<書評>『ものがたる近世琉球』 身近にある歴史の「入り口」

 近世とは歴史時代区分の一つであり、諸説あるものの、日本史の中での近世は安土桃山・江戸時代を指し、琉球における近世は1609年の薩摩侵攻から1879年の琉球処分の終了までの時代を指す。
 歴史的事象で記すと随分と昔の時代のように感じられるが、おじいちゃんのそのまたおじいちゃんは近世の人、なんて考えると、少し親近感がわく。昔のことではあるが、そんなむかしむかしの話でもない。本書はそのような近世の時代における琉球史をひも解く書籍である。
 近世を対象とした考古学は、メディアで扱われることの多いピラミッドや弥生・古墳時代を扱う考古学などと比べれば、一般的に言えばなじみが薄い分野である。さらに本書で扱う近世における琉球の喫煙・園芸・豚飼育は、さらになじみの薄い分野であると言えよう。
 本書の中で著者は、この三つの文化はいずれも近世琉球で極めて重視され、その後も各地の遺跡に長く認められることができる文化であることから、丁寧に掘り下げていく。歴史考古学の手法を用いて得られた遺跡のデータ、遺物、遺構の研究成果をふんだんに盛り込み、文献資料・民俗資料を活用しながら、琉球の「もの」から雄弁な「ものがたり」を引き出していく様は、同じ近世を対象とした考古学を研究している者として見習いたい限りである。
 まだ分からないことの多い近世琉球だが、著者が本書の中で示している時代区分を、近世を考える上での一つの指標として捉えることができれば、近世琉球を分かりやすく考えることができるのではないだろうか。
 本書を読み終わった後、近世琉球の人々を思い描いてしまう、そんな妙に読者は捉えられるだろう。見慣れたタバコや園芸などが、少し違って見えてきてくれれば、本書はその大きな目的を果たしたと言えるのではないだろうか。私たちの身近にあるものが、実はどんなものでも歴史を考える入り口になる、そんな考えるヒントを私たちに伝えてくれる書籍である。
 (吉田健太・那覇市市民文化部文化財課主任学芸員)
 いしい・りょうた 1979年千葉県生まれ。城西大学経営学部准教授。著書に「島瓦の考古学」「近世琉球王国と東アジア交流」「『近世琉球』の考古学研究」。

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