長崎・中村知事 県政の展望<2> 石木ダム建設 住民との“攻防”神経戦

16、17日に住民の座り込み現場近くに運び込まれた土砂。境界部には安全対策の土のうが積まれている=19日、東彼川棚町

 今月16、17の両日、長崎県東彼川棚町の石木ダム建設に伴う県道付け替え道路工事現場。水没予定地に暮らす反対住民らが朝からの座り込みを終えて帰宅した後、座り込み現場の近くに盛り土工事の土砂が運び込まれた。10トントラック6台分の量。雪が降った翌18日、警戒を強めた住民らは寒風の中、午後6時半まで座り込みを続けた。住民の1人、岩下すみ子(72)が言う。「こちらが油断して工事を進められたら今まで耐えてきた分、がっくりきてしまう。きついとも言ってられん」。県と住民の“攻防”は、神経戦の様相を呈している。
 県と佐世保市が利水、治水を目的に計画する石木ダム建設は、事業採択から45年が経過した。総事業費285億円のうち2019年度末までに約61%にあたる約175億円が執行された。19年9月には土地収用法に基づく強制収用で全用地の所有権が県と市に移り、家屋などを強制撤去できる行政代執行が可能な状態にある。
 現在、ダム建設で通れなくなる県道の付け替え道路全長約3.1キロのうち、約1.1キロ区間の工事が進む。住民らが同区間で続ける座り込みは千回を超えた。県は「住民の安全に配慮」し、現場に入れないようにする柵を設けたり、座り込み後に工事を進めようと試みるが、そのたびに抗議に遭い思うようには進まない。
 知事の中村法道は「円満に土地を明け渡してもらうのが最善、との考えに変わりはない」と強調し、19年9月以来の、水没予定地に暮らす13世帯との対話を模索する。
 ただ、両者の間にある深い溝はそう簡単には埋まりそうにない。住民側は話し合いの条件の一つとして「工事の中断」を求めているが、県幹部は「いったん止めてしまうと、合意がないと再開できないに等しい」と難色を示す。昨年12月には本体工事の初入札があり、新たな段階に入った。絶対反対同盟の岩下和雄(73)は「ここ数カ月、工事を強行する姿勢が目立つ。県ははじめから話し合いをするつもりはないんだ」と不信感を募らせる。
 現状、工事を中断して対話が実現したとしても、住民の理解を得られる可能性が高いとは決して言えない。県が最終局面までにどれだけ説明を尽くすことができるかにもよるが、行政代執行に踏み切れば住民はもとより支援者、世論の反発は一定免れない。逆に万一、県が工事を“凍結”すれば、利水、治水計画の抜本的な見直しはもちろん、これまで移転に応じてくれた住民に理解を求めるという難事業が待ち受ける。「進むも地獄、止めるも地獄」。ある県議はこう表現する。


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