NASAの太陽探査機が撮影した金星夜側の画像、研究者を驚かせる

2020年7月11日(現地時間、以下同様)、アメリカ航空宇宙局(NASA)の太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」は3回目の金星スイングバイを実施しました。スイングバイとは惑星などの重力を利用して軌道を変化させる手法のことで、パーカー・ソーラー・プローブでは全部で7回の金星スイングバイが予定されています。

2021年2月25日、NASAは前年7月の金星スイングバイ時にパーカー・ソーラー・プローブの広視野カメラ「WISPR(Wide-field Imager for Parker Solar Probe)」によって撮影された金星の画像を公開しました。こちらがその画像で、およそ1万2400km離れたところから見た金星の夜側が画像の左側に収められています。

太陽探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」の広視野カメラ「WISPR」によって2020年7月に撮影された金星の夜側。金星の中央付近に見えている幅が広く暗い部分はアフロディーテ大陸で、地平線沿いに大気光らしきものが写っている(Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory/Guillermo Stenborg and Brendan Gallagher)

画像には大気中の酸素原子が夜側で結合して分子になる際に放射される大気光らしきもののほかに、標高の高い地域であるアフロディーテ大陸が捉えられています。NASAによるとアフロディーテ大陸は周辺の地域と比べて摂氏30度ほど温度が低く、そのために画像では暗く写っているといいます。また、引っかき傷のように見える何本もの線は荷電粒子太陽光を反射する塵などによるものと考えられています。

この画像はパーカー・ソーラー・プローブの運用チームを驚かせたといいます。WISPRは太陽コロナや内部太陽圏を可視光線の波長で観測するように設計されている(※)ため、WISPRのプロジェクトサイエンティストを務めるジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所のAngelos Vourlidas氏は「雲が見えると予想していました」と振り返ります。

※…米海軍調査研究所によると、WISPRを構成する2つのカメラの観測波長は撮影範囲が狭いInner Telescopeが490~740ナノメートル、撮影範囲が広いOuter Telescopeが475~725ナノメートルとされる

ところが、WISPRは金星の分厚い雲の下に広がる地表の特徴を捉えました。WISPRチームの一員である米海軍調査研究所のBrian Wood氏は、WISPRが金星表面からの熱放射を効果的に捉えており、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査機「あかつき」近赤外線の波長で観測した画像にとても良く似ていると語ります。このため、WISPRチームは赤外線に対する機器の感度を改めて測定することになったといいます。

金星探査機「あかつき」の近赤外線カメラ「IR1(1µmカメラ)」によって2016年1月に撮影された金星の夜側。地表からの熱放射分布が主に捉えられている。左中央下に見える暗い部分はアフロディーテ大陸(Credit: JAXA)

NASAによると、もしもWISPRが近赤外線の波長も捉えられる場合、太陽の周辺や内部太陽系の塵を研究する新たな機会が得られるといいます。また、WISPRに近赤外線を捉える能力が無かった場合、地表の様子を探ることが可能な知られざる金星大気の「窓」の存在が新たに判明した可能性があるといいます。Vourlidas氏は「どちらにしても、大変興味深い機会が私たちを待っています」とコメントしています。

なお、パーカー・ソーラー・プローブは2021年2月20日に4回目の金星スイングバイを実施しました。WISPRチームは前年の観測結果を受けて金星の夜側に対する同様の観測を4回目のスイングバイでも試みており、4月末までに受信・処理される観測データの分析を心待ちにしているとのことです。

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Image Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Naval Research Laboratory/Guillermo Stenborg and Brendan Gallagher
Source: NASA
文/松村武宏

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