菅首相が山田内閣広報官を処分しない理由に「女性」を強調! 女性問題を悪用し「飲み会を断らない」不正官僚を守る態度こそ性差別だ

首相官邸HPより

こんな処遇で許されていいのか──。昨日24日、総務省の高級官僚たちが菅義偉首相の長男である菅正剛氏ら東北新社の幹部と違法会食を繰り返していた問題で、政府は谷脇康彦・総務審議官ら11人を減給や戒告の懲戒処分とすると発表。しかし、その一方で、一晩で7万円を超える接待を受けていた山田真貴子・内閣広報官は「厳重注意」となり、給与の10分の2の3カ月分を自主返納するだけで「続投」させるというのだ。山田内閣広報官の月額は117万5000円だというから、返納額は70万5000円となる。

山田氏が接待を受けたのは総務省の総務審議官時代だが、現在は特別職の国家公務員であるために処分の対象外となったというが、そんな馬鹿な話があるか。

ご存知のとおり、山田内閣広報官は総理大臣会見でも司会進行役として現場を取り仕切っているだけでなく、菅首相の右腕として重要政策の広報を担う人物であり、何より国民からの信頼が担保されなければならない要職に就いている。にもかかわらず、今回、山田氏は当初「菅総理の長男と会食した明確な記憶はない」と否定しておきながら、追い詰められてようやく「接待を受けた」と認めた。つまり、国民の信頼を真正面から裏切ってみせたのだ。

しかも、多くの国民が「7万円もの接待を受けておいて忘れることなんてあるのか」とツッコミを入れる事態となったが、当の山田氏自身は総務省の調査の際、〈7万円超という金額について、それほど高額ではなかったはず、などと不満を示した〉(朝日新聞24日付)という。

違法接待を受けておいてこんな態度をとること自体が信じられないが、こうした国民を裏切ったことに無反省な態度は、本日25日おこなわれた衆院予算委員会での参考人招致でもあらわになった。

参考人として山田内閣広報官が招致されたことを受け、「衆議院インターネット審議中継」はアクセスが集中し配信が一時ストップするなど注目度の高さをうかがわせたが、そこで山田内閣広報官は絶句するような答弁を繰り返した。

たとえば、立憲民主党の今井雅人衆院議員が“会食時に同席していた正剛氏が菅首相の長男だと認識していたのか”といった質問を投げかけたが、山田内閣広報官は「認識していたのかな、とは思う。(会食の席は)横並びだったと思うので、お話しもしておりません。どういう方がいたかについて、にわかにちょっと思い出せなかった」などと答弁。これには今井議員も「そこに首相の息子がいたかどうかわからないなんてことがあるのか」と疑義を呈したが、山田内閣広報官はこう言い返したのだ。

「私自身、仕事、プライベートでも、お会いする方がどういった方のご子息であるかとかは、あまりお付き合いに関係がないと思っている」
「(菅氏の長男の同席は)私にとって大きな事実だったかというと、必ずしもそうではないのではないかと思う」

●7万円ゴチ山田広報官の処遇について聞かれて菅首相は「女性の広報官として期待している」

まったく何を言っているのだか。本サイトでも指摘してきたように、山田内閣広報官といえば菅首相が贔屓にしてきた官僚の筆頭であり、安倍政権下の2013年から2015年まで広報担当の首相秘書官を務めた際も官房長官だった菅氏が安倍晋三首相に対して推薦したと言われ、新政権発足にともなって菅首相が官邸に呼び戻したのだ。それほどの寵愛を受けながら、その息子と会食したことを忘れるはずがない。なのに、言うに事欠いて「誰の子息かは関係ないと思っている」「私にとっては大きな事実ではない」と強調するとは──。

しかも、会食の際にBSやCSなど放送行政にかんする話をしたのではないかと追及を受けると、山田内閣広報官は「放送業界全体の実情に関する話はあったかもしれないが、全体としては一般的な懇談だった」などとしらばっくれたのである。

7万円もの高級接待を受けておいて「一般的な懇談」なわけがないだろう。その上、山田氏と会食では、正剛氏だけではなく東北新社の二宮清隆社長も同席。総務省の報告書では、二宮社長が会食に参加していたのは山田氏と、「次期事務次官」と目されていた総務省ナンバー2の谷脇康彦・総務審議官のときだけ。二宮社長や正剛氏らから直接的な働きかけがおこなわれていなかったとしても、相手を見れば“接待の意図”は十分に理解していたはずだ。

