毎日乗りたくなる!マツダMX-30 EVは「マツダ車で最も優れた乗り味」

2020年11月に発表されたマツダの新しいクロスオーバーSUVである「MX-30」。発売当初はマイルドハイブリッド車のみでしたが、事前に告知されていたBEV(電気自動車)が2021年1月28日発表されました。価格も上昇するBEVですが、試乗して目からうろこが落ちるほどの衝撃を受けました。声を出して伝えたいのは「ぜひ試乗してほしい」です。


当初はリース専用だった

MX-30 EVは当初の報道では「官公庁を含めたリース販売」を基本としていました。しかし、市場からつまり顧客側から「一般向けに販売してほしい」との声がかなり高まったこともあり、販売対象を拡大したいきさつがあります。

今回試乗と同時に開発主査(責任者)であるマツダの竹内都美子さんほかのエンジニアにも話を聞くことができました。

実はEVの歴史が長いという事実

国内における「量産初」という点ではMX-30 EVは後発と言えるでしょう。しかし現実はマツダは10年以上に亘りEVを手がけています。実際国内では100台限定のリース販売ではありましたが、デミオEVを2012年10月に行っています(価格は357万7000円)。また後述するRE(ロータリーエンジン)を発電機として使うシステムもプロトタイプ車として筆者も試乗したことがあります。つまりMX-30を開発するから一緒にEVを急いで開発したわけではなく、これまでも実験から導き出された十分な知見と現在のマツダが持つ最先端技術が融合して完成したのがこのMX-30 EVと言えます。

EVモデルは右側リアフェンダー上に充電口がある以外はほとんど見た目の差はありません

覚えておきたい「WTW」という考え

欧州や中国のEVシフトはすでに有名ですし、日本も政府が2020年10月26日に2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするという「2050年カーボンニュートラル宣言」が発信されました。

何よりもこれらの発表の前後も含めて「世の中は全部EVにシフトする(脱化石燃料)」「部品点数の少ないEVはこれまでのクルマの1/5で作ることができる」といった情報に消費者は過度な反応をしてしまいました。

細かなことを解説するとページが何ページあっても足りませんし、筆者的にもこれは極端な意見であり、業界に身を置く立場としては「クルマ作りってそんな簡単なものじゃない」と言いたい部分はあるのです。

少し話が脱線しましたが、EVは車両だけ見ればCO2は発生しません。これを宣伝文句としてアピールしているメーカーもあります。しかし、世界的にも現在はLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)という考えがデフォルトになります。

つまりクルマの一生は資源を採掘してクルマを作り、最後は破棄またはリサイクルまでがひとつのサイクルなのです。このそれぞれの過程でCO2は発生するわけでLCAの考えに基づけばトータルでの削減が重要となります。

これがWTW「WELL-TO-WHEEL」という考えで、マツダは他社が前述したようにCO2ゼロを声高らかにアピールしていた際にもこの考えを全面に出していました。

MX-30 EVは積載するバッテリーの容量が少ないという声は確かに存在します。しかしこのLCAやWTWという考えで試算すると最もCO2排出量が少ない(現状)ということでこのサイズにしたとのことです。

車両価格は高い?

少し前振りが長くなりましたが、MX-30 EVの世界を理解してもらうための解説ということでお許しください。

さて満を持して登場したMX-30 EVですが、車両価格は451万~495万円まで3グレードを設定、駆動方式はFF(前輪駆動)のみになります。

先行して発売されるマイルドハイブリッド車の価格が242万2000円からで特別仕様車や4WD車を除けば最上位グレードは281万6000円なので、単純にかなりの価格差はありますが、実際はEVの場合はCEV(クリーンエネルギー)補助金やエコカー減税、自動車税の環境性能割なども適用されますし、最上位グレードで比較してもEVはほぼフル装備なのに対し、マイルドハイブリッド車はいくつかのメーカーオプションを装着しないと同じ仕様にはなりません。

