「毎日投げさせたら壊れます」 元日ハム武田久氏が説く数に頼らない投手指導法とは

日本製鉄東海REXのコーチを務めている武田久氏【写真提供:日本製鉄東海REX】

現在は社会人野球、日本製鉄東海REXのコーチを務めている

日本ハムで通算167セーブを挙げた武田久氏は現在、社会人野球の日本製鉄東海REXのコーチを務めている。コンディショニングの大切さを説く武田氏に、指導論から日本ハムの後輩たちへの思いまで語ってもらった。全3回の第2回は、実際の指導法を紹介する。

最近では150キロを超えるボールを投げる高校生投手や大学生投手も珍しくない。武田氏は「ピッチャーの練習はキャッチボールをして、投内連係をして、ピッチング。これは50年前も30年前も変わっていないです。じゃあ、何が変わったかというと、コンディショニングなんですよ。ここ10年くらいで急激にトレーニングが発達して変わりました。今の子たちは体も大きいですし。そこが大きな違いです」と分析する。

トレーニング、休養、栄養、睡眠全てをひっくるめてコンディショニングと考えると、効率的な時間配分が大切になってくる。現在指導している日本製鉄東海REXでは、投手の投球練習は1日おきで、投げない日はウエートトレーニングを行う。球数は基本的に50?60球。実戦ではオープン戦から60球、80球、100球と段階を踏んで増やしていくが、練習で100球以上投げることはない。

「昔は試合で100球投げるんだから練習でも100球という考え方があったのでしょうが、僕は50球、60球でいいと思っています。試合で投げる体力を残した方が良いし、残った体力でいろんな練習ができますから。選手には『数に逃げたらダメ』と話しています。1球目からしっかり集中して、技術に対する意識を持って、テーマを持って、投げないといけないです」

指導はシンプル、ストライクゾーンは3分割で意識させる

たくさん投げなければ、覚えられないという理論もあるが、武田氏は懐疑的だ。「それもあるとは思います」と一部を肯定した上で続けた。「200球、300球を投げた後に体がほぐれて良い球を投げられると言う人がいるじゃないですか。じゃあ、試合前に200球投げればいいと思いませんか? でも、実際にやっている人はいませんよね。仮にそれだけ投げるなら、最低中3日、4日は投げないようにしないと。そこだけを切り取って、アマチュアの指導者が『プロは200球、300球投げているぞ』と言って毎日投げさせたら壊れますよ」と警鐘を鳴らす。

プロ野球の世界で語られる“溜め込み論”にも首をひねる。「よくキャンプで1年分の体力をつけると言いますよね。7月、8月にその効果が出るんだって。例えるなら10キロの肉を食べた効果が、夏場に出ますか? それだったら、僕は100グラムの肉を毎日食べた方がいいと思います」と極端な投げ込みや走り込みといった練習ではなく、継続的なアプローチを勧める。

技術的な指導では、ストライクゾーンを9分割ではなく、3分割で意識させている。「まずは右バッターの外と左バッターの外、両サイドにしっかり投げるのが基本。その上でストラクゾーンに投げられる子には、ゾーンを下げていこうと言います。初めからアウトロー、アウトローというと、ストライクが入らなくなってしまいます。だから、順番としてまずはコースを頑張ろう、高さはミスってもいいと。変化球は上は下かで言ったら、下で頑張ろうと言います」とシンプルだ。

コントロールに関するこの考え方は、アマチュア選手のためにあえて簡単にしている訳ではない。「実際に僕もそれぐらいのレベルでしかやっていなかったので。有利なカウントとか仕留めなきゃいけないカウントはしっかり狙っていきますけど、全部が全部そんなピッチングをしても疲れちゃうし、そんなコントールは無理だと思いますよ」

日本製鉄東海REXのコーチを務めている武田久氏(右)【写真提供:日本製鉄東海REX】

プロ注目右腕投手にはプロで生き残るための術を伝授する

制球力の良さが印象に残っていただけに意外な言葉だったが、武田氏は豪快に笑い飛ばした。

「逆球はあまりなかったと思いますが、当時もキッチキチには行ってないと思うんですよ。だいたいその辺、という感じです。バッテイングマシンだって、機械が同じ動きをしても、変なところに来ることがあるじゃないですか。機械ですら、そんなレベルなのに、人間には無理です。でも、人間には、意識的にボールにしようとか、ここは大丈夫だからど真ん中に投げてやろうとか、そういう能力があって、そこはすごいところ。難しく考えない、というかできないことはやらない方がいいということです」。分かりやすい例えを使った答えは明快だ。

日本製鉄東海REXには今、プロ注目の投手がいる。九産大出身で2年目を迎える浦本千広投手。最速150キロ超の本格右腕には、プロに入るためではなく、生き残るための術を伝えている。「今の時代、150キロを売りにしても目立たないので、やっぱりコントロールと緩急。緩いカーブを投げられるようになれば、フォームにも間ができて、いろいろプラス要素があるから、しっかりカーブを覚えようと話しています。あとはストライクゾーン。プロに行ったら狭くなるから、今のアマチュアのゾーンで勝負できなかったら上では無理だよと明確に伝えています」

武田氏の目には、発展途上の選手がたくさんいる社会人野球や大学野球は、魅力的なフィールドに映る。「面白いですよ。社会人は基本的にトーナメントですし、都市対抗の予選はマグレでは勝てない。難しいけど、面白い。リーグ戦で行われる大学野球にも、いつか関わってみたいですね」。ダイヤの原石に優しい眼差しを注ぎながら、指導者としての歩を着実に進めている。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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