ブッフェはどうなった? コロナで一変した「ホテルの常識」

コロナ禍は世の中の様々なモノやコトの常識を覆しました。それはホテルも同様です。注目のホテルなどを紹介している本連載ですが、今回はコロナ禍で変わったホテルの常識を振り返ってみたいと思います。


宿泊という概念の崩壊

ホテルといえば、レストランや宴会、結婚式などでもお馴染みですが、やはり宿泊という機能は切っても切り離せないものでしょう。とはいえ、そんな宿泊という概念も変わりつつあります。宿泊といえば、たとえばゲストは15時にチェックインし翌日の11時チェックアウトするといったように、ホテルで決められた時間にチェックイン/チェックアウトの時間を合わせていました。ところが、宿泊稼働が芳しくないコロナ禍のホテルにおいては、利用時間までホテルがゲストの都合に合わせるような変化が見られます。

たとえば「プリンスホテル」では、都内8軒のプリンスホテルで、チェックイン時間を自由に選べる10時間滞在商品「フレックス10」という商品の販売を開始し好評を博しています。これは24時間いつでもチェックインが可能、最大10時間滞在ができるという内容で「コロナ禍での行動変容による新しい働き方やニーズに対応する」とし、テレワークや終電繰り上げにより帰宅が困難となる人などからもニーズがあるといいます。

“ホテルのタイムシェア”とも表せますが、時にリゾートなどでみられるコンドミニアムなどを共有者が一定期間(長期)それぞれタイムシェアするといった意味とは異なり、“短時間利用を可能にするサービス”という傾向と言えるでしょう。こうしたスタイルは以前からあり、一般のホテルに先んじてカプセルホテルなどで重宝されてきました。お昼寝(デイユース)プランと銘打って昼から深夜までいつでも予約可能を謳う施設も目立ちました。

短時間にプライベートスペースを確保出来るという点では、レンタルルームや漫画喫茶なども想起できます。“ホテルがライバル”と掲げるビデオ試写室もありますが、法律的に宿泊業と異なるカテゴライズがなされるのは、法律上要請される設備や“寝具の有無”といった点です。いずれにしても、より気軽に利用できる点ではタイムシェア向きの業態でしたが、一般のホテルが自由な発想で客室の提供を始めたのは、まさしく低稼働を克服しようとするアイディアであり、コロナ禍は宿泊の概念すら変えてしまったのかもしれません。

帝国ホテルのサービスアパートメントが話題に

このように、過去に類を見ないようなホテルの動向が次々と話題になる中で、注目を集めたニュースが「帝国ホテル 東京」のサービスアパートメントでしょう。900以上ある客室の内99室をサービスアパートメントに充てるといいます。サービスアパートメントとは、部屋に家具や家電が備えられ、室清掃や朝食の提供、フロント・コンシェルジュサービスなどホテルライクなサービスを提供します。手ぶらで入居、一般の賃貸マンションのような2年契約よりは短い週単位や月単位~1年といった期間の利用というイメージでしょうか。

帝国ホテルの気になるお値段は30泊で36万円(約30平方mの客室/税・サ込み)~といい、客室の広さや利用期間によって料金は異なります。発売開始から4時間で完売したといいますが、確かに単純に割ると1泊1万2,000円と帝国ホテルにしては破格と言えるでしょう。フィットネスルーム、プールをはじめ、駐車場などの利用に際して別途料金はかからないという点も大きな魅力。

こうしたサービスアパートメントやレジデンスホテルといったスタイルは、以前から大都市部で外資系を中心に存在感が際立ってきました。「オークウッド」「フレイザー」「アスコット」などのブランドが知られています。

客室の洗濯機もポイント?(オークウッドホテル&アパートメンツ新大阪)

また、帝国ホテルのサービスアパートメントでは、食事やランドリーでサブスクリプション方式による定額サービスを導入することも注目されましたが、高級ホテルとサブスクリプションといえば「ホテルニューオータニ大阪」の“デイユース サブスクリプション”もいち早く発表され話題となりました。室料30万円支払うと30日間毎日最大12時間(8時~20時)利用できるというプランで、テレワークの応援といった狙いがあります。平日に加え土・日・祝日も利用できるので30日間毎日利用すれば実質1日1万円に。帝国ホテル同様に駐車場は無料(時間内であれば入出庫自由)、オールデイダイニング「SATSUKI」のテイクアウトコーヒー30杯分無料チケットも付いています。

今後も、長期滞在プラン、サービスアパートメント的な形態やサブスクリプションといったこれまでにない動きが広がっていくと推測できます。

供食にも変化が

コロナ禍で忌避されたホテルの食事といえばブッフェスタイルでしょう。朝食からパーティーまでホテルではお馴染みの供食スタイルでしたが、感染症対策という点から中止するホテルが相次ぎました。一方で、ホテルも斬新なアイディアで乗り越えようとしています。パーティーや宴会も着席スタイルにしてディスタンスを保つスタイルのホテルでは、「席を立つことなく出来立てメニューを楽しめる」「料理をピックアップする行列を回避できる」とゲストから好意的な意見も目立ちます。朝食やランチブッフェなどは感染症対策を施しつつ再開されるケースが出てきていますが、バンケットなどでは引き続きこのような着席スタイル等で対応することが一般化していきそうです。

パーティーも着席間隔も空けて

ところで、コロナ禍以前からフードデリバリーはブームになっていましたが、ステイホームが叫ばれる中でその需要はますます高まっています。ホテルの宿泊者にも客室からフードデリバリーをオーダーするケースもあると言いますが、ホテルでは宿泊者以外が入れるのは基本的にロビーまでです。

とあるホテルでは注文者である宿泊者の部屋へ内線電話にて、デリバリーが到着しているのでロビーまでピックアップに来て欲しい旨連絡したところ、コロナに感染したらどうするんだ!とお叱りを受けたといいます。そうした需要を鑑み、フードデリバリーサービスと提携するホテルもあらわれています。フードデリバリーサービスの運営会社とホテルが手を組むケースが多くなっていくかもしれません。


伝統や格式を重んじるホテルまで先取的な取り組みが目立ち始めたホテル業界。人が住まうという行為そのものも“ハコの多様化”によりこれまでの常識が通用しないフェーズに突入しているといえます。ホテルの客室も、ホテルそのものの信用力を背景にした魅力あるハコとして機能し広まっていくのか否か。今後ますます注目すべきポイントでしょう。

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