【現場ルポ】土砂搬入“攻防”緊迫 石木ダム付け替え道路 重機とにらみ合う反対住民

重機の周りに立つ住民や支援者=25日午前11時49分、川棚町

 長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業に伴う付け替え道路工事現場で、抗議の座り込みを続ける反対住民側と工事を進めたい県側の“攻防”が緊迫している。今月から座り込み場所近くへの土砂搬入が活発化。25日、住民側が抗議行動を続ける現場を取材した。
 午前10時、現場には既に住民ら約40人が集まっていた。「きのうは大変やったよ」と複数の人に耳打ちされる。24日、業者が座り込み場所の眼前に土砂を運び込んだため、住民らが県職員に猛抗議。県から相談を受けた県警が駆けつける騒ぎになった。このため住民らはいつも以上に硬い表情で重機の動きに目を光らせていた。
 午前11時40分、急に騒がしくなった。座り込み場所の近くに重機2台が来たのだ。すぐに住民らが取り囲む。数分後には別の重機が現れ、支援者が慌てて前に立った。最終的に計4台の重機と住民らのにらみ合いとなった。シャッターを切りながら「誰かけがしないか」と内心肝を冷やした。
 騒ぎを知って住民のリーダー格、岩下和雄さん(73)が駆けつけた。しばらく業者と話し合った後「話は付いた。戻って」と呼び掛けると、住民や支援者らは重機から離れた。
 土砂を整地する作業を、支援者が新たな土砂搬入と誤解し、業者と対立したことが原因らしい。「私たちの相手は県だ。業者を怒らせてもどうにもならない」。岩下さんが諭すと住民らも落ち着いた。
 「飲む?」。ぼうぜんとしていると住民の岩本菊枝さん(72)が緑茶を差し出してくれた。緊張で口の中がカラカラだ。「大変でしたね」と紙コップを受け取ると、岩本さんは「いつものことよ」とあっけらかんと笑った。座り込みは2016年7月以降ほぼ毎日続き、1月に通算千回を超えた。その間、今回以上に緊迫した場面もあった。
 現場は平静を取り戻したが座り込みは続く。ある支援者は「本体工事の動きもあるだろうし、衝突は今後ますます増えるだろう」と懸念を口にした。
 午後5時に女性陣が帰った後も男性陣数人が警戒のために居残った。暮れなずみ、風が冷たくなった午後6時すぎ、現場入り口から業者らしき車が出て行った。「よし、帰ろう」
 砂利道を歩きながら住民の岩本宏之さん(76)が「こんな状況じゃ県との話し合いもできるわけない」とぼやいた。住民側は県との話し合いの条件に「工事の中断」を求めているが、実現の見通しは立っていない。重機が山肌を削るように、住民たちの心と時間も着実に削り取られているように思えた。

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