実は公式試合球は「白球ではない」 縫い目の数は…意外と知らないボールの秘密

意外と知らないボールの秘密【写真:荒川祐史】

野球少年少女に伝えたいこと、プロの道具との向き合い方【ボール編】

プロ野球1試合で用意されるボールの数って知ってますか? 縫い目の数は煩悩の数と一緒――野球をする上で不可欠な「ボール」について、プロ野球の世界で長く用具担当としてチームをサポートしてきた“裏方のプロ”に詳しく話を聞いてみました。折れたバットの使い道に続き、意外と知らないボールの秘密とは……。【楢崎豊】

選手を支える“裏方”として、各球団に用具担当のスタッフがいる。折れたバットの行方、グラブの扱い方に続き、今回も話を聞いた大野和哉さんは、1999年に巨人で現役引退後からブルペン捕手やチームマネージャー、用具担当、副寮長などを歴任。裏方としてチームを支え、日本一にも貢献した。

東京ドームでは数々の名場面が残るが、すべては用具担当がまずは箱から真新しいボールを用意するところから始まる。1試合で使うのは10ダース。120個の試合球を主催チームが準備する。まず、それらを審判室に持っていく。

「メーカーの方が審判団のところに行き、専用の砂(もみ砂)で揉み込むんです。新品のボールには、ろうが塗ってあって、それを落とす効果と、革の滑りを取る効果ががあり、手に馴染みやすくなります。なのでボールを『白球』と表現されますが、実は真っ白ではなかったりもするんです」

ホームランやファウルボールは観客にプレゼントされる。最近では3アウト目のボールをスタンドに投げ入れているため、10ダースを用意しても、実際に試合後に残るのは3ダースほどという。

「人(お客さん)の価値観なのですが、せっかく手に入れたボールがネットオークションに出されていると寂しい気持ちにはなりますね。たまたま野球に興味のない方がボールを手にするケースがあるのだとは思いますが…球場によっては日付が刻印されている場合もある。興味がなくても、その試合を見に行った、という思い入れは生まれないのかな、と思ったりもします。思ってもらえるようになるといいですね」

試合で使用せずに残った球は試合前練習で使うノック用のボールなどになる。1軍で何度か使用されたボールは2軍などファームへ送られる。シーズン終盤になると秋季、翌年の春季キャンプ用のボールとして、準備されるという。

オールスターで使用されたボールは縫い目の色が違う

ペナントレース以外でも特別な試合がある。例えば、オールスターでは縫い糸の色が変わる。東京ドーム開催の時は赤と巨人のチームカラーのオレンジ、地方球場の時もその土地のイメージにあった色の縫い糸が使用されたりもした。

「日本シリーズとか大きなイベントではボールにロゴが入ったりします。縫い糸の話ですが、今のご時世だったら、医療従事者のために青の縫い糸を使用したり、ピンクリボン運動啓蒙のためにはピンクにして試合をするのもいいのではないかと思います。それをオークションにかけて、寄付金にするなど、そういう試みがあってもいいなといつも感じています」

大野さんから“逆質問”を受けた。「野球の硬式ボールの縫い目はいくつあると思いますか?」。筆者は回答することができなかった。正解は「煩悩の数ですよ」と教えていただいた。108個の縫い目がある。

「ボールは2枚の革を引っ張り、きれいな球状を保ちながら縫っていきます。現在の球の標準規格として、一番しっくりくる縫い目の数が、たまたま人間の煩悩数と同じ108になっただけ、と聞いています(笑)」

バットやグラブ同様に、硬式ボールも丁寧に人間の手で作られる。プロ野球の世界ではないが、ボールを足で扱うような場面が育成世代の野球で見られることがあることに心を痛めている。

「野球経験者なら小さい頃とかに見たことがあるかもしれませんが、ボール集めで足を使ったり、ボールを蹴るという行為は、やってほしくないですね。もしも、少年たちがやっていたら大人は注意してほしいなと思います。スパイクで蹴ったらボールが傷つきます。軟式だって同じです。競技の中でボールがボロボロになるのは許せますが、遊びや扱い方を間違えて、傷つける行為は、道具を扱う立場としては許せないですね」

これまでバット、グラブ、そして今回のボールの話を大野さんに伺ったが、全て共通しているのは道具に、そしてその作り手に敬意を払ってほしいということだった。プロ野球の世界でも道具に当たるようなことは御法度。見つかれば、首脳陣やフロントから叱責される。

大野さんは野球少年少女には道具は大切に扱ってほしいと願う。

「ボールを蹴飛ばして集めたりするのはもうやめようね、と伝えたいです。野球の神様が見ていますよ。感謝の心を持って、取り組んでほしいと子供たちには伝えたいですね。グラウンドを手配してくれている人がいる。野球の道具を揃えてくれる人がいる。もっと言えば、ボールなどの野球道具を作る職人さんがいる。その人たちへのリスペクトも忘れないでもらいたいですね」

いつまでも感謝の思いを忘れずに、ボールを追いかけてほしい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

© 株式会社Creative2