五輪へ、最高峰の〝勝負形〟 空手・清水希容、栄光つかむか

2019年12月、全日本選手権の形女子決勝でチャタンヤラクーサンクーを演武する清水希容=高崎アリーナ

 東京五輪の空手・形女子で金メダルが期待される清水希容(ミキハウス)が、栄光をつかみ取ってきた“勝負形”について語った。(聞き手、共同通信=村形勘樹)

 ―一番得意な形は。

 全日本選手権や世界選手権など大舞台で何度も勝利に導いてくれた『チャタンヤラクーサンクー』。形にランクはないけれども、私の属する糸東流の最高峰だと思っている。

 ―どういう形。

 沖縄の北谷村の屋良という武道家から伝えられてきたことが名称の由来になっている。屋良さんは身長が低かったらしい。小柄な人が空手をしていたことも驚きだが、体形に合わせた技が織り込まれているのが興味深いところ。

 ―形の歴史も勉強している。

 そうした背景や武道の世界観を分かっているのか、いないのかで演武も大きく変わってくる。具体的には技が細かく多彩で、それらの連続動作や、身をかわす転身が多く含まれている。また月明かりだけの暗い環境や、相手を下からのぞいて反撃する場面を想定した、しゃがんだ姿勢からの動きもある。

「2020年1月のプレミアリーグ・パリ大会の形女子決勝でチャタンヤラクーサンクーを演武する清水希容=パリ(共同)

 ―取り組み始めたのはいつ。

 初めて挑戦したのは中学2年の時。先輩の稽古を見て『あんな動きできない』と思っていた。でも、実際にやってみると、ジャンプしたり体を回転させたり、切り返したりと、経験したことのない要素がたくさんあって刺激的だった。

 ―選手としての躍進を支えた形だった。

 ずっと3位止まりだった私は、この形を演武し高校3年の全国高校総体で初めて日本一を経験した。世界選手権の決勝でも勝たせてもらった。しんどくて、踏ん張ってきて、負けることもあったが、ここぞという場面ではいつも輝かせてくれた。

 ―演武のポイントは。

 スピード感にあふれて技数が多く、すごく表現が難しい。動きが細かいのでちょこちょことしてしまいやすいけれども、いかにダイナミックに演武するか。その難しさとは、ずっと向き合っていくのかなという気持ちがある。

 意識しているのは始めの連続動作、中盤の回転しながらの上下運動、ジャンプした後に呼吸が乱れ、乳酸がたまって迎える後半。こう言うと全部になってしまうけど、特に出だし部分のインパクトは重要。最初に『(審判員から)あ、弱いな』と思われてしまったら、その印象がずっと続いてしまうので、スタートの時の強さはすごく大事にしている。

2018年11月、世界選手権の形女子決勝でチャタンヤラクーサンクーを演武する清水希容=マドリード(共同)

 ―他の形と比べて。

 沖縄の空手には大きく『首里手』『那覇手』という2系統があり、離れた間合いからダイナミックに技を出す首里手、接近戦で重厚感のある那覇手という感じ。糸東流は両方の流れをくんでいて、チャタンは首里手系の形になる。

 ―どちらかに重点を置いているのか。

 私は糸東流の空手家として両方ともできる選手を目指している。形の継承は師匠から弟子への口伝が主。先人がつないできた技を、現代の私たちが表現し、後生に残していく。これが空手の魅力で、生涯続けたいと思う理由だ。

 ―形の魅力は分かりにくい部分もある。

 実は、一番最初に教わる基本の平安(ヘイアン)の形がすごく苦手だった。だけど基礎の中で覚えた技が複合されて次の技になったり、形の長さが変わったり、難度が上がったり、という段階を追っていくうちに、楽しくなっていった。

 ―鍛錬で心掛けていることは。

 武道の世界には『守破離』という言葉がある。最初はしっかりと師匠から指導を受け、型にはめる。次はそれを破壊して自分のものにする。最後は、そこから離れ技をもっと高めていく。こういう教えと意味を理解し、その精神を大切にし、実践できる空手家でありたい。

 ―今年は五輪という節目がある。

 仮想の敵が実際にいるように見える―。形が最終的に目指す境地です。私はまだその域に達してはいない。東京五輪に向け、自分自身も周りも納得できる演武ができるように仕上げていきたい。

  ×  ×  ×

清水希容

 清水 希容(しみず・きよう) 空手・形女子の東京五輪代表。小学3年で空手を始め、世界選手権は14、16年に優勝、18年は2位。全日本選手権は13年から7連覇。アジア大会は14、18年に制した。東大阪大敬愛高、関大出。ミキハウス。160センチ、56キロ。1993年12月生まれ。大阪府出身。

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