「巡るたび、出会う旅。東北」 JRグループと地元が2021年4月から「東北DC」 JR東日本と東北の観光復興

東北DC開幕を飾る団体専用列車「巡るたび、出会う旅。東北号」のメイン車両として使用される「リゾートあすなろ」 写真は大湊線ですが、東北DCでは様々な路線を巡ります。 写真:em / PIXTA

あの日から間もなく10年、今年も3.11がやって来ます。あの日とは、もちろん東日本大震災の2011年3月11日。折りしも東北では、2021年2月13日深夜に福島県沖を震源とする最大震度6強の地震が発生、再び自然の脅威を見せ付けられました。

完全な復興はまだまだの東北ですが、震災後、一貫して観光による地域再生に力を入れてきたのがJR東日本です。JR東日本は震災10年の節目に当たり、さらなる東北の再生に力を尽くす方針を表明し、2021年2月9日の会見で深澤祐二社長が発表しました。

実践策が、同社を中心とするJRグループ旅客6社と地域が2021年4~9月に共同展開する「東北デスティネーションキャンペーン(東北DC)」です。DCは、6泊7日の団体専用列車「巡るたび、出会う旅。東北号」の運転をはじめ話題満載。発災から今日までの流れを、節目節目の話題を織り交ぜながら振り返ってみました。

DCは震災後東北各県を順番に、全県対象は初めて

東北DCのロゴマーク。東北6県の「六」をモチーフに、旅する人間の姿をデザインしました。 画像:東北観光推進機構

「JR東日本グループは、これまでも東北復興に取り組んできましたが、震災から10年の節目を迎え、地域活性化や4月からの『東北DC』に向けた取り組みを進めます。JR東日本グループは、東北エリアの復興に向けて、これからも地域とともに歩みます(大意)」。「これまでも」と「これからも」の2つのフレーズを織り込んだ今回の発表が、JR東日本の被災地復興に託す思いを言い表します。

2021年度のスタートを飾る東北DCは、JR旅客6社と東北6県に加え、東北観光推進機構が中心になって展開します。東北観光推進機構は、東北6県に新潟県を加えた広域エリアの観光推進母体。DCのキャッチフレーズは、「巡るたび、出会う旅。東北」です。

震災以降の東北エリアのDCは、2011年4~7月に青森県、2012年4~6月に岩手県、2013年4~6月に仙台市・宮城県、2015年4~6月に福島県、2016年7~9月に青森県・北海道函館(青函)と5回実施されましたが、6県の広域を対象とするのは初めて。さらに、通常は3ヵ月ごとに目的地を変えるDCが半年間にわたり同一目的地で開催されるのも初めてと、異例尽くめです。

東北DCのスペシャルサポーターは宮城県出身の人気お笑いコンビ。サンドウィッチマンが務めます。 画像:JR東日本

過去のDCで記憶に残るのは、発災直後の青森DC。青森県は深刻な被害はなかったものの、沿岸部中心に一部被災したこともあり、「DCを中止すべき」の議論もあったと聞きますが、既に準備を終えていたこともあり派手な演出を控えて予定通りに実施。震災後にあった「被災地を観光するのは不謹慎」の誤解を解き、「観光で被災地を元気に」の流れをつくり、その後の熊本地震や西日本豪雨、北海道胆振東部地震などの自然災害時に引き継がれました。

〝東北全県キャンペーン〟の始まりは「東北観光博」

過去の東北観光キャンペーンでは震災翌年、2012年3月からの「東北観光博」の記憶もよみがえります。観光庁を中心に東北6県と経済・観光関係団体、JR東日本などの民間が一体となって、2013年3月までの1年間にわたり展開。東北全県を観光博覧会場に見立て、多彩な催しが繰り広げられ、東北再生に弾みを付けました。

観光博を主催した実行委員会には、観光庁と東北6県のほか、日本経済団体連合会、日本商工会議所、経済同友会、日本観光振興協会、日本旅行業協会(JATA)、全国旅行業協会(ANTA)、東北運輸局などが参画。東北DCの先導役を務めたと考えられるでしょう。

