「福祉と目線そろえる」 長崎地検検事正 木下雅博さん

木下雅博さん(56)

 〈1月に長崎地検のトップに就いた。5月で開始から12年となる裁判員制度への対応や、新型コロナウイルス禍の影響などについて聞いた〉

 -裁判員制度は5月で開始から12年となる。
 国民の理解と協力に支えられ、着実に定着している。検察は「分かりやすい主張立証」を常に心掛けている。冒頭陳述はA3判の書面1枚程度に具体的な争点を明示。証拠調べ、証人尋問でも難しい言葉を分かりやすく説明する。その場で見て、聞いて、分かることが必要なので、検察官も捜査段階から裁判員裁判を想定するようになった。

 -裁判員裁判対象事件などでは取り調べの録音・録画(可視化)が義務付けられた。
 被疑者の属性など、ビデオが回っていると話しづらいこともあるだろうが、例外規定も設けており支障はないと考える。趣旨は取り調べの任意性の担保だ。以前は被疑者が捜査段階の供述を公判で翻した場合、「(供述を)押し付けられた」「押し付けていない」と、相当な審理期間を経ていた。録音・録画により、そういうことがなくなった。

 -長崎県では、障害があり罪を繰り返す「累犯障害者」について、福祉と検察が連携し、福祉施設で更生を促す取り組みが進んでいる。
 (罪を犯した障害者を起訴前に福祉につなぐ)「新長崎モデル」は、検察内では全国的に有名だ。罪を犯した人は罪に応じた刑罰を科すことが必要。他方で、累犯障害者の中には、刑事司法手続きに乗せずに福祉につなげた方が更生につながることもある。そういう特性があるかどうか被疑者の見極めが重要。関係機関との情報共有が欠かせない。
 制度としては構築しており、後は使い手がうまく使えるかどうかだ。情報共有での「目詰まり」が生じていれば解消のための検討は必要。被疑者の身柄を捕まえてからは基本的には10日しかない。この期間はあくまでも犯罪の捜査で、福祉を前提としたものではない。福祉の観点からは不十分な部分があるかもしれない。先駆的な立場にある長崎でのいろいろな事例を参考に、関係機関とお互い目線をそろえてやっていきたい。

 -新型コロナウイルス禍の影響は。
 人々が不安を感じる中で、弱みに付け込む犯罪は安全安心の基盤を脅かす。特殊詐欺のほか、児童虐待や女性に対する性犯罪など、社会的に声を上げられない人を対象にした犯罪には厳正に対処する。
 コロナ禍では、コミュニケーションが欠如しやすい。形式的に業務はできても、組織のパフォーマンスは上がらない。以前なら、飲み会や会食で仕事以外のコミュニケーションを図っていたが、新しい生活様式でどうするか。何とかしたいと考えている。

 【略歴】きのした・まさひろ 福岡県出身、青山学院大法学部卒。1993年に検事任官。長崎地検佐世保支部長兼平戸支部長、札幌地検次席検事、東京高検公安部長などを歴任した。趣味の旅行は現在自粛中だが、「以前訪れた壱岐にはもう一度行ってみたい」と語る。

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