地方創生SDGs国際フォーラム2021「地方創生SDGsの深化に向けて 国内外の連携を通じた持続可能な発展に向けた取組の加速化」開催報告

「地方創生SDGs国際フォーラム2021」が内閣府、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム共催により、2021年1月14日にオンライン開催された。フォーラムは、SDGsの達成に向けた取組の加速化と、国内外の地域経済の活性化に向けた取組の裾野の拡大を目指して開催され、国内・海外から1000名を超える参加者が視聴した。国内の登壇者のみならず、ドイツ・ボン市市長、マレーシア・クアラルンプール市市長、スウェーデン駐日大使、インドネシア・西ジャワ州知事も登壇し、国内外の視点を交えながら、日本の地方創生SDGsの現況や海外都市の先進事例、また日本企業が海外のSDGs課題解決に向け進出している事例等について意見を交わした。(横田伸治)

※フォーラム開催の様子は 「地方創生【内閣官房・内閣府】」のYoutubeチャンネル からご覧いただけます。
(2月中旬以降にアップロード予定です)

「連携を軸としたSDGsの目標達成に向けた取組による地方の活性化を」

坂本 哲志・内閣府特命担当大臣 (地方創生担当)
北橋 健治・地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会長(北九州市市長)

冒頭で、内閣府・坂本哲志地方創生担当相は「地方創生をさらに推進していくためには経済・社会・環境の3側面の相乗効果がますます重要になる」とした上で、「本フォーラムを契機に、地域におけるSDGsの取組がさらに加速されるとともに、国内外の連携によりSDGsの推進を図ることで、ひいては日本の地方創生に繋がることを期待する」と述べた。

また地方創生SDGs官民連携プラットフォーム会長の北橋健治・北九州市市長も「持続可能なまちづくりの重要性は増している。ローカル版の官民連携プラットフォームを持っている自治体もあるので、活用してほしい」と官民連携によるSDGsの課題解決に向けた取組の発展を願った。

地方創生SDGsの新たな展開

村上 周三・一般財団法人建築環境・省エネルギー機構 理事長

基調講演では、まず自治体SDGs推進評価・調査検討会や地方創生SDGs金融調査・研究会(いずれも内閣府)の座長を務める村上周三・建築環境・省エネルギー機構 理事長による講演が行われた。

政府による「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」を受け、「地域経済の活性化をいかに実現するか?」という観点に立ち、そのための枠組みとして「自律的好循環」と「金融フレームワーク」等を示し、地方自治体、民間企業、地域金融機関の連携による取り組みにより「稼ぐ地域を創出する」ことの重要性を説いた。

また、新型コロナウイルス感染症への対策と自治体におけるSDGsの取組は、方向性が近しいと述べ、コロナ対策とSDGsの連携によりトレードオフの緩和とシナジー効果を最大化することが重要であることを示した。

「SDGs達成に向け、より総合的な戦略が必要」

Ms. Katja Dörner・ドイツ ボン市市長

「2020年は世界中の都市にとって非常に困難だった。しかし、SDGsを達成する努力を減速することはできない。私たちの戦略はより総合的なものである必要があることが明確になった」。そう力強く呼びかけたのは、SDGsの中心都市とされるドイツ・ボン市のカーチャ・デルナー市長。

同市長はSDGsの取組の推進に関し、「SDGsのターゲットのうち多くが、都市や地域の参加・取組なしには達成できないものであり、その中で、都市間の国際協力や交流、学び合いは重要な役割を果たすこと」などと説いた。

続いて同市担当者が具体的な取組を紹介。2020年10月に発表した、それぞれの持続可能性戦略をモニタリングし、政策決定に生かすためのVLR(Voluntary Local Review:自発的自治体レビュー。自治体が自発的に自身のSDGsへの取組状況をレビューし、その結果を他自治体と比較可能なものにしたレポート)について説明し、SDGsに関して信号機をモチーフとした評価で進捗を可視化するなどの工夫が披露された。

コロナ禍におけるSDGsの動向

蟹江 憲史・慶應義塾大学大学院教授

基調講演の最後の登壇者は、蟹江憲史・慶応義塾大学大学院教授。「コロナ禍におけるSDGsの動向」と題し、新型コロナウイルス感染症とSDGsの関係を発表した。新型コロナウイルス感染症の影響により、減少傾向にあった世界の貧困が増加に転じたこと、デジタル情報へのアクセスの可否が教育の格差に繋がっていることなどが、国連の持続可能な開発目標(SDGs)報告書2020で指摘された点を挙げ、「コロナの影響がSDGsにとって大きな足かせになっている」と危機感を示した。一方で、新型コロナウイルスからの回復においてSDGsの活用が有用であることなども示し、変革に向けた契機ともなることを紹介した。

