米大統領選挙 意見相違、ぶつけ合う 国の行く末 真剣に考察<アメリカのつくられ方、そして今>

 トランプ氏が大統領になった年に開かれた、女子会での出来事。たわいもない話から政治の話題になった。トランプ氏が大統領になったことを不服とする1人が同氏の素行の悪さをあれこれ並べ、大統領の器でないと言った際、トランプ擁護の1人との議論が炎上した。その後、2人は疎遠になった。小さな分断を見たその日の教訓は、政治の話で激しく議論したとしても、イデオロギーはその人の一部で全人格ではないと、肝に免じるべきだということだ。
 バイデン氏の大統領当確が確実となった昨年。トランプ氏は勝利を認めず、不正選挙行為を糾弾し訴訟を連発した。トランプ氏の潔くない態度に「喝」を入れたくなった。一方で大統領になるバイデン氏に「喝」を入れる、トランプ支持の友人らの存在が、自己の立ち位置を考えるいい機会になった。
 トランプ氏の大ファンという、友人宅の白人の同居人は、各地で不正選挙が行われたという詳細を語った。「不正で大統領になったやつは大統領として認めない」と言い、フェイクニュースを流すメディアは信用できないなどと捲(まく)し立てた。友人も「トランプは好きではないが、バイデンはもっと最悪」とけなす。
 トランプ氏の当選を信じ切っていた、沖縄県系人の人生の先輩は「トランプが大統領でないと沖縄は一大事になる」と、隣国の沖縄への攻撃と乗っ取りを懸念している。そして「バイデンがどんなあくどい行いをしたか調べなさい」との助言までも。
 キリスト教徒の沖縄出身の友人らは、トランプ氏は大統領になるべくしてなったと主張する。トランプ氏がエルサレムをイスラエルの首都と正式に認めると発表し、イスラエルとアラブ首長国連邦の国交正常化に導いたことは、聖書の予言通り神のみ心に添ったもので、トランプ氏の偉業だと力説する。トランプ氏の票が盗まれたと信じる彼女らに、不正の証拠はないのではと追及すると、民主党が最新のシステムで不正をもみ消したと反論し、数々のトランプ派関連のSNS情報を送ってくる。
 それらの情報を見ながら思うのは、イデオロギーの相違があろうとも、それぞれに今の米社会の行く末を真剣に考えている点に、納得できるということだ。送られてきた動画で、トランプ派の主張をかなり勉強させてもらった。
 民主主義の醍醐味(だいごみ)は意見の相違を互いにぶつけ、政府に対して抗議ができる点だ。彼の国では言論の自由さえなく、政府批判の抗議のデモが平和的であっても、政府に盾突いたとして拘束されてしまう。そういう意味では米国も日本も健全な国だと言える。個人としては、極端かつ過激にならず、中立で冷静に見極めることが最善の立ち位置だと、選挙戦の一部始終を見て思った次第である。
 (鈴木多美子、バージニア通信員)

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