テロリストとの人質交渉の是非「簡単に答えの出る問題ではなく、大きなジレンマ」 映画「ある人質」原作者

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IS(イスラム国)の人質となったデンマーク人写真家ダニエル・リューの実話を映画化した「ある人質 生還までの398日」が現在公開されている。このたび、映画の原作となった「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」(光文社新書刊)の著者である、ジャーナリストのプク・ダムスゴー氏のオフィシャルインタビューが公開となった。ダムスゴー氏は、現在もジャーナリストとして、エジプトを拠点にシリアなど中東全域をカバーした取材活動を精力的に行っている。

自分の著作が映画化されたことについて「原作者としてダニエルの出来事を本にまとめ出版し、それが映画化されたことを誇らしく思っています。映画になったことによって、この物語が二つ目の人生を歩んでいるようです。私はダニエルとダニエルの家族、そしてジェームズ・フォーリーの家族がこの映画のことをどう思うのかが一番気にかかっていたのですが、彼ら皆気に入ってくれているので、それがとても嬉しいです」と感想を述べ、「映画は事実を基にフィクションとして描くとはいえ、内容はデリケートですよね。実際自分の息子を亡くしてしまった家族もいる。生還できたけれどとても大きな苦しみを味わった家族もいる。私はこの映画は、人間というものは生きるために、どんな能力を発揮できるのかということを描いた、サバイバルと勇気の物語だと思っています。作品自体私もとても気に入っています」と語っている。

デンマーク政府はテロリストと交渉しない方針のため、ダニエルの救出を願う家族は苦悩する。そのことについてダムスゴー氏は、「簡単に答えの出る問題ではなく、大きなジレンマだと思います。テロリストたちに資金提供してしまうことは彼らを盛り上げてしまうことになる。と同時に私は家族の気持ちも理解できる。愛する人がISに誘拐され、自分たちには何もすることができない。デンマークの場合は自分たちで募金の形でお金を集めることができたけれど、それが違法の国だと親は何もできないわけで、とてもつらい状況だと思います」とその背景を説明している。

さらにデンマークでダニエルが人質になっていたことが公になったのは、彼が解放されたあとだった。当時のデンマークの世論を問われると「ダニエルが拘束されたことは、デンマークの国民は知らず、解放されたあとに身代金が支払われたことも知れ渡ることになりました。反応は人によって様々でしたが、忘れてならないのは、彼の解放のために何千人もの人たちが身代金のためお金を出したということです。1ドルの人も何百ドルの人もいらしたかもしれませんが、本当に多くの方々が彼を救うためにお金を出し、家族は数か月の間に200万ユーロを集めることができたということなんです。なので全般的にネガティブな受け取られ方はしなかったですね」と振り返っている。

日本ではシリアで拘束されたジャーナリストが帰国後に激しいバッシングにさらされたことなどについては、「ジャーナリストとしては、例えば自分の場合は何が起きてもデンマークは何もしないのだという覚悟の上で行動しているつもりです。と同時に、同じ仕事をしているジャーナリストたちをバッシングするというのも違うのではないかと思います。例えばシリアで何が起こっているのかを報道することは私にとって非常に重要な仕事だと思っていて、それを個人の責任だと片づけてしまうのもできるのかもしれないけれど、ジャーナリストを断罪するのではなく、ジャーナリストにそういう行為をした勢力に対して断罪をすべきなのではないか、と考えます。実際、私たちはそういった地域でターゲットになってしまっているんです。ですから日本の皆さんも日々仕事をしていると思いますが、家に帰って居心地の良い場所からただバッシングすることは簡単かもしれないけれど、ジャーナリストたちもまた自分の仕事を全うしているだけなのです。シリアであれイラクであれ、世界のどこかで起きていることを報道して皆さんと分かち合わなければならないのではないかと考えているのです」と、使命感を持って取材を続けるジャーナリストとしての思いがにじむ言葉を述べている。

最後にプク・ダムスゴーさんは日本の観客にむけて、「この映画は、ダニエルという一人の青年がシリアでどんな風に苦しんだのかを描いただけの物語ではないのだ、ということをぜひ感じてほしいです。シリア内戦から10年、こういう状況をシリア市民が望んでいたわけではなく、この紛争を通してたくさんの人が苦しんでいます。多くの人たちが殺され、爆撃にあい、何百万人の人たちが国を追われ、逃げることを余儀なくされました。この作品を見ながら、そういった人たちのことも、ぜひ念頭に置いていただけたら嬉しいです」と、メッセージを送っている。

「ある人質 生還までの398日」は、2013年から2014年にかけてISの人質となったダニエル・リューが、拷問や飢えに苦しみ、恐怖と不安にさいなまれる地獄の日々を耐え抜いた姿を描いた作品。ダニエルを救出するために奔走する家族の姿も描かれている。ジャーナリストのプク・ダムスゴーが書き上げた「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」を原作とし、「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」のニールス・アルデン・オプレヴと出演もしているアナス・W・ベアテルセンが共同で監督している。デンマーク・アカデミー賞(ロバート賞)では、ダニエルを演じたエスベン・スメドが主演男優賞を受賞したほか、助演女優賞、観客賞、脚色賞を受賞した。

ある人質 生還までの398日
ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町にて公開中
配給:ハピネット 配給協力:ギグリーボックス
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