大企業のみならず、中小企業でもSDGsの目標を企業の事業活動や経営目標に活用する事例も増えてきているなど、企業のSDGsの捉え方の変化についても言及した。最後に蟹江氏は「『今こそSDGs』。コロナ禍だからこそ、SDGsが、企業活動を持続可能にする鍵になる」と締めた。

セッション「地方創生SDGsの深化~先進都市の事例から~」

午後には事業者や自治体関係者によるセッションが2タームに分かれて行われた。ひとつめのセッションでは基調講演を行った村上氏がコーディネーターとなり、宮城県石巻市の亀山紘市長、クアラルンプール市のマハディ・チェ・ンガ市長、駐日スウェーデン大使館のペールエリック・ヘーグベリ大使、地球環境戦略研究機関(IGES)の藤野純一上席研究員の4名がパネリストを務めた。各々の現状や課題を共有した後、「地方創生SDGsの深化」をテーマに国内外の先進事例について意見が交わされた。

上列左から亀山 紘・石巻市市長、Mr. Pereric Högberg・スウェーデン駐日大使、Mr. Mahadi Che Ngah・マレーシア クアラルンプール市 市長。下列左から藤野 純一・公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)上席研究員、コーディネーターの村上 周三氏

まず2020年にSDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業に選定されている石巻市の亀山氏が取組を紹介。使われなくなったハイブリッド自動車から取り出した基幹ユニットを電気自動車として再活用し、地域高齢者向けの新たな移動手段として利用するなど、環境に配慮しつつ地域経済を活性化する事業内容を発表したが、それらの根幹にあるのは今年で発生10年となる東日本大震災であったという。

「未曽有の大震災からの復興、さらなる発展のために、『おたがいさま』の声があふれる地域に」との言葉に表されるように、地域内で事業サイクルを回していく中で、被災地のコミュニティそのものを再構築していく決意を語った。

続いてマハディ氏は、クアラルンプール市が実施している新型コロナウイルス感染症対策が地域の発展にとって好影響を与える部分も多くあることを示した。

ゲリラ豪雨、洪水、突風など都市部での二酸化炭素排出による地球温暖化の影響を挙げ、カーボンニュートラルシティ及びスマートシティへの移行に向けた取組を発表。都市内の農園造成や、公共交通バスのバイオディーゼル化、雨水貯留システムの構築などがすでに実践されているという。「人類には強い決意があり、新型コロナウイルス感染症や地球温暖化の克服に向けた解決策を見つけられると信じてやまない」と意欲を見せた。

一方、ヘーグベリ氏は、国連のレポートでスウェーデンがSDGs達成度ランキング1位とされたことを紹介しつつ、引き続き「縦割り思考から脱却し国内外のパートナーシップを築きながら、官民連携で取組んでいくこと、また一人ひとりがSDGsを自分事としていく責任が不可欠だ」と強調した。先進事例として、鉄鋼業で栄えた北部のシェレフテオ市がグリーン産業の電池の製造工場を誘致し、住居・学校・文化を包括しながら市経済を活性化させている取組を示した。

藤野氏は改めて、IGESが中心となってけん引してきたVLRの概要を説明し、ゴールに向けた達成状況だけでなく、「SDGsと政策の統合」「環境・社会・経済の3側面の統合」なども評価指標として重視される点に言及。2018年の国連ハイレベル政治フォーラムで北九州市・富山市・下川町のVLRレポートが世界で初めて公表されて以降、世界的にVLRの意義が増してきており、IGESのウェブサイト上に設置した「VLRラボ」には現在までに世界約20都市のレポートが掲載されているなど、VLRが普及してきている現状を語った。

コーディネーターの村上氏は各パネリストに「取組のさらなる深化」「地域の活性化及び連携による取組の重要性」について問いをぶつけた。

これに対し、亀山氏は「実際にPDCAサイクルを回していくこと、そして外部による評価・検証を受けることが大切」、「経済的側面として新たな産業の創出、社会的側面として地域住民の交通手段の確保、環境的側面として二酸化炭素排出量の削減の3側面を統合した取り組みを域内外のステークホルダーとの連携により進めている」と紹介した。

