なべやかん遺産|「究極の癒やしソフビ」 芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「究極の癒やしソフビ」!

コロナ禍のストレス解消法

ここ数回、怪獣ソフビの事を書いている。なぜこんなに書き続けているかというと、どうやらストレスがかなり溜まっているみたいだ。

コロナ疲れで色んな人がおかしくなり、人に当たり散らす人もいれば、動きが鈍くなり仕事を全然してくれない人もいる。それらの事がストレスとなり襲い掛かって来る。

コロナのために多くの人が上手くいってないのに、自分の事だけしか考えられず攻撃的になっては駄目だよね。こんな時でも明るくポジティブに行かねばならないし、生きなければならない。自殺者も増えているようなのでなおさらだ。

我々のエンタメ業界も大打撃。イベントがないのでお呼びがからないし、イベントがあっても「皆さん、観に来て下さい」と言いづらい。

今、芸人を目指す若手の子達って何が目的なのかな?スポンサーもお金を出せなくなっているし、ギャラも下がっているからお金を稼ぐという夢がなくなっている。

今やテレビの世界は夢がない。そんな世界で死ぬまでやっていかなきゃいけないのだよ!こちらはその覚悟でいるのだから、かなりストレスだって溜まるよ。

そんなストレスを解消する一つの手段が、かつて日本のテレビを賑わし、エンタメ界を盛り上げ大ブームを作った怪獣達(ソフビ人形)と触れ合うことだ。

そんなわけで、今回も懲りずに怪獣ソフビを語ろうと思う。

第一弾で『癒しの怪獣ソフビ』を書いたが、今回は自分にとって“究極の癒しソフビ”をご紹介しよう。

好き度ナンバー1のマルサン製のナメゴン。色、造形、全て良し。

市場に出たら10万円の代物

数ある怪獣ソフビの中で一番のお気に入りはマルサンのナメゴンである。ナメゴンは殻のないカタツムリみたいな生物で、それをソフビ化している。

本物はナメクジ色なのだが、ソフビはゴジラブルーと呼ばれている紺色だ。この成形色はソフビコレクターの憧れの色である。マルサン初期の一期発売ソフビはこの色で発売されている物が多く、それらは少数生産なので市場に中々出てこない。

そういった事も憧れになった所以だ。

前回、左右非対称の歪んだ造形のソフビが嫌いだったと書いたが、ナメゴンだけは特別だった。

そもそもカタツムリやナメクジに近い造形なので、歪んでいて当然。庭で見かける陸生軟体動物はウネウネ動いているので左右非対称が当たり前。歪みがあった方がリアルで心地よく感じられる。

ソフビコレクターになった当初、ウルトラQマニアのお宅にお邪魔する事が何度かあり、その人がマルサンのナメゴンだけ持っていなかったので「ナメゴンは珍しい、怪獣ソフビの頂点」と思ってしまったのだ。

ウルトラマンも実は好き。王道中の王道だけど、当時の物はデフォルメ感が素晴らしい。
ガラモンも究極の一つ。マルサン怪獣ソフビの最高傑作のトップ5に入る。

怪獣ソフビの頂点はおそらくマルサン一期のガラモンだが、その人はガラモン一期は持っていても、ナメゴンだけ持っていなかった。

今から約40年前、マルサンの怪獣ソフビを販売するアンティークショップも都内に数点しかなかったので、その話は皆が知っていて、ナメゴンが市場に出たら10万円と言われていた。

ちなみに他の怪獣ソフビは3000円~5000円。一期ガラモンが1万円の時代である。

執念で手に入れたナメゴンを手に持つ度、悪いモノが抜け落ち、気分が良くなる。これは何度も言っていることだが、我がコレクションルームはパワースポットなのだ。

中央がマルサン一期カネゴンで後方が二期。一期はエメラルドグリーンのようで神々しい。
マルサン一期ギャンゴはカラーリングが最高。紺のメタリックで包み塗装しているのが素晴らしい。包み塗装は萌えだ。

その理由は、自分が好きな物しか置いていない場所であるからだ。欲しいという欲望で集められたものが集う場所。

“欲”という結果を目で確認できる場所。全ての物に対し愛情があるので、愛に満ち溢れた空間。そんな場所で癒しの怪獣ソフビを我が手に持つと、ストレスから解き放たれる。

マルサンのナメゴン、ウルトラマン、カネゴン、ガラモン、ペギラ、ギャンゴ。

ふぅ~

それらを持ち深呼吸。鼻から吸って口から吐く。良い氣が体内に入り込む。こうやって約40年過ごして来た。つらいことを乗り越えられてきたのも、こんな呼吸法を学んでの事。

ペギラは持った時の感じが実に素晴らしい。シックリくる厚みと重さ。

取り憑かれたら一生抜け出せない魔力

ほんわかした怪獣ソフビ、現在のバンダイ怪獣ソフビにはない、手に持った時のしっくり感がある。大きさも重さもちょうどよい。当時の原型師さんって本当に凄いよ。

そんな癒しの怪獣さん達を見てつくづく思うのは、怪獣に悪いやつはいないってこと。

体が大きいから色んな物を壊しちゃうだけ。民家に現れる猿やイノシシや熊と同じようなもので、人間による環境破壊で今まで住んでいた所が住みにくくなったり食事が無くなったりで出て来ちゃっただけなのだ。

貧乏芸人がお腹空いて街をふらついてゴミ箱漁ってるのと実は変わらない。

それなのに人間にとって邪魔という判断で駆除されるなんて可哀そうすぎる。害獣扱いされている動物も怪獣達も可哀そうな存在なのだ。

実は怪獣ってみんな可愛い顔をしている。はなから憎たらしい顔だったり、狂暴な顔をしている怪獣もいるけど、自分は好きになれない。デザインにあざとさが見えてしまうから。

怪獣は滅ぼされるために登場する。だから哀愁があるのだ。

怪獣ソフビを手に取ることで人間のエゴも感じる。でも、その場所は自分の欲望というエゴで集められた怪獣ソフビに囲まれた部屋。怪獣ソフビって面白いでしょ?

この魔力に取り憑かれると一生抜け出せない。これこそ滅びゆくもの達の呪いなのだろう。深いね~。究極だね~。

なべやかん

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