地球が最大のステークホルダー:サステナブルな社会づくりにおける不動産業界の使命とは――岡本勝治 三菱商事・ユービーエス・リアルティ代表

岡本勝治 三菱商事・ユービーエス・リアルティ代表

岡本 勝治(おかもと かつじ)

三菱商事・ユービーエス・リアルティ株式会社代表取締役社長。1989年三菱商事株式会社入社後、海外建設プロジェクト経理や国内外プロジェクトファイナンス業務経験を経て、2001年より不動産金融事業へ携わる。アルゼンチン、シンガポール、イギリスでの海外赴任経験あり。2004年から2008年には私募ファンド運用会社出向し、2011年から2017年までの当社非常勤取締役に就任を経て、2019年2月より現任。

「不動産業界は、持続可能な社会構築に貢献できる要素を数多く持っている。だからこそ、意義ある施設、場所づくりをしていきたい」。そう語るのは、岡本勝治 三菱商事・ユービーエス・リアルティ(東京・千代田) 代表。不動産ファンドとして、商業施設・産業施設・オフィスビルの資産運用を通して、人々に新たな価値を提供してきた同社が考えるサステナブルなまちづくりとは。「循環」をテーマにしたフードホール「GYRE.FOOD」(ジャイルビル 4F・表参道)にて、同社が考える環境型社会構築への役割と可能性について話を聞いた。(笠井 美春)

「サステナブルな場づくり」から、新たな思想、視点の発信を

――世界的にもESG投資への関心が高まっていますが、三菱商事・ユービーエス・リアルティ(以下、MCUBS)のESGへの取り組みについて教えてください。

岡本勝治氏(以下、敬称略):MCUBSのスポンサーである三菱商事とUBSは、2000年の当社設立当初からESGに関心を持っていました。特に欧州の金融機関であるUBSは積極的な姿勢を見せており、その影響もあって当社は2013年にPRI(国連責任投資原則)に署名しています。それ以降も、自社にてサステナビリティ委員会のさらなる組織化を図り、2020年には副社長を最高サステナビリティ責任者(CSO)に任命するなど、投資運用活動にサステナビリティの視点を取り入れていくことを強化しています。

特にここ2,3年で、欧州以外のアジア、米国などの市場でもESGに対する関心が高まっています。環境系ファンドや、ESG経営に注力する企業への投資を掲げたファンドを設立する動きも活発化していますし、投資する側、投資される側ともに、事業活動自体にサステナビリティを積極的に取り入れようとする動きがあります。

当社としては、そういった社会的関心の高まりに追随するのではなく、より長期的な視野を持って、循環型社会を生み出す場づくりを主唱し、新たな思想や視点を、広く社会へ発信していきたいと考えています。

建物全体から「循環」を体感し、持ち帰ることのできる施設を

――「循環型社会を生み出す場」とはどのような場所なのでしょうか?

表参道のファッション複合ビルGYRE(ジャイル)

岡本:例えば、このビル、「GYRE」(ジャイル / 東京・表参道)もその場のひとつだと言えます。「GYRE」は2007年の竣工当時から、「SHOP&SHINK」というコンセプトで、新たな発想を生み、意思を持った消費活動を促す場所となることを掲げてきました。4Fにあるこちらのフードホールは2020年1月にリニューアルオープンしたのですが、テーマは「循環」。内装に土や木をふんだんに使用し、「全ての有機物は土に還る」というコンセプトで安らぎと落着きのある空間になっています。

また、訪れたお客さまに、食事をすることで「循環」を体感し、その取り組みに関わっていただけるよう、セントラルキッチンを採用して設備をシェアし、廃棄食材をコンポストで肥料化してテラスで野菜を育てるなど、設備運営そのものに「循環」を取り入れています。

以前は、商業施設の価値は物質的充足や「日本初」などの特別感にあると考えられていましたが、近年その価値観が変化し、「心地よく、楽しく過ごすことができるか」という点に重きが置かれるようになっています。この時代において私たちが目指すのは、心地よさを体験していただくこと、それを支える思考とサステナビリティにつながる取り組みを発信していくことです。

このフードホールを訪れ、ゆったりと心地よく食事をする。その行動自体がサステナビリティにつながり、新たな気づきとなって、人々の生活に溶け込んでいく。そういった「循環」を作り出すことこそが、私たちの存在意義なのです。

GYRE4階「GYRE.FOOD」は床・壁が土に覆われた空間 ©DAICI ANO

――テーマの実現においては、各テナントとも足並みをそろえる必要があるのではないでしょうか?

