
 妊婦や授乳中の母親に打っても理論的に問題はないが、現時点では安全性に関するデータが不十分。胎盤や母乳を介して赤ちゃんに感染することはなく、接種が駄目だとする医学的根拠は皆無だ。
 妊娠や出産の際にはもともと一定の確率でいろんなトラブルが起きる。(接種後に)トラブルが起きるとやはりワクチンのせいだと結び付けてしまうのが私たちの心理。医療従事者や重症化のリスクがある場合を除き、妊婦に強く勧めるのは少し難しいと思う。
 子どもは新型コロナに感染しても普通の風邪と変わらず、打つメリットはあまりないだろう。あるとすれば、集団免疫をつくるためだったり、家庭にいるハイリスクの人を守るためだったり。それにはまず、子どもへの接種の安全性のデータが得られ、集団免疫の効果があるかどうかが分からないといけない。

■接種方法は集団接種と個別接種の2種類ある。
 集団接種は大きなトラブルを持っていない人を対象に短期間でより多く接種するための方策。本来、ワクチン接種は患者の基礎情報を知る、かかりつけ医が打つのがベストだろう。
 体育館など広い会場で緊張感が漂う中、初対面の医師や看護師に話を聞かれて注射を打つと、恐怖心からいわゆる脳貧血で失神する「迷走神経反射」が起きやすくなる。これはアナフィラキシーのように何十万分の一の確率で起きるものと違い、状況が悪ければすごい数が出る。連鎖性もあり、むしろそれが一番怖い。
 ただ、集団接種以外は無理な自治体もある。その場合、アナフィラキシーだけでなく、迷走神経反射のようなことが起こり得るということも認識し、準備しなければならない。

■恐怖心を和らげるために必要なことは。
 ワクチン接種後に起きた(好ましくない)ことを全て有害事象として報告し、データをきちんと提示すること。できる限りリアルタイムで上げ、それを基に判断してもらうことで単なる安全だけではなくて、安心の部分も得られるだろう。
 (海外のデータで)ワクチンの有効性、安全性は分かってきているが、「日本人だけ特別なことが起きるかもしれない」と言う人もいる。医療従事者の先行接種により、同じ日本人のデータを伝えていくことで、多くの人が安心感を持つことになると期待している。

■ワクチンはどういう存在になり得るか。
 どんなワクチンでも有効性、安全性には限界がある。毎年変異していく恐れのあるウイルスなので、インフルエンザワクチンと同様、作り替えが必要になるだろう。ワクチンの有効性がどれくらい持続するのかも分かっていない。コロナがある程度収束するまでの間、接種を繰り返さなければならないかもしれない。
 ただ、少なくともトンネルの向こうに出口の明かりは見えていると思う。ワクチンが順調に製造され、滞りなく供給されていくのであれば、結構いいスピードで出口まで行くかもしれない。でも1年程度では難しいだろう。大事なのは、安全にスピードを出すこと。それにはワクチンの有効性や安全性について、正しい理解の下で、接種が広がるということに尽きる。

 


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