バイデン米政権、対中強硬の政策不変 中国海警法「警戒」 台湾代表インタビュー

 台湾の駐米代表部に相当する台北駐米経済文化代表処の蕭美琴代表が共同通信のインタビューに応じ、バイデン米政権発足に伴う米台関係、中国をにらんだ東アジアの地域安全保障を包括的に語った。トランプ前政権が進めた対中強硬路線と台湾支援拡大はバイデン政権でも「継続している」と不変を強調した。中国海警法施行で地域の緊張が高まっていることを念頭に「偶発的事態の可能性があり警戒しなければならない」と述べ、衝突への懸念を示した。(共同通信=仲井大祐)

インタビューに答える台北駐米経済文化代表処の蕭美琴代表=16日、米ワシントン(共同)

 ▽好スタート

 蕭代表は神戸市生まれで、蔡英文台湾総統に近い。立法委員(国会議員)を経て、女性初の駐米代表として2020年7月に着任。21年1月のバイデン大統領就任式に1979年の米台断交後、駐米代表として初めて正式な招待を受けて出席した。米誌ブルームバーグ・ビジネスウィークは2021年1月、注目すべき最重要人物8人のうち1人に挙げた。

 ―バイデン氏の就任式に招待され、出席した。

 これまでの代表は米議員の招待枠で出席していたが、今年は新型コロナウイルスの影響で招待枠がなくなり、調整が必要になった。その結果、1979年以降、就任式実行委員会から初めて直接招待された駐米代表となり、非常に名誉なことだ。台湾を民主主義のパートナーとして認めてもらったことは意義深い。民主主義と自由を共通言語に新政権と協力し、価値観と利益を前進させたい。

 ―バイデン政権になり台湾政策、中国政策に継続、変更は見られるか。

 台湾は米政界で超党派の支援を確保できるよう長年取り組んできた。新政権でも多くの高官が支援を強調し、継続している。中国については安全保障、技術、政治制度、思想、価値観、世界での影響力など多くの分野で米国に競争を突き付けている。この見方は米超党派で共有されている。

バイデン米新大統領の就任式が行われた連邦議会議事堂=1月20日、ワシントン(ロイター=共同)

 ―トランプ前政権との違いはないか。

 バイデン政権は同盟国やパートナーとの連携を重視し、スタイルや提示方法に違いはあるかもしれない。ただ全般的には地域の安定という共通利益は継続している。地域情勢で戦略的な政策を練る要因は変わっていない。新政権との協力は好スタートを切った。台湾の安全保障に対する米国のコミットメントは繰り返し確認されている。

 ―2月にソン・キム国務次官補代行に会った。

 米政府との関係には深さ、広がりがあり、それが継続している証左だ。今後も多くの機会があることを期待している

 

 ▽行動に移す能力

 中国の海警法が日本を含む東アジアで懸念を呼んでいる。中国軍機は台湾周辺の飛行を重ね、圧力を強めている。

中国海警局が公開した艦船「2501」(手前)。甲板に「76㍉の速射艦砲」とみられる武器を搭載している(「微信」の公式アカウントから、共同)

 ―中国海警法には懸念を抱くか。

 中国の海洋権益や領海主張、その主張を行動に移す能力に懸念を抱いている。中国はプレゼンスを高めるため多くの力を注いできた。中国は攻撃的な手段を取ることがあり、漁船に対する妨害行為など「グレーゾーン」の作戦もある。偶発的な事態が起きる可能性は他にもあり、警戒を維持しなければならない。

 ―台湾の米国製の武器購入は今後も増えるか。

 米国の武器供与はわれわれの防衛、安全保障関係の重要な部分であり、続くと考えている。台湾のニーズに応じたものになるよう、米国と緊密に連携を続けたい。

 ―日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」をどう評価するか。

 歓迎する。地域で志を同じくする関係国の協力度合いを示している。ただ今は制度化されていない。どのように進展するかは4カ国次第で、関心を持って注視したい。

 ―米国はクアッド協力にコロナ対策や気候変動を盛り込みたい考えだ。

 われわれの視点ではコロナ対策や気候変動は包括的な安全保障の中に位置付けられる。究極的には人間の安全保障で、優先されることに驚きはない。地域の安定強化、協力拡大に貢献することを期待している。

 ―「自由で開かれたインド太平洋」構想で台湾の役割は何か。

 自由で開かれたインド太平洋構想には、台湾海域や南シナ海における航行の自由など幾つかの柱がある。近隣地域の平和と安定の確保のため役割を果たしたい。台湾の目的は民主主義、自由が生き残ることで、自由で開かれたインド太平洋と一致している。

米ワシントンで開催された米台経済対話に参加したクラック米国務次官(左から2人目)と台湾の駐米大使に当たる蕭美琴代表(右端)ら=2020年11月(中央通信社=共同)

 ▽価値ある経験

 バイデン政権はコロナ対策に力を入れ、気候変動を外交政策の中心に据えている。

 ―気候変動ではどのように協力したいか。

 国際的な取り組みを生産的かつ建設的に支えたい。台湾は国際的な政府間協定のメンバーではないが、国際基準を満たすよう努めている。

 ―台湾は世界保健機関(WHO)に加盟していないが、コロナ対応はうまくいっている。

 台湾がWHOから除外されているのは世界にとって不幸だ。2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の際、多くの命を失う悲劇的な経験をし、コロナという新たな挑戦が来たときに準備が比較的できていた。この経験は国際社会の取り組みにおいて価値がある。日米などが台湾が意味ある形で参加できるよう支援していることに感謝したい。バイデン政権がWHOに戻り、機運が生まれることに期待する。

 ―環太平洋連携協定(TPP)参加に向け、日本と協議したか。

 日本は重要な貿易相手で、非公式に話した。ただ台湾にとって重要な支援となり得た米国が抜け、状況は複雑になった。TPP加盟国の支援を引き続き模索したい。

 ―香港情勢をどう見るか。

 香港の不幸な出来事は「一国二制度」が機能していないことを示した。台湾にとっても非常に憂慮すべきことだ。香港の出来事は民主主義と自由を守る台湾の人々の決意を強めた

 

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 蕭美琴(しょう・びきん) 1971年生まれ。米オーバリン大卒、米コロンビア大修士課程修了。2002~08年、12~20年に立法委員(国会議員)。

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