中国の野心的目標が明らかに?今年の全人代は例年以上に注目すべきと考える理由

コロナ禍からいち早く回復を遂げた中国では、3月5日から全人代(全国人民代表大会)が開催されます。その中で、コロナ対応から脱却した中長期的な成長を見据えた政策が議論、採択される予定です。

例年のような経済政策方針に加え、ハイテク製造業や環境関連など中長期的な投資テーマとなる事柄への言及がなされる見通しのため、その内容を例年以上に注目すべきと考えています。


2035年までのGDP倍増目標が動き始める

昨年10月に開催された5中全会(党中央委員会第5回全体会議)で明らかになった2035年までの長期目標では、2035年までに1人当たりGDPを現在の水準の約2倍程度まで向上させる目標が示されました。

5中全会では、2021年から始まる第14次5カ年計画も同時に公表されましたが、長期経済成長目標を達成するべく、経済成長モデルとして双循環モデルを採用する方針が示されました。

双循環モデルにおいては、国内での生産・消費を意味する国内循環を主軸に、海外の需要を意味する海外循環も取り込み、国内外の需要を経済成長の源泉とする構造になっています。

中国経済は先進国に比べ、GDPに占める消費の割合が低く、投資および輸出の割合が高いという特徴があります。投資効率の悪化や米中摩擦といった外部環境の変化に直面する中、国内需要の拡大を成長の主たる源泉とすることで、経済成長を持続させる狙いがあると見ています。

今年はハイテク製造業の内製化に向けた動きが加速へ

今後の経済成長の源泉を内需拡大に的を絞った中国ですが、中国産製品、中でも付加価値の高いハイテク製品を自国内で消費し、さらに海外へも展開していくには、製品の内製化とハイクオリティ化が必要不可欠です。

中でも内製化に関しては、米国が中国ハイテク産業へのコア部品の供給を制限するなど、生産活動に影響が出始めている中で対応が急務となっています。

長期目標および新5カ年計画草案を受け、昨年末の中央経済工作会議で示された2021年の8つの重要任務には、科学技術力強化やサプライチェーンの自立、内需拡大といった項目が強調され、双循環モデルの確立に必要なハイテク製品の内製化に向けた取り組みを重視する姿勢が示されました。

こうした状況下、3月5日には全人代が開催されますが、そこでハイテク製造業の内製化やサプライチェーンの自立に向けた設備投資を支援する政策の内容が公表されると考えています。

内製化率目標や支援規模、タイムスパンなどが明らかになることで、関連産業の設備投資加速に期待が集まります。

<写真:新華社/アフロ>

成長分野への政策支援は拡大するが、その一方で地方政府財政への懸念も

中長期目標達成に向けて成長分野となるハイテク製造業への政策支援の拡大を見込んでいますが、その一方で、従来政策支援を受けてきたインフラ投資や不動産業などについては、支援が抑えられる可能性が高いと考えています。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い景気が悪化していた昨年も含め、ここ数年、インフラ投資は中国経済政策の柱となっていましたが、政策支援が成長分野へ傾斜される中で、今年はその規模は縮小される見通しです。

また、不動産投資については、当局は昨年から厳格化スタンスを示しており、資金の成長分野への誘導を目指す中で不動産分野の規制が強まる可能性は高いでしょう。

こうした動きは、インフラ投資向けの地方債発行や土地利用権の譲渡収入に頼っていた地方政府の財政を直撃することとなり、今年は地方政府絡みの財政・債務問題が発生しやすくなる懸念につながります。そのため、こうした地方財政問題への配慮があるかどうかも今年の全人代の注目点になります。

今年の全人代は例年以上に注目すべき

これまで、今後の中国の大きな変化として、2035年までの長期目標および次期5カ年計画の達成を目指し、ハイテク製造業の内製化に向けた動きが加速することを取り上げてきました。筆者はそれ以外にも、今年の全人代では環境政策および金融政策方針にも注目が集まると考えています。

昨年、習近平国家主席が2060年までに二酸化炭素の実質排出ゼロを目指すカーボンニュートラル目標を表明したことで、環境への取り組みはハイテク製品内製化に並ぶ中国の中長期的な投資テーマとなっています。こうした環境問題への目標達成ついても具体的なタイムスパンや政策支援規模が明らかになると考えています。

また、金融政策については、今年に入り中国人民銀行が政策姿勢を引き締めに転じたとの観測が強まる中で、短期金利や人民元レートに影響が及んでいます。

昨年末の中央経済工作会議にて、政策の急転換を避ける方針が示されており、その直後に人民銀が金融引き締めへ転換したとは考えにくいものの、金融政策姿勢を巡り不透明感が高まっている状況です。こうした状況下、金融政策方針への言及内容にも注目が集まるでしょう。

このように、今年の全人代では、足元の景気回復を受けたマクロ経済政策の変化に加え、中長期目標達成に向けた諸政策ついても言及される見通しです。こうした理由から、コロナ後の中国経済を見るにあたり、筆者は今年の中国全人代を例年以上に注目すべきであると考えています。

<文:エコノミスト 須賀田進成>

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