このように、終始、人を食ったような答弁を貫いた山田内閣広報官だが、最大の問題は、違法接待にとどまらず贈収賄の疑いさえ濃厚な人物の続投を決定した菅首相にある。

しかも、けっして看過できないのは、菅首相が山田氏を内閣広報官に続投させる理由として「女性」であることを持ち出したことだ。

菅首相は昨日24日、記者団の囲み取材の際、山田氏の処遇についてこう述べた。

「やはり女性の広報官として期待しておりますので、そのまま専念してほしい。私はこういうふうに思っています」

山田氏が問題となっているのは、総務審議官という立場でありながら明白な利害関係者から接待を受けていたことであって、男性か女性かといった性別はまったく関係ない。なのに「女性の広報官として期待しておりますので」などと女性であることをわざわざ強調し、持ち出す──。

ようするに、森喜朗氏の性差別発言に端を発して注目が集まるようになった「女性登用の少なさ」の問題を、菅首相は「悪用」し、処分をおこなわないことの理由にしたのである。

いま女性たちが声をあげ、是正を求めているのは、性差別的な社会構造に基づいた男女格差の解消であり、意思決定の場に女性が参加できるようになることだ。なのに、それをよりにもよって官僚の汚職問題に利用し、罷免しなかった理由として「女性として期待している」と言う。これは、まさしくいま声をあげている女性たちをも冒涜する暴言ではないか。

●菅首相が緊急事態制限解除の会見を中止に 会見をやると山田内閣広報官が司会を努めなければいけないため

そもそも、山田内閣広報官は「イベントやプロジェクトに誘われたら絶対に断らない。飲み会も断らない。断る人は二度と誘われない。出会うチャンスを愚直に広げてほしい」などと発言していたことも問題になっているが、この発言自体、家事や子育てを押し付けられながら仕事を抱える女性たちが男社会の組織内で「飲み会に参加しない」などという理由で阻害されてきたことをまったく理解しない、あ然とするようなものだ。しかし、こうした「わきまえた女」だからこそ、菅首相は山田氏を高く評価してきたのだろう。

だが、菅首相が山田氏を身びいきし、これほどの問題が発覚しても何の処分も下さなかった理由は、そこではない。山田氏が“自分にとって忠実な右腕”だからだ。

山田内閣広報官は、菅首相が出演したNHKの『ニュースウオッチ9』で有馬嘉男キャスターが食い下がって質問したことに対し、放送の翌日、原聖樹・NHK政治部長に電話口で「総理、怒っていますよ」「あんなに突っ込むなんて、事前の打ち合わせと違う。どうかと思います」などと“恫喝”をかけたと言われ、有馬キャスターを降板に追い込んだ張本人と目されている。この“働きぶり”は安倍政権時にメディアに圧力をかけまくっていた菅首相そのものだ。

しかも、山田氏の忠臣ぶりは、菅首相の長男・正剛氏の問題でもうかがえる。正剛氏は東北新社で部長職にあるだけではなく同社の子会社であるCS局「囲碁・将棋チャンネル」を運営する株式会社囲碁将棋チャンネルの取締役も兼任しており、その「囲碁将棋チャンネル」の番組はハイビジョンではない標準テレビジョンであるにもかかわらず2018年に「東経110度CS放送に係る衛星基幹放送の業務認定」を総務省から受けているが、この認定を判断する最高責任者の総務省情報流通行政局長の職にあったのは山田氏だからだ。

時に官僚として長男の事業を特別待遇し、時に内閣広報官としてメディアに恫喝をかけて睨みをきかせる。つまり、こうした忠義者を菅首相はそばに置いておきたいために不問に付し、批判を封じ込めるために山田氏を「女性」であることを強調したのである。

しかも、菅首相はきょう、緊急事態宣言の先行解除にともなって明日26日に予定していた会見を中止し見送ったという。前述したように山田内閣広報官は総理会見の司会進行役であり、渦中の人物が司会進行をおこなうことでさらなる非難を浴びることになるのを避けたのだろうが、そもそもそんな人物にいまだ内閣広報官をやらせていること自体が問題なのだ。いずれにしても、こんなやり方で幕引きをさせてはならない。
(編集部)

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