【社会人野球】「野球が進んでいない」 元日ハム守護神、武田久氏が感じるアマ球界の問題点とは

日本製鉄東海REXのコーチを務めている武田久氏【写真提供:日本製鉄東海REX】

現在は社会人の日本製鉄東海REXのコーチを務める

日本ハムで通算167セーブを挙げた武田久氏は現在、社会人野球の日本製鉄東海REXのコーチを務めている。コンディショニングの大切さを説く武田氏に、指導論から日本ハムの後輩たちへの思いまで語ってもらった。3回に分けてお届けする。【石川加奈子】

現役時代は低い重心から浮き上がるような直球を投げ込み、シュートで内角を攻めていく強気な投球が印象的だった。セットアッパーとして2006、07年のリーグ連覇に貢献、09年以降はクローザーとして最多セーブに輝くこと3度。修羅場をくぐり抜ける度に、気持ちの強さがクローズアップされたが、武田氏にその自覚はなかったという。

「強い人はいないと思っているので。強くないから、できるだけのことをしっかりやって、マウンドで開き直れるようにと思っていました。ベテランになっても、マウンドに上がるのは怖い。怖いと思うから緊張するし、緊張感が増すから集中力が増すという感じです」。そう言った後で武田氏は続けた。「心技体という言葉があるじゃないですか。僕はみんなに『体技心だよ』と話しています」。

指導者として最も大切にしているのは、コンディショニングだ。「健康的な体があるから、しっかり練習ができる。体がしっかり動ける状態だから技術も身につく。そこでやっと心ですよね。やるべきことをやったから、自信もつくし、マウンドの上で、気持ちで負けないぞとなる。抑えてやろうと思ったって、根拠がなきゃ無理じゃないですか。まず体力、次に技術という順番を今の選手に話しています」

15年間過ごしたプロからアマチュア球界に戻り感じたこととは【写真提供:日本製鉄東海REX】

練習漬けだった駒大時代は体重が減り、球速が上がらなかったという

苦い思い出がある。駒大時代は夏場の一番暑い時期にポール間往復走を40本行い、投げ込みは毎日100球が当たり前だった。練習時間も午前8時半から午後5時までと長かった。「プロでのベスト体重は73キロでしたが、大学生の時は65キロでした。痩せないと練習についていけないんですよ。ウエートトレーニングはやらず、ただ投げて、走って。そりゃ、筋肉も削ぎ落とされます」と苦笑しながら振り返る。それを乗り越えた人たちが猛練習を美化する場面に遭遇することもあるが、武田氏は「逆に潰れていった選手もいっぱい見ているので、紙一重だと思いますよ」と冷静だ。

結局、入学時143キロだった最速は4年の秋に144キロと1キロしか伸びなかった。「疲れて、走らされて、筋力もないところに追い討ちをかけるように毎日投げ込みをしていたら、球は速くならないですよ。ただ、当時はそれが当たり前だと思っていたし、正解かどうか考える余裕もなかったですから。今みたいにちゃんと考えて練習できていれば、たぶん大学の時に150キロ近く出ていたはずです」と語る。

日本通運を経てドラフト4巡目で入団した日本ハムで、コンディショニングの大切さを学んだ。最初は「こんなのでいいのか」と練習量に物足りなさを覚えたという。だが、トレーニングから休養、栄養、睡眠まで全てひっくるめてコンディショニングであることを知った。「ファイターズでは、効率良くやるところはやるということで、根拠に基づいてやってきました。両方経験してきた僕が、これから伝えていかなければいけないのは根性野球ではないと思っています」と確信を持って指導にあたる。

日本ハム引退後の2018年から古巣の日本通運で2年間、選手兼任コーチとして活動し、昨年から日本製鉄東海REXのコーチを務めている。15年間過ごしたプロからアマチュア球界に戻ってみると「野球が進んでいない」と感じたという。「長時間みんなで練習することの良さもあるとは思います。でも、それが試合にリンクしているのかなって。ウエートトレーニングはやらず、投げ込み、走り込みというアマチュアの大学、社会人は今でも結構あると思います」と語る。

長時間の全体練習に疑問、個人練習が効率的と指摘する

そんな現状をもどかしい思いで見ているからこそ、声を上げる。「もったいないと思うんです。全体練習で詰め込むのではなく、全体練習をある程度で切って、個人練習によって個々の能力を伸ばしてあげた方が効率的に時間を使うことができます」

独自の投球スタイルを確立して100セーブ&100ホールドを達成したタフネス右腕の口調は、さらに熱を帯びていく。

「指導者の立場からすると、全体練習でメニューを詰め込む方が楽なんです。拘束時間が長いと、何となくやった気にもなるでしょうし。でも、指導者はもっと一人一人の技術を高めるアプローチをすべきだし、そのための勉強をするべきです。40代、50代の指導者が現役だったころと今では考え方もトレーニングも全く変わっていますから」。

試行錯誤していた昔の自分と今の教え子を重ね合わせているのかもしれない。若い選手の成長を真摯に願う武田氏の言葉には、野球界を変えるヒントが詰まっている。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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