マイルドハイブリッド車の場合は左フェンダー側にガソリンの給油口を設置します

つまり、パッと見た目ではなく中身をきっちりチェック、さらにWEBの見積もりを活用すればその価格差が縮まっていることがわかります。

EVである主張は最小限に

EVが特別なものではない、という考えでは無く、新しい選択肢のひとつ、と考えると過度な仕様の差というのは逆に敬遠されます。

元々デザインやマテリアルの部分でも高い評価を受けており、日本カー・オブ・ザ・イヤーの「デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー」部門の最初の受賞車でもあることからも従来のクルマとはひと味違うのがMX-30の持ち味です。

ゆえにマイルドハイブリッド車との外観上の差はほぼ見当たりません。充電口とガソリン給油口が車両の左右それぞれに設置されていることや、さりげなく処理されたエンブレム等以外はパッと見はその差は見つけられないでしょう。

一方でスペックに関しては重量差も含めて、異なる点はあります。それは大容量のバッテリーをボディの底に搭載するために15mm全高が上がっているのです。その寸法が1565mmと微妙。元々MX-30は都心部に多い立体駐車場への入庫を容易にするための全高となっていますが、15mmアップしたことで入庫できない可能性もあります。もし購入する場合、自宅が立体駐車場であるならばチェックしておく必要があります。

EV車は全高が1565mm、バッテリーを底部に積むため最低地上高が130mmなります

また地面から車両の最も低い部分の寸法である「最低地上高」に関してもマイルドハイブリッド車が180mmなのに対し、EV車は130mm、これもバッテリーの影響ですが、悪路を走るのでなければ、この部分はそれほど気にしなくて良いでしょう。

インテリアに関してもマイルドハイブリッド車同様にフローティング構造で操作系が高い位置にセットされたコンソールなども大きな違いはありません。それにしてもこのコンソールにセットされたシフトレバーやナビなどを操作するコマンダーコントロールの位置がスッと手を伸ばした先にありますので本当に使いやすいことはお伝えしておきます。

もちろんMX-30最大の特徴とも言える、センターピラーを持たない「フリーアクセスドア」もすぐに操作に慣れますし、使っているうちに後席へのアクセスも意外なほど、スッと行えることに気がつきます。

感動の走行フィール

MX-30 EVに搭載されるモーターの出力は最高出力145PS(107kW)最大トルク270N・m(27.5kgf・m)。モーターの特性上、チューニング次第で制御自体をきめ細かくできる点やペダルを踏んですぐに最大トルクを出すことができるなど、車種によって様々です。

MX-30 EVに乗って感じたのは「スペックなど関係無い」と思わせるほど気持ちの良い、言い換えれば人間が「こう走りたい」という感覚に見事に応えてくれている点です。

正直、最初はそれほど期待していなかったのですが、乗って驚き!滑らかな加速は当たり前ですが、発進から追い越しまでクルマの全てに一体感を感じる仕上がりです。

18インチアルミホイールは最上位グレードのみ「高輝度ダーク塗装」となります

これにはマツダが誇る車両運動制御技術である「GVC(ジー・ベクタリング・コントロール」をEV用に進化させた「e-GVC Plus」が搭載されている点、またそもそも重量のあるバッテリーをボディと強固に結合されるなど、その他にも足回りのチューニングetcにより、マイルドハイブリッド車よりも剛性も含めて圧倒的とも言える補強が施されています。

カラーマテリアルの品質の高さも魅力。最上位グレードは2種類から選択できます

少々難しいことを書きましたが、ひと言で言えば「高級車」と言っても過言ではないほどの仕上がりです。

静粛性に関しても元々EVですから静かなのは当たり前としても、フロアカーペット周辺に二重の壁を設けたり、ロードノイズも抑え込んでいます。今回の試乗車にはBOSE製のオーディオサウンドシステムが搭載(最上位グレードは標準装備)されていましたが、この静かな環境においても専用チューンされたBOSEサウンドがいい感じで室内の満たしてくれます。チェック用にいつも準備している管弦楽などを聞いても弦の震えや余韻、また奥行き感もうまく表現できており、このクルマにはピッタリと言える装備であることを再確認しました。

