58歳会社経営者「引退する予定はなく、節約する気が起きません…」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、58歳、会社経営者の男性。会社経営も順風満帆で収入も安定している相談者。引退する予定はなく、節約するよりも稼ぎたい気持ちが強いと言いますが……。FPの横山光昭氏がお答えします。

58歳、従業員3名の自営業が少々大きくなった程度の会社を経営しています。個人事業から法人成りしたのは10年ほど前。従業員を雇いはじめた当時は収入も少なく、暮らしも大変でしたが、社会保険に入ることができましたし、収入も増え、老後は明るいと思っています。子ども2人の大学費用も負担でき、間もなく次男も巣立つ予定です。

仕事は年々売上を伸ばし、役員報酬も増えています。世間的には定年となる60歳を過ぎても、引退する気持ちもなく、今の暮らしを維持できる自信があります。ですから、あまり貯金はしてこなかったのですが、今になって妻が老後の暮らしが非常に不安だと話すようになりました。

数年前に自宅兼事務所を立て、そのローンがまだ17年残っています。また、独立資金として父親に借りたお金も毎月返済しています。その支払い負担の心配もあるのでしょうし、老後2,000万円問題や、年金が減るという話もありましたから、貯金額だけを見ると不安になったのだと思います。

年金を受給しても貯金が少なく、支払いが多いという点で不安なのだろうと思っているのですが、自分は節約してお金を貯めるのなら稼いで貯めたほうがよいと思っているので、今一つ頑張って支出を減らそうとも思えません。やはり稼ぐだけではお金は貯まらず、老後暮らせなくなってしまうものなのでしょうか。

【相談者プロフィール】

・男性、58歳、会社経営

・妻(55歳・会社手伝い)、次男(21歳・大学4年生)

・毎月の手取り収入:75万4,000円

・ボーナス:なし

・貯金:約380万円

・住宅ローン残金:6,200万円

・毎月の支出の目安:74万9000円

【毎月の支出の内訳】

・住居費(住宅ローン):28万円

・食費 :10万9,000 円

・水道光熱費: 3万1,000円

・通信費:1万9,000 円

・生命保険料:4万1,000円

・日用品代:7,000円

・医療費:5,000円

・教育費:2万3,000円

・交通費:1万円

・被服費:3万7,000円

・交際費:1万5,000円

・娯楽費:2万6,000円

・こづかい(次男へ): 4万円

・その他: 3万6,000円

・父への返済:7万円


横山:60歳を過ぎても長く働こうと考えていらっしゃるのですね。多くの方の収入が減る年代で、これだけの収入を長く維持することを見込めるのは、素晴らしいことだと思います。ですが、半面、健康を崩したり、突発的な出来事で収入が減ってしまうとかなり心配です。備えとして、支出を無理なくコントロールできるようになる、そしてできるだけ貯金を増やしておくように意識をされていきたいところですね。

稼いで貯めるも大事、無駄をなくして貯めるも大事

60歳以降も積極的に働いて、今の収入を維持する。多くの人がそうしたいけれどもなかなかできないことです。老後資金を残すには、

1.収入を増やす
2.支出をコントロールして減らす
3.使わないお金を運用する

この3つが大切です。収入は見込みがありますが、支出も大きいまま変わらないように思えます。今のままでは、例えばご相談者がご病気になって収入が減った場合や、亡くなって妻が1人で暮らすことになった場合、たちまち生活ができなくなってしまいます。

稼いでお金を作るほうが良いという気持ちもわかりますが、今後のことを考えて、支出は可能な限り少なくしておくほうが賢明です。

支出の削減は、今の支出を把握し、なくても暮らせる支出、重要ではない支出を減らしていくようにしましょう。加えて固定費もできるだけ減らせると、将来の不安を減らすことにつながります。

月の支出の半分以上を占める固定費を改善

月に一度、同じ金額を支払うものを「固定費」といいます。住宅ローンや父親への返済、通信費、生命保険料、教育費、次男への小遣い、サブスク代などが該当します。

住宅ローンや父親への返済はすぐに減額は難しいかもしれませんが、通信費、生命保険料については見直せば支出を下げられる可能性が高いでしょう。例えば通信費で言えば、今は大手キャリアも格安プランを発表しています。通話代が含まれていないプランが多いですが利用の仕方によっては今よりもずっと少ない金額で利用できます。また、従来からある格安スマホに切り替えるのも手です。大手キャリアの通信網を借りて運営しているので、多少のつながりにくさはあるかもしれませんが、気になるほどではないはずです。

また、生命保険についても、次男さんが間もなく卒業、一人立ちということであれば、死亡保障などの見直しができるでしょう。ご夫婦で加入している保険を、現状と合っているのかと再確認をしてみましょう。保険については無料の相談窓口もありますが、悲しいことに、手数料を狙って必要ではない保険を勧められる場合もやはりあります。相談料がかかっても、中立な立場のファイナンシャルプランナー等に相談してください。相談料がかかる分、現状に最適な提案をしてくれるはずです。

次男さんの学費やこづかいは卒業すると無くなるでしょうが、もし、今アルバイトをしているなどしていれば、こづかいはカットする、減らすということも検討できます。

また、今後の貯金の増え方によっては、住宅ローンの繰り上げ返済等も考えてもよさそうです。このようにして支出を減らすことができれば、貯金は増えますし、収入が減ったとしても赤字になる生活費が少なくきるでしょう。

運用を検討してもOK

ご相談者は58歳という年齢ですが、将来に向けて投資を始めても良いと思います。人生100年時代、男性の平均寿命は81歳を超えています。20年は生きると見込んで取り組むのもよいと思います。

運用している資金に流動性を持たせたければ、通常の証券口座で投資信託の積立、または運用益が20年非課税になる「つみたてNISA」がよいでしょう。つみたてNISAの場合は年間の投資上限額が40万円。ですので、毎月積み立てるなら3万3,300円程度までです。支出を見直せば、このくらいの掛け金は出せそうです。

また、長く収入を見込み、節税も考えたいというのなら、iDeCo(個人型確定拠出年金)も良いでしょう。今は厚生年金に加入されているでしょうから、掛け金の上限は毎月2万3,000円。この掛け金の全額が所得控除となり、所得税、住民税が通常より安くなります。また、運用益は非課税、受取時も税優遇があります。現状では60歳までしか掛け金を拠出できないのですが、2022年5月からは65歳まで拠出することが可能になります。また、受け取りは75歳までに開始すれば良いことに変更になりますから、今から始めても6年以上は節税でき、運用もできます。

老後は長いですし、そのリスクにも備えなくてはいけません。働けることは大きな強みですが、働けなくなっても生活が困窮しないよう、収入、支出両方の面を整え、かつ、老後資金もできるだけ作ることができる努力をしてください。それが妻の不安軽減にもなると思います。

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