マハディ氏は「現在多くの住民が失業していることが市最大の問題。より多くの中小企業がオンラインなどで事業活動ができることが大事であり、起業の承認までを3日間で行えるように迅速化を図った。このようにコロナ禍でも経済活動を止めないことが重要である。

誰一人取り残さない都市を目指し、その中で多くのステークホルダーと連携し、全員が主体となって取組を進めている。取組を進めていくためには、多くの住民の理解を得る必要がある」と述べた。

ヘーグベリ氏は「SDGsへの取組は企業の戦略の中核に据えるべきものであり、一部署だけで担当するものではない。今後、企業が成長を遂げていくためには、経済的に実行可能なイノベーションを起こしつつ事業活動としても成功することが大切である」とし、続けて「SDGsはすべての個人が自分事として捉え活動しなければならないが、日本ではまだ官庁が取組の中心となっている。例えば『購入する食料品のトレーサビリティを日ごろから確認する』というように、個人の責任にもっとフォーカスしたらよいのでは」とアドバイスを送った。

藤野氏は「まずは小さくとも成功モデルを作ること。それを、研究やビジネスの支えを得ながら横展開させていくべき」「日本の自治体では総合計画を策定しており、その中で経済・社会・環境の3側面についても触れられているので、SDGsに近しい取組を既に進めている。そうした意味で今後VLRをより進化させていく過程において、日本の自治体が先導的役割を担える可能性がある」と今後の展望を述べた。

コーディネーターの村上氏は「クアラルンプール市やスウェーデンの事例を聞いただけでも、日本にはないダイナミックさが窺えた。世界を見渡せばより多様な取組があるはず。今後は事例の共有に加え、VLRを活用しつつ達成度を把握することが促進されれば、国内の取組も一層進むのでは」とセッションを締めくくった。

セッション「地域企業による海外のSDGs達成へ向けた課題解決を通じた地方創生」

上列左から江川 穰・株式会社バイオテックジャパン代表取締役社長、中澤 慶一郎・独立行政法人国際協力機構(JICA)理事、曽根 一朗・独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)理事。下列左からコーディネーターの北廣 雅之・内閣府地方創生推進事務局 参事官、寺山 文久・株式会社ネオナイト 代表取締役社長

次のセッションでは、海外に進出している事業者や、その支援に携わる関係者らが登壇した。コーディネーターは内閣府地方創生推進事務局の北廣雅之参事官が務め、JETROの曽根一朗理事、JICAの中澤慶一郎理事、バイオテックジャパン社の江川穰社長、ネオナイト社の寺山文久社長がそれぞれの視点や経験を共有した。

バイオテックジャパン社は新潟県阿賀野市に所在し、低たんぱく・低糖質食品の開発などを手掛ける。江川氏は同社がJICAの支援を受けながら、フィリピンに事業を拡大し、現地の生活習慣病等の課題解決に繋げるとともに、現地の米の高付加価値にも貢献するなどSDGsに関連の深い取組に至った経緯を紹介。海外展開には大変な部分もあるが、それ以上に事業活動の拠点を海外に持てること、新事業を進める人材や経営者マインドを持った社員の育成といった面で海外展開を行う価値は大いにあるという。

「海外展開で肝要なことは?」と質問を受けると、「気持ちが通じることが大事」と断言し、「現地で幹部社員を採用し、現地の事業の中心となってもらう。その社員が頑張って事業を進めていく姿勢が現地のステークホルダーに響く」と語った。

島根県松江市に本社を置くネオナイト社は、島根県の地域資源であるゼオライトを利用した技術により、水・土壌に加え放射性物質の除染などの処理を行ってきた。また南米などで事業展開や人材研修を実施し、住み続けられるまちづくりなどSDGsにも関連する取り組みを進めている。寺山氏は「日本企業の技術が海外でも活用できると確信した」と当時を振り返り、海外に目を向けて進出を始めたきっかけについて、「中南米での視察の際に都市排水などの問題を見て、『公害病を経験してきた日本の技術を活用できないか』と感じ、現地の日系人のコミュニティの支援を受ける中で海外への展開が実現した」と思いを語った。

