英空母とクアッドの共同訓練を提案する|太田文雄 英空母部隊の東アジア来航時、これにドイツ海軍のみならずフランス海軍も加わったら、英仏独というNATO主要海軍国が揃い踏みすることになり、クアッド(日米豪印4カ国)との共同訓練で中国に対しては強烈なメッセージを発することができる。

英国のジョンソン首相は昨年11月、最新鋭空母「クイーン・エリザベス」が英国や同盟国の部隊を率いながらインド洋、東アジア地域に展開する計画を発表した。その背景には1985年の英中共同声明に違反して香港を中国共産党体制下に置こうとする習近平政権に対する反発があるものと思われる。

この予行演習として、昨年秋に同空母は英空軍のF35B短距離離陸・垂直着陸機5機に加え米海兵隊の同機10機を搭載、北大西洋条約機構(NATO)13カ国の駆逐艦、フリゲート艦、潜水艦と共に演習を行っている。

英空母部隊がインド洋や東アジアに展開する場合には、この地域に海軍兵力を展開する意図を表明しているドイツ海軍も参加する可能性がある。その際、日米豪印4カ国(クアッド)の海軍は共同訓練を行い、中国の海洋進出を牽制すべきであろう。

中国の西を塞ぐ

東アジアに展開する英空母部隊の艦載機F35Bは、山口県岩国にある米海兵隊航空基地に降りて整備・補給を行うことになるであろうが、将来F35Bを搭載予定の海上自衛隊ヘリ搭載護衛艦「ひゅうが」が英空母来航時に飛行甲板や誘導灯等の補修を終えていたら、発着艦訓練を行うと良い。

地政学的に中国を包囲する場合、クアッドでは西方に中国の逃げ道があった。これまで中国は、西に橋頭堡を確保しようと中東欧17カ国との枠組み(17プラス1)を構築してきた。しかし、17カ国の中にはNATO加盟国が多数ある。そこで、仮に中国海軍が英空母部隊に手を出したら、NATO諸国は集団的自衛権の下に結束し、中国の欧州分断の目論見は挫折するであろう。

2015年に英国が中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を表明したことにより、欧州諸国は雪崩を打ってAIIBに参加する事態となったが、そのような状況は今や完全に変わった。

独仏海軍参加の可能性も

19日、フランスのパルリ国防相は仏紙フィガロとのインタビューで、フランス海軍の原子力潜水艦エムロードを南シナ海に潜航させたことを強調した。フランスは仏領ポリネシアやニューカレドニア等を太平洋に保有しており、その排他的経済水域に中国が進出していることに懸念を有している。中国が南シナ海で行っているような国際法違反を野放しにしたら、いずれは太平洋の自国領土にも波及する可能性があることから、今回の原子力潜水艦派遣に踏み切ったものと思われる。20日には九州西方で仏フリゲート艦プレリアルと海自、米海軍が共同訓練を行った。

英空母部隊の東アジア来航時、これにドイツ海軍のみならずフランス海軍も加わったら、英仏独というNATO主要海軍国が揃い踏みすることになり、クアッドとの共同訓練で中国に対しては強烈なメッセージを発することができる。(2021.02.22国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)

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