助言惜しまない田中将大の姿に思い出す北京五輪…ダルビッシュが示した“手本”

ブルペンで若手の投球を見守る楽天・田中将大【写真:宮脇広久】

ブルペンで後輩の投球に熱視線、変化球の握りや登板前のメンタルなど助言

楽天に8年ぶりに復帰した田中将大投手は、第2クール初日の6日から合流した沖縄・金武キャンプを22日に打ち上げた。今後は練習試合やオープン戦で実戦登坂を重ねながら、3月26日の公式戦開幕を目指すことになる。キャンプを取材していて印象的だったのは、自身の調整ぶりより後輩たちの投球に熱視線を送り、惜しげもなくアドバイスをする姿だった。【宮脇 広久】

合流初日にナイン全員を前に「7年間アメリカで色々経験してきたので、気軽に聞いて下さい」とあいさつしたとはいえ、まさか本当にここまで数多くの後輩たちに身振り手振りを交えながら熱心に助言する姿を見ることになるとは思わなかった。

若手投手たちが証言しただけでも、その内容は変化球の握りから、キャンプの過ごし方、登板前のメンタルの持って行き方に至るまで多岐にわたっている。

「アドバイスを求められた時に、どういう風に投げているかわからないと答えようがないので」と、後輩のピッチングを実によく観察していた田中将。自分の投球練習後、あるいは自分にピッチングの予定がない日でさえブルペンに現れ、捕手の背後のベンチに座って球筋に目を光らせていた。投手コーチばりにマウンドの後ろに立ち、腕組みをしながら投球を見つめることもあった。

そんな田中将の姿を見ていて、2008年の北京五輪での光景を思い出した。のちに楽天の監督に就任することになる故・星野仙一氏が率い、結果的に無念のメダルなしに終わった日本代表に、マー君はチーム最年少の19歳で名を連ねていた。

ダルビッシュがやって見せ、マー君が真似る…北京五輪で見た光景

練習中や試合中のブルペンで、当時日本ハムだった2歳上のダルビッシュ有投手(現パドレス)からアドバイスを受ける姿があった。まずダルビッシュがシャドーピッチング風に投球動作をやってみせ、マー君がそれを真似る光景を何度か見た。日本へ帰れば同一リーグの敵同士なのに……とも思ったが、2人からは高いレベルで野球を追究する者同士の連帯感が漂っていた。

田中将はメジャー移籍後、毎年オフに楽天の球団施設を借り、松井裕樹や則本昂大、辛島航らと一緒に自主トレ。その“チーム田中”の面々との時間も、教えやすい環境づくりにつながったと言える。投手陣のトレーニングを指導する球団コンディショニング部マネジャーの星洋介氏や長坂健治ブルペン捕手らスタッフとも毎オフ顔を合わせていた点も、チームに溶け込む時間を縮めた。

小山伸一郎投手コーチとは、メジャー移籍前の同僚時代から仲が良く、コーチの職域を侵すこともない。そもそも、7日に田中将からスプリットの握りを教わり“弟子入り第1号”となった引地秀一郎は、小山コーチに促されて教えを乞うたのだった。

他人に教えることは、自分の技術を理論づけ、確認することにもつながる。さらに、マー君は後輩のピッチングから「自分に生かせそうなところがあれば生かしたい」とも語っている。伝説のエースの復帰が、チームに相乗効果をもたらす環境は整った。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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