マツダが探る「脱炭素社会」への3つの道

CO2削減が急がれる中、多くは電動化へと舵を切っているかのように見えます。しかし、それが唯一の方法ではない、そう単純には行かないと考え、電動化以外の可能性を模索しているのがマツダです。その可能性とはなんでしょうか?


地道だが、確実な進歩

以前、マツダの“ミスター内燃機関”と言われている天才エンジニア、人見光夫さんが「理論的には内燃機関はまだまだ改善の余地が多くある」と話されていました。周囲は早急なEV化しかない、と賑やかだった頃に、まさに孤軍奮闘、口で言うほど簡単ではないし、内燃機関の効率化についての色々なチャレンジを私達に示して頂き、感動を覚えました。そしていま、マツダが理想的内燃機関に少しでも近づこうということで、まずマツダ3に搭載して送り出したのが「SKYACTIV-X(以下、スカイアクティブX)」エンジンです。

まさに「夢のエンジン」と言われるほど前評判は高かったのです。簡単に言うと「ディーゼルのような高トルクを発生し、ガソリンのような高回転まで心地よくスムーズに回って、燃費もいい」というエンジンですから、期待度は高まります。

しかし、すでに搭載車は発売から1年少々経過しているのですが、今ひとつ元気がありません。現実として、それまであったガソリンエンジンと比較しても、走りが気持ちいいとか、燃費がすこぶるいいといった顕著な差を感じにくかったのです。一方で価格差は60万円を超えるほどでしたから、このクラスを求める一般ユーザーとしては、スカイアクティブXを選択する理由が薄れてしまったのです。

仕様変更によって各部をアップデートしたマツダ3スカイアクティブX

さらにマツダには燃費がいいディーゼルが存在します。スカイアクティブXは「内燃機関の可能性」を示そうとしながら、志半ばといった状況だったわけです。しかし、それで黙っているわけにはいきません。今回、商品改良を断行しました。内容は最高出力を10馬力アップして190馬力。最大トルクは16Nm向上し、240Nmになりました。

実際に走らせてみると、強烈なパワーの向上は感じられません。しかし、とてもフィーリングが良くなりました。アクセルに対する反応の良さ、ソフトウエアをアップデートしたトランスミッションとの連携の良さが実現した、シームレスな加速感はなんとも心地いいです。さらにサスペンションのチューニングも見直したこともあって、走りのしなやかなフィーリングは、より輝いています。

それでも多分、だからスカイアクティブXを選ぼうという、強烈なアピールにはならないかも知れませんが、マツダは“重箱の隅を徹底して突っついて問題をほじくり出して解決するメーカー」だと思います。

内燃機関に小さなアシストモーターを与えて“全車マイルドハイブリッドで電動化しました”というようなお茶の濁し方はしない。最終的にピュアEVを主軸にすることは当然、と理解した上で、現状はまだエンジンの可能性も忘れずに追求することが重要。マツダのアップデートは相変わらず地味ですが、感心させられる点も多くあるのです。

リチウムイオンバッテリーの容量がカギ

内燃機関に対するこだわりだけでは、やはり世間が許してはくれません。この辺でピュアEVに対するマツダとしての答えをひとつ見せなければいけません。そこに投入されたのがリチウムイオンバッテリーの容量が35.5kWhという、MX-30 EVです。

一充電走行距離は、WLTCモードで256kmとなっています。ちなみにこの容量や走行可能距離は都市型EVと言われる「ホンダe」とほぼ同じです。そして日産のリーフe+が62kWhで458kmを可能にしていることを考えると、少しばかり実用面で物足りないかもしれません。

しかし、MX-30EVがこのバッテリー容量を選んだのは、軽量化や“街で使えばいい”という単純なロジックではありません。現状としてEVはCO2 の排出に対して絶対正義ではありません。EVの製造過程、発電などを考慮すると内燃機関のクルマ以上にCO2を排出しているのです。そこでクルマ(製品)のライフサイクル全体を俯瞰した場合のCO2排出量と、実用とのバランスを取りながら、できる限り環境負荷を減らそうとすると35.5kWhが適正だというのがマツダの回答です。当然ですが、この容量ならばクルマは軽くできますし、コストも下がります。

EVのボンネットの下はスカスカ。右側に今度は発電用のロータリーエンジンが搭載される予定です

こうした計画の上で登場したMX-30EVは、先に登場しているマイルドハイブリッドのMX-30と見た目はほとんど一緒です。違うのは電動化技術の「e-SKYACTIV」によって仕上げられたMX-30EV独特の走行フィールです。「EVなんてどれも同じような物」と乱暴な意見も聞こえますが、マツダのセッティングは人に対して非常に優しく、心地いいフィールをもっています。

マイルドハイブリッドにもそれを感じたのですが、EVはその心地よさがさらに向上しているように感じました。交流同期モーターの最高出力は107kW(145ps)/4500~11,000rpm、最大トルクは270Nm(27.5kg-m)/0~3243rpmです。

もっとも印象に残ったのはボディ剛性の高さが実現したガッチリ感です。バッテリーパック自体を骨格として活かしているため高い剛性を確保できたのですが、高速道路でも一般道でも、ガタピシしない上質な走行フィールがなんとも心地いいのです。さらにEVとなったことで重心は下がり、コーナーでの安定感も増しました。

マツダデザインの近未来

確かにMX-30EVの一充電当たりの走行距離は気になるポイントかもしれません。それは仕方のないことなのですが、マツダが次に準備しているモデルがあります。2022年に投入が計画されているのが「発電用ロータリーエンジンを搭載した第3のMX-30」です。レンジエクステンダーといわれる方式ですが、すでに日産のノートやキックスなどでも実現している方式です。

座り心地がよく、疲労感も少ないフロントシート

エンジンを使って発電し、その電力を使ってモーターで走る電動者で、分類はハイブリッドです。一方で走りはモーター独特の滑らかで強力な加速感を楽しみながら、発電の待ち時間も気になりません。そんな選択肢も用意されるわけです。

このようにマツダの電動化はMX-30というモデルを中心に現在は進行していますが、今回のMX-30EVのテストの時、1台のクルマの試乗ができました。それは下肢に障害を持っている人のためのMX-30EVでした。家庭で充電可能となるためガソリンエンジン車のようにセルフスタンドで、いちいち給油のためにクルマを降りる必要がなくなります。

なによりも両開きのドアのお陰でドア開口部が大きく取れるため、大がかりな装置がなくてもリアシートに車椅子をしまうこともできました。さらにステアリングに取り付けたアクセルと左手で操作できるブレーキなど、アイデアがたっぷりとつまったMX-30EV。

下肢に障害があるドライバー向けの開発も行っています。車椅子も軽量なカーボンを使用して試作中

優しい乗り心地と使い勝手の良さから、障害を持っているユーザーの関心は高まると思います。EV、両開きドア、3つのパワートレーン、そしてデザインの良さなどをトータルで見ると、MX-30というモデルは、なんとも魅力的なシリーズといえます。

内燃機関の可能性、電動化への挑戦、そしてすっかり評価が上がったマツダデザインの近未来。今後のマツダにもっともっと注目していきたいと思います。

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