「タイガースの誇りと責任を」新設の女子チーム率いる球団OB監督が目指す姿は?

「阪神タイガースWomen」の監督を務める野原祐也氏【写真提供:阪神タイガース】

阪神で4年間プレー、野原祐也監督が見出す可能性「伸び代だらけ」

阪神が立ち上げた女子硬式野球クラブチーム「阪神タイガースWomen」が2月11日に鳴尾浜で全体練習をスタートさせた。NPB球団の女子クラブチームとしては、昨春発足した西武ライオンズレディースに続いて2チーム目になる。初代メンバーは、セレクションで選ばれた20~31歳の17人。女子野球の普及振興を目的にしたチームが目指す姿とは? 球団OBでもある野原祐也監督に話を聞いた。今回は前後編の後編をお届けする。【石川加奈子】

2月11日の全体練習で初めて指導した野原監督は、前途に明るい未来を見出した。「伸び代だらけだと感じました。話を聞いても、(選手たちがまだ)やっていないことや知らないことがたくさんありますから。本当に伸びていくんじゃないかと思います」とうなずく。女子プロ野球からの移籍組は8人で、残りの9人は大学やクラブチームでプレーしていた選手。平均年齢23.8歳と若いチームには、プロの本格的な指導者のもとで才能を開花させる可能性が詰まっている。

国士舘大からBCリーグ・富山を経て2008年の育成ドラフト1位で入団した野原監督が持っている指導の引き出しは多い。阪神では1年目に支配下登録され、4年間で1軍の試合出場は22試合に終わったが、その後は富山で選手兼任コーチとして指導者の一歩を踏み出した。

「タイガース時代に学んだ技術や戦術を生かして指導にあたってきました。社会人時代は、野球だけではなく、会社や地域の応援してくださる方々に支えられているということを選手たちと共有しながらやってきました」。2017年には、現DeNAの2軍投手コーチの大家友和氏がGMを務める社会人野球の「OBC高島」の監督に就任。昨季まで指揮を執り、2019年の全日本クラブ選手権では準優勝に導いた。

滋賀県高島市に拠点を置くクラブチームを地域から愛されるチームに育て、結果を残した手腕が評価された。「現役時代に何もチームに貢献していなかった私に声をかけていただいて本当に感謝しかないです。期待に添えるよう一生懸命頑張りたいと思います」と、阪神からの監督就任要請に応えた野原監督。OBC高島の関係者や大家コーチからも激励を受けての新たなスタートだ。

理想は、選手を良い方向に導く指導者。「ポジティブにすることが一番重要だと思いますので、選手に寄り添いながら、時には厳しく、選手とともに成長していきたいと思っています」と初めての女子指導に意欲を燃やす。

前人未到の500安打を達成した三浦伊織が主将「他の選手も勉強に」

実は、今回の女子チーム創設の話が持ち上がる前にも、女子野球に接する機会があった。「2018年頃だと思いますが、埼玉の実家に帰省した時にたまたま近くで女子プロ野球が開催されていたので、どんな感じなのかなとふらっと見に行ったんです。埼玉対愛知の試合は僅差の試合で、すごく楽しかったことを覚えています。ヘッドスライディングを見て、ビックリしました」と懐かしそうに振り返る。

女子野球普及を第一義に掲げ、女子選手から目標とされるチームを目指す。「タイガースの一員であることに誇りと責任を持ちながら、技術はもちろん、野球に対して真摯に向かい合う姿勢を大切にして、少年少女にとって見本になれるようなチームにしたいと思っています。まずは元気で明るい雰囲気のチームに」と語る。

その先頭を走るべきチームの主将には、女子プロ野球のレジェンドで、前人未到の500安打を達成した三浦伊織外野手を指名した。「取り組む姿勢が素晴らしく、他の選手も勉強になると思います。一からチームを作る中で、雰囲気を作ってくれて、いい影響を与えてくれ、力になってくれています」と全幅の信頼を寄せる。野手では最年長の28歳だが、ランニングメニューでもトップでゴールする姿に「さすがだなと感じました」と目尻を下げる。

いずれどこかで実現することになる西武ライオンズレディースとの一戦は、野球ファンのみならず、世間の関心を引き寄せるはず。「女子野球界を盛り上げて、普及につながるように頑張っていきます」と野原監督は声を弾ませた。

現在、オフィシャルスポンサーに1社、パートナーに4社、サポーターに1社が名乗りを上げ、反応は上々だという。オフィシャルスポンサーの上新電機(大阪市)は、プレスリリースで「今回の女子硬式野球チームの発足は、球界にジェンダーを越えた新たな風が吹くと歓迎しています」と発信している。女性の活躍を後押しする阪神の新たな取り組みは、今後も各方面から注目を集めそうだ。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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