岡本:どの施設においても言えることですが、テナントやサプライヤーの皆さんは、施設をソフト面で形づくる大切な存在です。ですので、その協力なしにはコンセプトの具現化はなし得ません。だからこそ、ここ「GYRE」では、一緒に持続可能な社会づくりに取り組んでいただける方に集っていただいていますし、ときには、テナントの方から「こういった取り組みはできないか」とサステナビリティへの取り組みをご提案いただいたりもしています。

再生可能エネルギー100%で運営している「MARINE & WALK YOKOHAMA」(神奈川県・横浜)や、公園をテーマにした「mozoワンダーシティ」(愛知県・名古屋)でも、テナント皆さんに、私たち環境に対する思いを説明しています。そのうえで、廃材を利用したエコバックの作成や竹ストローの使用、フードバンクへの寄付などを協働して行い、来場される方々にサステナビリティの重要性についての発信をしてきました。

テナントの皆さんにおいては、当施設での活動を経て、その考えや施策をそれぞれの企業に取り入れるなど、サステナビリティの波が広がることを期待しています。

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人々の生活に深く関わる「不動産」を扱うからこその、責任と期待

――商業施設、オフィスビル、産業施設では、それぞれどのようなESGへの取り組みがなされているのでしょうか?

岡本:日本における全CO2排出量のうち、約6割は、建築物を建設・使用することで発生するといわれています。当社が運用する投資法人は、商業施設に特化した日本リテールファンド投資法人(以下JRF)、産業用不動産に特化した産業ファンド投資法人(以下IIF)、そして主としてオフィスビルを投資対象とするMCUBS MidCity投資法人(以下MMI)の3つ。すべてにおいて建物を扱っているからこそ、循環型社会への責任を強く認識しています。

まず、商業施設においては先にも述べたように、セントラルキッチンを採用する、廃材を活用する、再生可能エネルギーを使用するなど環境負荷を軽減する選択をしてきました。また、オフィスビルについても、CASBEEスマートウェルネスオフィス評価認証を取得し、働く方々の健康と快適性に配慮しています。近年では、入居企業の中でもサステナビリティへの関心が高まり、夏には一緒に打ち水をするなどのESG関連イベントを開催する機会も多くなりました。

産業施設においては、倉庫内の照明をLEDに変更していただくための支援策を講じたり、最近では、大田区にある工場アパートへの投資なども行っています。大田区にはものづくりの集積地として小さな工場がたくさんありますが、老朽化した各工場を自己資金で建て替えるのは困難です。

これを解決するために誕生したのが「工場アパート」です。ひとつのビルに各工場がテナントとして入り、労働環境や環境負荷の改善を行うことで、社会課題を解決しようというものです。同社は、こういった案件に投資することで、環境関連課題はもちろんのこと、雇用創出や産業の継承などにも寄与してきました。

――今後、不動産ファンドとして、サステナブルなまちづくり、社会づくりにどのように取り組んでいきたいと考えていますか?

岡本:不動産業は、社会における生活や産業の基盤を扱っています。人々の暮らしに深く関わっているからこそ、その影響力も大きいはずです。まずは、そのことを認識し、手掛ける施設のあらゆる面にサステナビリティの視点を取り入れていきたいと考えています。

私たちが手掛けるサステナブルな施設に集い、利用することで、誰もが循環型社会への理解を深め、寄与できる仕組みづくりを行う。そしてそこから循環型社会の構築をしていく。これこそが、不動産ファンドとしての私たちの役割なのではないでしょうか。

「人が集まる場所」からメッセージを発信し続けることは、人々に気づきを与え、考えや行動変容を起こす大きな可能性を秘めているはずです。これを実現するために、これからも、循環型社会への取り組みを「来て、感じて、持ち帰る」ことのできる施設や場づくりを通じて、邁進をしていきます。

最大のステークホルダーは地球である――。私たちはそう考え、あらゆるステークホルダーの豊かな未来のために、事業活動を通した貢献、サステナビリティへの取り組みを続けていきたいと考えています。

写真:高橋 慎一

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