【MLB】「そんなのしょうがないやん」ダルビッシュが救われた“伝説の投手”野茂氏の言葉

パドレス・ダルビッシュ有【写真:AP】

初のライブBPでは最速95.2マイル(約153キロ)をマーク「元気に投げることができた」

パドレスのダルビッシュ有投手が25日(日本時間26日)、打者を相手に初めての実戦投球を行った。左右2人の打者が交互に打席に入り、延べ7人に22球を投げ、1本塁打を含む2安打3三振の内容。テーマにしたのは「ストライクを投げることと、打者に当てないこと」。四死球はなく、最速95.2マイル(約153キロ)の直球と織り交ぜたカッター、スライダー、ナックルカーブ、ツーシームに「全部良かったと思います」と納得の表情を見せた。

練習後にオンライン会見で対応。自軍の打者相手に投げる「ライブBP」に初登板した率直な感想を「すごく今日はコントロールも良くて、元気に投げることができました」と表した。いきなり2者連続の空振り三振を奪うなど5球種を駆使し、テーマにした“無死球”をクリア。さらに、収穫はイメージ通りの“指先”と掘り下げた。

「リリースの最後の瞬間まで、細部までちゃんと自分の意志のまま動けているという感じ。スピンも効いていたし、動かしたいように動かせたし。そういう意味では、指先の感覚とかに関してはすごく早い感じで進んでいるかなとは思います」

左打者の内角を狙い被弾した一投にも「ちょっと指先に引っかけた分、捉えられたかな」と納得している。

2016年からパドレスの球団アドバイザーに就任している野茂英雄氏から、ここまでフォークのアドバイスを受けているが、骨格の違いは一連の投球動作で力の出し方も異なり、直伝の宝刀をそっくり再現することは不可能。しかし、ブルペンでの試行錯誤は、持ち球の質を高めるためのヒントにつながっている。

「自分の体に置き換えていかに近い球を表現するか。スプリットだけじゃなくて、他の変化球にも応用できることが沢山あると思うので。そういうところを楽しみにしてこれからもやっていきたいと思います」

四球を重ねた試合翌日の心境に野茂氏は「そんなのしょうがないやん」

野茂氏と共用する時間は、気持ちの持ち方を変えるきっかけを作った――。四球禍で試合を壊した翌日の心境を聞いてみた。答えは「そんなのしょうがないやん」だった。

26年前、野茂氏はメジャー挑戦に懐疑論が飛び交う日本から海を渡った。計り知れない重圧とも戦いながら、フォークを武器に1年目から圧倒的な投球を見せ実力で雑音を消し去った。日本人投手唯一の2度のノーヒッターを成し遂げ、「伝説の投手」とダルビッシュが敬う野茂氏が淡々と返した一言に、懐にあった重石がスッと動いた。

「自分に対して優しくなれる、そういうところが(野茂氏の)強さかなって。自分の場合は、自分に対して責めることもすごくしてしまいます。それってやっぱり良くない。自分に対してリスペクトがないし。そういうところが自分の弱さだと思う」

メジャー10年目の春に、ダルビッシュの不安は一つ。34歳の年齢も関係してか、食欲減退からくる体重減で「このキャンプの課題は、食べることをもうちょっと頑張らないと厳しくなってくると思う」と、自分に言い聞かせるように言った。

でも、心配などいるまい。昨季のコロナ禍で戦ったシーズンで8勝を挙げ、日本人投手初の最多賞を手にした夫を陰から支える愛妻、聖子さんと、どんな時も心を和ませてくれる子供たちがずっと見守っている。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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