まるで現代のノムさん? 楽天・石井一久監督から見えてきた指導者理論

楽天・石井一久GM兼監督【写真:荒川祐史】

マー君とも共通するメジャーで活躍→日本復帰の貴重な経験

2018年8月から務めている楽天のGM職に加え、今季から現場の指揮も執る石井一久監督。指揮官として初めてのキャンプを終え、今後は3月26日の開幕へ向けて練習試合やオープン戦を重ねていくことになる。徐々に見えてきた一久流の監督像とは──。【宮脇広久】

「野村監督にはたくさんのことを教えていただいた。今年のシーズンでは、いろいろ自分なりにアレンジしながらやっていきたい」

石井監督は、現役時代の恩師である故・野村克也さんの一周忌となった11日、感慨を込めてそう決意表明した。

野村さんと言えば「ボヤキ節」。時には直接叱るのではなく、メディアを通じて苦言を呈する手法を得意としていた。その方が当人にインパクトを持って伝わりやすいケースがあるからだ。石井監督も現役時代の飄々としたイメージとは裏腹に、辛口のコメントを発することがある。

ルーキーイヤーから6年連続2桁勝利をマークした後、最近2年連続で5勝にとどまっている則本昂大投手に対してはキャンプ序盤、「本来は最多勝にも手が届く能力の持ち主」と認めた上で、「今年ダメだったら、(来年以降も)あまりいい方向に進まない。そこは本人も承知して、しっかりやってくれています」と危機感をあおった。

楽天に8年ぶりに復帰した田中将大投手が、積極的に若手へアドバイスを送っていることが話題になると、「人に聞くことも大事だけれど、それを自分でしっかり噛み砕いて、実践できるようにならなければ意味がない。あとは自分の頑張りだと思います」と若手に釘を刺した。

また、ノムさんのボヤキ節には、南海(現ソフトバンク)や就任当初のヤクルトなど、注目度の高くないチームを指揮した経験から、話題づくりを狙ったリップサービスの面があったともいわれる。

積極的に話題作り、その一方で選手とは積極的にコミュニケーション

石井監督はこのキャンプで自ら打撃投手を務める意向を示し、ブルペンでの投球練習まで披露していたが、結局実現しなかった。キャンプ最終日に「なんとか戦力になりたいと頑張ったが、体が思うように動かず、力のなさを実感しました」と笑わせた。

だが、もともと「新聞記者に原稿の行数、テレビ局の方には尺を聞いて、ある程度確保できるのであればやりたい」としていた経緯がある。結果的に予想を超える“マー君復帰フィーバー”が沸き起こり、メディアは連日田中将の一挙手一投足で持ち切りだったが、万が一チームが露出不足に陥るような事態となれば、自ら話題を提供するつもりだったのだろう。

一方、選手1人1人と膝を突き合わせて語り合うコミュニケーション能力に関しては、野村さん以上と言えそうだ。キャンプ中もあちこちでそういった場面が見られた。

ドラフト1位ルーキーの早川隆久投手(早大)は、20日の日本ハムとの練習試合(沖縄・金武)で実戦初登板を果たした後、「監督からは前々から『プロでは登板日の間隔が空き、ナイターとデーゲームでリズムも変わってくるよ』と伝えてもらっていて、改めて『そういうものに合わせて調整していくのが大事だよ』と言われました」と明かした。

同じ日本ハム戦に先発した田中将とも、降板後にベンチ内でひとしきり話し合った。話題は、メジャーに比べて軟らかいといわれる日本のマウンドについてだったそうで、石井監督は「最近は日本のマウンドも硬い。僕が日本に帰ってきた頃に比べれば、全然硬くなっている。ここ(金武)のマウンドは特別軟らかいけれど、ここで公式戦をやるわけではないから、あまり心配はない」と語った。石井監督自身も現役時代、メジャーで4年間活躍した後、2006年にヤクルトに復帰した経験があり、田中将にとって頼もしい道標となりそうだ。

現役時代には、先発当日の試合前でさえ、クラブハウスでテレビゲームに興じていたという伝説の持ち主。緊急事態宣言下の休日の過ごし方についても、「僕はテレビゲームをやります。ウイニングイレブンをやります」と明かした。47歳の今も、選手たちと理解し合える感性を持ち合わせているのかもしれない。公式戦となった時、選手たちをどう動かすのか。石井監督の立ち居振る舞いが今から楽しみでならない。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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