金利上昇でテスラ株が急落!「金利が上昇すると株価にマイナス」はなぜなのか

2月12日にオンライン形式で開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議で、米国のイエレン財務長官は新型コロナウイルス危機からの脱却へ「今こそ大胆な財政出動に踏み切るときだ」と主張しました。

イエレン氏はこれに先立つテレビのインタビューでも同様の主張を述べており、追加経済対策がいよいよまとまりそうとの機運が高まっています。

議会の方でも民主党は今週中に下院で1.9兆ドルの追加経済対策の法案を成立させる見通しと伝わりました。民主党上院トップのシューマー院内総務も、3月中旬までに上院で経済対策法案を成立させることに前向きな姿勢を示しています。

これに加えてワクチンの普及で経済が回復するとの見通しも強まってきました。米南部を中心とした寒波の影響でワクチンの流通に一部で支障が出ていたましたが、サキ大統領報道官は「今週中に配送の遅れを取り戻す」と述べました。さらに、バイデン政権は23日、ワクチン供給量を増やすと明らかにしています。

米国では新型コロナウイルスの新規感染者数が減少傾向にありますが、こうした政府の対応でコロナ感染拡大が抑制される期待が高まっています。景気回復期待を背景にコロナ禍で打撃を受けているウォルト・ディズニーの株価は、このところ大きく上昇しています。

追加経済対策やワクチンの普及で経済回復の期待が高まるのは、株式相場にとってはもちろん好材料です。しかし、同時に金利も上昇するとなると、こちらは株価にとってマイナスです。米国の10年債利回りは一時1.39%と2020年2月以来の高水準まで上昇しました。金利上昇を受けてテスラが急落するなど、特にハイテク・グロース株への売りが目立ちます。

「金利が上昇するとグロース株が売られる」というのはよく言われることですし、実際のマーケットでもその通りのことが起きていますが、では「金利が上昇するとグロース株が売られる」のはなぜなのでしょう。その理由を改めて考えてみたいと思います。


証券価格を左右する「デュレーション」とは?

一般に、証券の価格は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いたものの合計です。債券は償還までのクーポン支払い(=キャッシュフロー)が決まっているので、その価格は完全に割引率(つまり金利)の関数となります。

金利が上がれば債券価格は下がり、金利が下がれば債券の価格は上がる…ということはよく知られていると思います。では、短期債と長期債とではどちらが金利変動の影響をより大きく受けるのでしょうか。

答えは長期債です。長期債は償還までの期間が長い債券ですから、投資家が受け取るクーポンも多くあります。金利が変動すると、それらの割り引かれるクーポンの現在価値も変わり、その合計である価格も変わります。つまり、長期債=受け取るクーポンが多い=金利変動要因が多い、という図式です。

また、債券投資というのは、国債なら国に、社債なら企業におカネを貸して、利息をつけて返してもらうということです。短期債はすぐに返してもらえるけど、長期債というのは貸したお金がかえってくるのに時間がかかる。それだけ金利変動リスクにさらされる期間が長いのです。

期間だけでなくて、1回に返ってくる金利も考える必要があります。年限と金利を勘案した、貸したお金の平均回収期間のことをデュレーションといいます。残存期間が同じ債券であれば、利率が高い債券の方がデュレーションは短くなります。

これは式で書くとわかるのですが、実はデュレーションは金利変動に対する債券価格の変化になっています。債券というのは数字の世界なので、絶対そういうふうになるように決まっています。

例えばデュレーション5年の債券であれば、金利が1%上昇すれば債券価格は5%下落すると計算できます。つまり、デュレーションの値が大きいほど、金利変動による債券価格の振れ幅が大きくなるということです。

【デュレーション】
(1) 債券投資の「平均回収期間」
(2) 一定の利回り変化に対する「債券の価格変動の大きさ」

「キャッシュフローの受け取りの期間」が長い債券

=「デュレーション」が長い債券

→ 金利感応度が高い

株式のデュレーションを考える

これを株に応用してみます。株式のデュレーションは何でしょうか。

それはPER(株価収益率)または配当利回りの逆数です。配当利回り5%の株があったとして、そうすると年に5%ずつ投資元本を返してもらうのと同じです。投資額は20年で回収できる。デュレーションは20年です。

PERは株価がEPS(1株当たり純利益)の何倍かを測るものですが、EPSも株主へのリターンの原資となるものだから何年で投資を回収できるかと考えることができます。PER20倍なら20年、PER100倍なら100年かかります。

グロース株というのは一般的にPERが高いか配当利回りが低い株式、すなわちデュレーションが長いということですから、金利感応度が高いのです。

今回はグロース株が金利上昇で売られやすい理由について見てきましたが、金利上昇は株式相場全体にとっても重石であります。次回は足元の金利上昇と株式相場の全体観について述べたいと思います。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

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