ヒロインは富田靖子、映画「アイコ十六歳」で女優と歌手デビュー! 1983年 11月21日 富田靖子のデビューシングル「オレンジ色の絵葉書」がリリースされた日

富田靖子、映画「アイコ十六歳」で主役デビュー

所属事務所アミューズではサザンオールスターズ、三宅裕司に次ぐ古株で、福山雅治よりも5年も先輩の富田靖子。

いつの間にかベテラン女優となった彼女は今年でデビュー38周年になる。そのきっかけとなったのは、中学生だった1983年に映画『アイコ十六歳』のオーディションを受けたこと。約127,000人の応募者の中から見事ヒロインに選ばれ、その年の12月に公開された同作でいきなり主役デビュー。そして11月21日に先行リリースされたイメージソング「オレンジ色の絵葉書」で歌手デビューも果たしている。当時の芸名は “冨田靖子” だった。

薬師丸ひろ子に魅了され、妹分の原田知世のデビューを見届けていた僕らの目の前に突如現れた冨田靖子は、まだ芸能界に慣れていなかったせいもあるだろうが、すごくピュアで自然体に見えた。当時自分の周りでも話題になっていた『アイコ十六歳』を映画館へ観に行き、その想いをますます強くしたものだった。同じオーディションから輩出されたという松下由樹と宮崎ますみも映画に出演していたそうだが、当時はまだ彼女達の存在を認識していなかったので、全く憶えていない。DVDで改めて見返してみなければ。ちなみに映画のオーディションには岡田有希子や森口博子も参加していたという。

1983年はアイドル全盛期、独特な存在感を放っていた冨田靖子

1983年はアイドル全盛時代になっていたけれども、冨田靖子のスタンスは薬師丸ひろ子や原田知世と同じく、普通のアイドルではない女優側に寄っており、独特な存在感を放っていた。実際に彼女は薬師丸ひろ子に憧れて女優を目指したそうだ。『アイコ十六歳』をプロデュースした大林宣彦が監督した1985年の主演映画『さびしんぼう』でその存在感はさらに強まり、1987年に市川準の映画初監督作となった『BU・SU』への主演で、それは確固たるものとなった。

デビューの頃のちょっとボーイッシュな雰囲気から加速度を増して女性らしくなっていった彼女。『さびしんぼう』がキネマ旬報ベストテン5位で読者選出では1位、『BU・SU』が同ベストテン8位で読者選出2位という高い評価を受けたのは、作品の出来はもちろんのこと、主演を務めた彼女の瑞々しい演技が評価されてのことだったのは確かだろう。『さびしんぼう』では主題歌も自ら歌った。『BU・SU』ではヨコハマ映画祭主演女優賞、高崎映画祭ベストアイドル賞を受賞している。女優であると共に、アイドルでもあった証明である。

歌手活動も充実、デビューシングルは「オレンジ色の絵葉書」

歌手・冨田靖子のスタートとなった『アイコ十六歳』のイメージソング「オレンジ色の絵葉書」は、ジューシィ・フルーツのギタリスト、柴矢俊彦の作曲、B面「夢少女」はサザンの初期作品のアレンジを数多く手がけた新田一郎の作曲。本編の音楽は斎藤誠、サザンオールスターズ、原由子、ウエストウッドという豪華なクレジットで、斎藤誠の作詞・作曲で原由子が歌った主題歌「“LOVE” Is Sixteen」のほか、サザンの「NEVER FALL IN LOVE AGAIN」、ウエストウッドの「ゆれる想い」が挿入歌として使用されるなど、さすがに音楽面が充実している。

翌1984年の主演映画『ときめき海岸物語』の主題歌「渚のドルフィン」が2枚目のシングルとなる。松本隆の作詞、筒美京平の作曲と作家陣にも恵まれていた。演技と同様に素直な感じの歌声がいい。1985年になると『さびしんぼう』の同名主題歌をはじめ、「スウィート」「君はシンデレラ」と年間3枚もシングルリリースして歌手としても勢いがつく。芸名も “冨田” から、一画増えて “富田” となった。

1986年のドラマ主題歌「なんて素敵にジャパネスク」、1988年のJR四国のキャンペーンソング「元気ですか!?」辺り、お好きな向きは多いのではなかろうか。アルバムも毎年の様に出しながら、歌手活動は90年代初頭まで続いた。

映画、ドラマ、舞台… 着実に上る大女優の階段

その後は1995年の映画『南京の基督』で大胆なヘアヌードを披露してイメージチェンジを図り、第8回東京国際映画祭最優秀女優賞を受賞。1997年のNHK大河ドラマ『毛利元就』で元就の正室・美伊の方を演じたり、1998年からは舞台に進出するなど、大女優への階段を着実に上っていった。2013年には憧れの先輩・薬師丸ひろ子とTBSのドラマ『こうのとりのゆりかご~「赤ちゃんポスト」の6年間と救われた92の命の未来~』で初共演を果たした。最近では薬師丸と同様に母親役が堂に入っており、可憐な少女だった『アイコ十六歳』の頃を想うと実に感慨深い。

藤子・F・不二雄の大ファンであり、ドラえもんの劇場版は全て鑑賞し、藤子作品の全てを読破していることが一部で知られている。アイドル時代にはガンダムファンをカミングアウトしたこともあった。少女マンガも好きだという彼女、中野や秋葉原に出没することもあるのだろうか。

今後、藤子マンガが実写化された際には、何らかの役でキャスティングすべきことを、各方面のプロデューサー氏は認識しておいてください。

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※2018年11月20日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 鈴木啓之

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