【JRA】蛯名正義が34年間の騎手人生に別れ 独占激白「ファンが注目するようなことができれば」

騎手ラストデーに有終Vを飾り、調教師として新たな人生をスタートさせた蛯名

「エビショウ」として多くの競馬ファンに愛されてきた蛯名正義(51)が28日、34年間の騎手生活に別れを告げた。この日の中山競馬で2勝し、積み上げた勝ち星はJRA史上4位の2541勝。無観客の中で“引退式”を終えた名手は、あふれるファンへの思いを、また調教師としての決意を本紙読者に激白した。

東スポ読者の皆さん、本当にありがとうございました! 蛯名正義は2月28日をもって騎手を卒業し、3月1日から調教師に“入学”します。長い間、応援ありがとうございました。

ファンの皆様に騎手・蛯名正義を34年間応援していただき、励まされ、勇気づけられたことで頑張れた騎手人生でした。それにたくさんの馬たち、馬主さん、調教師、厩舎関係者、牧場、競馬学校の教官、そして“チーム蛯名”としてサポートしてくれたたくさんの方々にお世話になりました。それに騎手仲間にもお礼を言いたい。

そしてやっぱり家族。どんな時も支えてもらったことで頑張れた。この3年間、(調教師)試験を受けるにあたって、いろんな人にお世話になったけど、家族はいつもそばで見ていて、気を使って大変だったと思う。ジョッキーとして活躍していたころよりも相当に大変だったんじゃないかな。

騎手はこれで終わりだと頭では分かっているんだけど、今まで騎手としてのルーティンを続けてきたからね。体に染みついている。自分の中では区切りがついたつもりでも、実感が湧くのはこれからでしょうね。

それにしても最終日に2勝させてもらった。重賞(中山記念=ゴーフォザサミットで4着)は残念だったけど、同じ藤沢(和雄)厩舎の馬(5Rシルバースピリット)で勝つことができて、改めて幸せな騎手人生だったと思います。最後に馬場に一礼をしました。競馬場で馬に乗ることはもうないんだな、もう馬上からの景色は見られないんだと思ってね。スタンドにファンがいるつもりで一礼したんだ。デビュー戦も中山で、卒業もここ中山だったんだ。

騎手の仕事? それは大変だけど、いい仕事だよ。レースに勝って、ワーッと手を上げたらファンがワーッて応えてくれる。コンサートとかで、歌手がワーッと叫んだらファンが応えるようにね。自分はジョッキーにあこがれて、その気持ちを持ち続けたから頑張ってこれた。だから、これからジョッキーを目指す人も、そういう気持ちで頑張ってほしいと思う。

それにしてもここまでたくさんの馬に乗ってきたけど、不思議と勝った時よりも負けた時のほうが印象が強いんだ。日経賞で人気になっていたマンハッタンカフェで負けた時(02年=単オッズ1・2倍の圧倒的人気で6着)なんて、抜け殻のようになっていたことを今でもよく思い出すよ。

矢野進先生(元調教師)には本当にお世話になりました(87年に同厩舎所属でデビュー)。あそこにいなければ今の自分はなかった。当時は(吉田)善哉さん(社台グループの創始者)が元気で、社台ファームの御三家厩舎のひとつだった。そこで修業ができたからね。だから今があるんだ。

引退式には(武)ユタカからビデオメッセージが届いていたね。あの世界最高峰の凱旋門賞に、同期2人が一緒に乗る(※)なんてこともあったね。その時はお互いに“あり得ないよな”って話していたんだ。でも現実にあった。これから先、自分は調教師になるけど、またファンが注目するようなことができればって思うよね。ただ、立場は変わって今度は本当に入学だから、学んで新しい道をつくらないといけない。今までに騎手としてやってきたことが間違っていなかったことも証明したい。

コロナ禍のこういう時期で、簡単に海外に勉強にってわけにもいかないけど、今まではジョッキーの視点でしか見ていなかったから、調教師としてアイルランドやイギリス、アメリカにも行ってみたいな。地方競馬をしっかり見たい気持ちもある。いずれにしてもコロナが終息してからだけど、まずは牧場や馬主さんにしっかりとあいさつをしないとね。明日からは調教師らしい仕事をスタートさせます。切磋琢磨して自分の形をつくっていきたい。力をつけなければ、例えば後進の騎手を育てるなんてこともできないから。人の人生を左右する大仕事だからね。

繰り返して言いたいのは、やっぱりファンあっての競馬だってこと。ファンが競馬場に入れて、競馬を見てもらえる。かつては当たり前のことだけど、それが今はできていないから。無観客はトレセンで競馬をしているみたいで寂しい限りなんだ。だからまた競馬場でファンの皆さんに会えることを楽しみにしています。来られるようになったら、ぜひまた競馬場に足を運んでください。これからは騎手・蛯名正義ではなくなりますが、調教師・蛯名正義をよろしくお願いいたします。ファンの皆さんに喜んでいただける、愛される馬づくりを目指し、一日も早く軌道に乗せていきたいと思っています!

※10年の仏GI凱旋門賞は2着ナカヤマフェスタ=蛯名、7着ヴィクトワールピサ=武豊

☆えびな・まさよし 1969年3月19日生まれ。北海道出身。87年3月1日騎手デビュー。JRA通算2万1183戦2541勝。重賞は129勝(うちGⅠ26勝)。牝馬3冠のアパパネ、天皇賞(春)連覇のフェノーメノなど幾多の名馬を栄光に導き、エルコンドルパサーのJC制覇、凱旋門賞2着など、世界の第一線で活躍した。JRA賞は2001年(最多勝利騎手、最多賞金獲得騎手)、10年(最多賞金獲得騎手)に受賞。

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