<金口木舌>勝負に優先されること

 戦後、日本が五輪に初参加した1952年のヘルシンキ大会。競泳で日本は銀3個を獲得したが「水泳ニッポン」への期待は金なしで落胆に変わった。「2位と3位があるから金メダルがある」

▼「金以外負け」の呪縛に対する1500メートル自由形銀メダリストの橋爪四郎さんの述懐だ。相手あっての勝負事である。互いがベストを尽くし感動は生まれる。フェアな戦いに懸けた敗者もまた輝きを放つ

▼勝者に劣らぬ存在感を示したのは全豪テニスの女子単決勝で敗れたジェニファー・ブレイディ選手の言動である。「まず、なおみにおめでとうを伝えたい」。表彰スピーチの冒頭で大坂なおみ選手に賛辞を贈った

▼負けてなお気高く、すがすがしい。大坂選手の偉業が若い女性に勇気を与えるともたたえた。全米オープンでの黒人差別を訴えるマスクの着用など、社会問題に積極的に関わる姿勢も指すように聞こえた

▼その大坂選手は昨夏、人種差別への抗議に際し「アスリートである前に黒人女性だ」と述べ批判にあらがった。大会棄権を表明したことも。差別を許さない信念を勝敗に優先して貫く姿勢を見せた

▼今大会の直前、東京五輪・パラリンピック組織委の前会長による女性蔑視発言を「少し無知」と批判した。母国の現状を強烈なショットのように打ち抜き、五輪を含むゴールデンスラムへの挑戦が始まった。

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