また、JETROやJICAの採択の審査を受けることが、「自社の事業や取組を客観的に見る」ことにもなると、重要性を説いた。

曽根氏は、国内外120カ所を超える事務所や情報センターなどのJETROが有するネットワークを生かし、スタートアップ企業がグローバルに展開する際の関係機関との連携促進を行ってきたこと等を説明。さらに、コロナ禍で海外ビジネスが停滞する中、オンラインを活用した商談支援や、支援機関が集う「新輸出大国コンソーシアム」を活用して中堅・中小企業の海外展開を支援する取組を紹介した。「巣ごもり需要によりeコマースが伸びている」という中で、B to Bに加え、B to Cのeコマース力を入れていることも強調した。

さらに「海外展開に関しては、1社での単独の海外進出も重要な一方、県レベルやさらに広域な地域で一緒になってブランド化し、海外進出を図ることで地域経済の活性化に大きな効果をもたらすことができる」とも述べた。

中澤氏はJICAの取組に関して、国内全47都道府県での支援制度の紹介とともに、具体的な事例を紹介。JICAと連携する企業側のメリットとして「現地の政府や公的機関とJICAとのネットワークを利用できる。その他にも、日本企業の技術、製品を、どんな途上国の何に利用できるか、という点で、JICAのネットワークやノウハウを利用できる。地域企業をファシリテートし、マッチングできることもポイント」と述べた。

企業の海外展開による効果として「同じ地域内の他の事業者についても海外進出に興味を示すことも多い」と、地域経済への波及効果についても言及した。

コーディネーターを務めた北廣氏は「海外のSDGs達成に向けた課題解決に向けて、地域の資源や企業の技術を活用することで、地域の活力の向上に繋げることができる。海外の展開には様々な支援も整っている上、海外展開は自社の変革、地域の活性化のチャンスにもなる」とまとめた。

地方創生SDGs国際フォーラム2021 総括

今回のフォーラムを総括し、村上氏から次の4点が示された

〇政府による地方創生SDGsの施策は順調に進展し、取組の裾野が着実に拡大している。全自治体の約40%がSDGsに取り組み、「SDGs未来都市」として93都市が選定され、「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」への参画団体は4000を超えるに至った。

〇SDGsによる経済・社会・環境の統合的取組により、3側面における地域の活性化が進展している。まち・ひと・しごと創生総合戦略に掲げられる“稼ぐ地域”の創出に向けて、地域経済活性化のための自律的好循環や金融フレームワークの整備、官民連携の仕組みが具体化している。

〇自治体におけるSDGsの取組の成果を海外の関連団体と共有するため、内外の企業・自治体による国際連携の活動が具体化し、国際貢献が活性化している。これらの活動は、翻って各地域の多面的な発展を促すものとなっている。

〇新型コロナウイルス感染症対策とSDGsの取り組みは、持続可能な社会の構築という目標を共有しているという認識の下に、連携して取組む動きが具体化しつつある。「新しい日常」への転換を目指す取組は両者に共通するものと位置づけられ、これらの取組を通して従来とは異なる新しい自治体の在り方が明らかになりつつある。

SDGs活用・官民連携の優良事例を発表

フォーラムでは、地方創生SDGs官民連携プラットフォームの優良事例(昨年10~11月募集、90団体96事例が応募)も紹介された。選ばれたのは以下の5事例。

◎2020年7月の熊本豪雨で、位置情報を利用したサービスでスピーディーな罹災証明書の発行を可能にしたUPWARD株式会社

◎フードロスと子どもの貧困の解消を目指し、子ども食堂への寄付付き非常食をPRした一般社団法人子ども食堂支援機構

◎産官民連携による滋賀県のSDGsビジネスモデルを策定した「滋賀SDGs×イノベーションハブ(愛称:しがハブ)

◎官民連携でのSDGs推進企業登録制度を打ち出した長野県

◎地域事業者を活用して北陸地域地方公共団体の完全LED化事業を手掛ける北陸グリーンボンド株式会社

※優良事例を含めすべてのご応募いただいた事例は、次のURLよりご覧いただけます。
 https://future-city.go.jp/platform/case/

海外自治体からのメッセージ放映や関連イベントも実施

フォーラムの開催に際し、インドネシア・西ジャワ州のリドワン・カミル知事の西ジャワ州のSDGsに関連する事例を交えたメッセージの放映に加え、関連イベントとして3つのイベント――「消費者志向経営で目指す地方創生(消費者庁主催)」、「SDGsに先進的に取組む都市の事例等に関する分科会(内閣府主催)」、「JETRO、JICA担当者および海外展開企業担当者による分科会(同)」――も開催された。

セッションの間には、インドネシア 西ジャワ州知事のリドワン・カミル氏よりフォーラムへのメッセージが送られた

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