なぜか音がする、その秘密は

MX-30 EVにはアクセルペダルがありません。いや、正確に言えばマツダはこれを「モーターペダル」と呼んでいます。意のままに操ることができる、言い換えれば車速や車両の姿勢を思い通りにコントロールできることを実現するために電動モーター制御によりこれを実現しました。この辺もエンジニアのこだわりを感じます。

コンソールが少し高めに設置されているのでシフトの操作も非常に楽に行えます

そしてユニークなのが静粛性の高いEV車でありながら、モーターペダルに連動してサウンドを発する機構を搭載している点です。

そもそもエンジンサウンドを持たないEVではただ静かなだけで無意識に加速を続けることに関しては危険が伴う場合もあります。そこでマツダは単に音を加えるのではなく、モーターのトルクの変化を完全に同期させた周波数や音圧を計算しドライバーにエネルギーの変化を認知出来るシステムに仕上げたとのことです。

非常に理論は難しかったのですが、要は静粛性も犠牲にせず、それでいて自分がとのように走っているかを聴覚的にも感じられるという理にかなった仕組みになっていました。これに関しては手元で車速や回生量のコントロールを容易にするパドルシフトを含めてぜひディーラーで試乗してもらうことが一番と感じました。

残価設定ローンは驚きの55%

魅力満載のMX-30 EVですが、購入方法に関してもチャレンジな仕組みを導入しています。

元々マツダには「スカイプラン」と呼ばれる「残価設定型クレジットプラン」が用意されています。

簡単に言えば最初に設定した年数が終了した際の「残価率」から支払額を計算し、月々の負担を軽くする考えですが、MX-30 EVは3年プランの場合、従来のガソリン車と同等の55%を設定しました。

リアドアのガラス部に装着される「ELECTRIC」のステッカーがさりげなくEVを主張します

これがどの位凄いかと言うと、実は車種にもよりますが、バッテリーの劣化なども含めてピュアEVの残価率はあまり高くありません。当然残価設定型クレジットプランを組むと残価率はガソリン車より大きく下回るケースも多いのです。もちろん、スカイプランの場合でも4年プランでは43%と数字は落ちてしまいます。つまりマツダとしては効率的な買換を促進するためにもこの3年プランを積極的に推していくことが予想されます。

ざっくりとした見積もりでも通常のクレジットプランと比較しても月々の支払額は7万円!以上下げられますし(ボーナス時の支払いは同じとして計算)、基本は最終支払い終了後には車両は返却になりますが(買い取りも可能)、MX-30 EVには特にマッチングの良いプランと思います。

最終章には本命が登場予定

MX-30は冒頭に述べたようにマツダのLCA戦略においての重要なポジションとも言えるクルマです。

特に2022年度に発売予定のRE(ロータリーエンジン)を発電機として使うレンジエクステンダー車が本命で、これが発売されれば、EVの泣き所でもある航続距離の問題は一気に解決します。

もちろん車両価格が現状のEVに比べてどの位上昇するかは予想もつきません。ただ今回のEVはフル充電でカタログ上は256km、実際の走行でもエアコンやヒーターを入れると200km強と利用シーンには制限が付くことになります。それでもこのクルマが持つハンドリングの上質さは買いと思いました。マツダにはロードスターという世界に誇るスポーツカーがありますが、それとは別の次元で現状マツダ車最高の乗り味ではないか、とある種の感銘を受けたほどです。

最後に竹内主査によれば「MX-30はマイルドハイブリッドが第一章、EVが第二章、そしてREマルチ電動化が最終章(第三章)、これでまずは一度完結する」とのことです。その先はまだまだ秘密?のようですが、第二章であるEVの走りが驚くほどの性能だったことからも最終章である「REレンジエクステンダー」に大きな期待をしてしまうのは素直な気持ちだと感じています。

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