ウィズコロナ時代の観光のあり方探る

「東北MaaS」のサービスメニュー=イメージ=画像:JR東日本

今回の東北DCでは、東北の観光復興とともにもう一つの目的が掲げられます。それは「ウィズコロナ時代の新しい観光のあり方を探る」。キャッシュレス化や観光MaaSといった新しい取り組みが実践されます。

キャッシュレス化はJR東日本と経済産業省東北経済産業局などの官民が連携して実行。JR東日本はSuicaをはじめとする電子マネー決済導入を推進、クレジットカード会社や金融機関と協力体制を構築します。

キャッシュレス化の対象は、DCで旅行客が訪れる観光・宿泊施設、飲食・物販店のほか、駅から観光スポットまでの移動に利用するタクシーなどで、関係機関は東北各地でキャッシュレス決済の説明会を開催。中小店舗も導入しやすい環境づくりに取り組みます。キャッシュレス化はコロナ禍収束後にも、訪日外国人旅行者の受け入れ環境整備につながります。

「TOHOKU MaaS」は移動や観光をシームレス化

管内を8エリアに分ける「東北MaaS」のエリア=イメージ=画像:JR東日本

交通の情報基盤の観光MaaSも、東北観光の未来を開く鍵。JR東日本は静岡県伊豆エリアのほか、群馬県前橋市、福島県会津若松市などで新しいモビリティ(移動手段)の実証実験に参画しており、そうした蓄積をDCに生かします。

東北DCでは、移動手段や観光などの検索から予約や決済(支払い)までを一連の流れで行えるサービス機能を備えた「TOHOKU MaaS(東北マース)」を構築。各地の自治体や交通・観光事業者などの協力を得て、スマートフォンで東北6県の主要観光エリアをシームレスに周遊できるようにします。

主なサービスとして、旅行計画支援、オンデマンド交通の予約・決済、デジタルチケット――などが予定され、宮城県内で先行実験された「TOHOKU MaaS 仙台・宮城 trial」の知見も活用します。新規会員登録者3万人、交通デジタルチケットの販売枚数3万枚、アクティビティデジタルチケットの販売枚数3万枚と、〝3並び〟の目標を設定します。

吉永小百合さんが東北の各地を映像でPR

JR東日本の大人の休日倶楽部CMの「東北総集篇」イメージ 画像:JR東日本

JR東日本のDCや東北観光PRでは、50歳以上のシニアを対象とした「大人の休日倶楽部」の新しいテレビCM「東北総集篇」が放映されています。倶楽部のメインキャラクターを務める俳優の吉永小百合さんが、震災後の10年間に訪れた東北各地の映像を集めます。

CMには、「これからも旅することで東北を応援したい」の強いメッセージを込めました。放映エリアは首都圏、東北、上信越、北海道で、期間は2月28日までですが、インターネットではその後も見られるようです。

東北・秋田新幹線に「東北DC復興号」運転

鉄道チャンネルの読者諸兄も興味深い列車運転では、東北・秋田新幹線にDCスタート直後の4月3日に「東北DC復興号」(下り東京―新青森・秋田間、E5系10両+E6系7両編成)を運転します。

在来線では、DCのキャッチコピーと同名の「巡るたび、出会う旅。東北号」(仙台発着、4月3~9日の6泊7日)が設定されます。鉄道チャンネルでは紹介済みで、併読いただければ幸いです。

東北観光のレガシーに

JR東日本による東北観光振興策では、2016年から観光オフシーズンの冬季に展開された「行くぜ、東北。」がDCの露払い的な役割を果たしましたが、紙数が尽きたため、紹介はまたの機会に。

震災10年の節目に合わせて展開される東北DCについて、JR東日本や東北観光推進機構は「東北DCは6県6カ月という過去最大の規模で行われます。多くの方々に安心かつ快適に楽しんでいただける仕組みづくりを進め、東北観光のレガシー(遺産)にしたい」と意気込みを語っています。

本稿では触れられませんでしたが、震災で被災した仙台市若林区荒浜地区には2021年3月18日、体験型観光農園「JRフルーツパーク仙台あらはま」がオープンします。JR東日本グループの駅ビル運営会社・仙台ターミナルビルが運営します。 画像:仙台ターミナルビル

文:上里夏生

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