楽天・石井GM兼監督には“非凡な能力”が 模範的な上司で選手から「やりやすい」の声

ベンチで笑顔の石井監督(中)

【広瀬真徳 球界こぼれ話】「思っていた以上に指揮官に向いているのではないか」

楽天キャンプを取材していると報道陣からこんな声を聞くようになった。今季からチームの指揮を執ることになった石井一久GM兼監督(47)のことである。

監督就任当初、周囲からは「大丈夫か?」という声が少なくなかった。約2年間のGM職でチームの内情を把握しているとはいえ、コーチを含めた指導経験がない。加えてGM職以前は野球評論家とはいえ、主戦場はテレビのバラエティー番組だった。そんな先入観もあったからだろう。「一流選手を束ねる監督としての資質はあるのだろうか」。大半の報道陣の本音は疑心暗鬼だったと言っていい。

ところが、である。いざ春季キャンプが始まるといい意味で期待を裏切られている。まず目立つのが選手に対するコミュニケーション力の高さだ。

現役時代から人当たりの良さには定評があったが、実際の現場で見てもその能力はたけている。監督にありがちな「上から目線」の指導はなく、あくまで選手と同等の目線を重視。そのうえで自らの経験を伝えたり助言する姿勢は、現代社会における上司の模範的なスタイルだろう。あるベテラン選手も「何でも気軽に話せるし、逆に向こうから近寄ってきてくれることもある。試合でどんな采配をするのかはまだ分かりませんが、偉ぶる感じもない。僕ら的には想像以上にやりやすい」と話していた。既成概念にとらわれない振る舞いは早くも選手に受け入れられている。

もっとも「人心掌握」は選手だけにとどまらない。報道陣への対応にも目を見張るものがある。計算ずくかどうかは定かではないものの、石井監督は常にチームが注目されるようメディアへの発信を忘れない。監督の囲み取材は時間の許す限り答え、時折笑いを入れながら周囲を引きつける。「皆さんのネタがなくなったら(僕が)投げますから」と語ったブルペンでの投球練習やランニング等の話題作りも率先して行う。こうした動き、分かっていても簡単にできることではない。それをサラリとやってのけるあたり、指揮官としての非凡な能力が垣間見える。

プロ野球の監督は結果がすべて。シーズンが始まっていない段階での評価は時期尚早とはいえ、監督就任後の言動や姿勢を見る限り…。不安どころか何かをやってくれそうな雰囲気が漂っている。

☆ひろせ・まさのり 1973年、愛知県名古屋市生まれ。大学在学中からスポーツ紙通信員として英国でサッカー・プレミアリーグ、格闘技を取材。卒業後、夕刊紙、一般紙記者として2001年から07年まで米国に在住。メジャーリーグを中心にゴルフ、格闘技、オリンピックを取材。08年に帰国後は主にプロ野球取材に従事。17年からフリーライターとして活動。

© 株式会社東京スポーツ新聞社